第1話:琥珀色の街の郵便屋
この街には、名前がない。
空はいつも琥珀色の夕暮れで、時計の針は止まったまま。ここに来る人たちはみんな、死んでしまった人たちだ。
彼らは、生きている誰かにどうしても伝えたい「最後の言葉」を胸に抱えて、ここへ迷い込んでくる。
私の名前はカレン。
この街で、郵便屋をしている。
私の仕事は、彼らが書いた手紙を預かり、現実世界の宛先へ届けること。
手紙が届いたとき、その魂は未練から解放されて、琥珀色の光と一緒にどこかへ消えていく。
そしてみんな、最後にはすっきりとした顔で消えていくのだ。
でも、私だけは違う。
私だって死んでいるはずなのに、どうしてかこの街で消えることができない。
ポケットには、いつからあるのか分からない、古びた手紙が一通入っている。
――『私のことは忘れて、幸せになってね』
そんな言葉が書かれた、宛先のない手紙。
これが誰への手紙なのか、そもそも私が誰に宛てて書いたのかさえ、思い出せない。
ただ、この言葉のせいで、私はずっとここに縛り付けられているような気がしているのだ。
そして今日も私は、誰かの幸せな別れを見送るために、街の広場へ向かう。
誰かの未練を運ぶたびに、私の胸の奥が少しだけチクリと痛む。
それは、失われた記憶の破片なのか、それとも、とっくに壊れてしまったはずの私の心の名残なのか。
私は今日も、自分のことではない誰かの言葉をポケットに入れ、琥珀色の空の下を歩いている。




