第1話 ナジェの空の下で
セイは木陰で子供たちの歓声を聞きながら、手紙をしたためていた。
相手は親友で同僚のユマスとメイヴィだった。
セイが北部の辺境地帯ナジェに異動になったのは、ほんの五日前。
取りあえず無事に着いたという知らせを送るべきだろうと筆を取った。
『親愛なるユマス、メイヴィ
お元気でお過ごしのことと思います。
私は無事にナジェに着きました。
北部は寒いと聞いていましたが、この時期は意外と温暖で、昼間は汗ばむ陽気です。
魔女信仰は厚いですが、魔女とされる女性が緑眼らしく、都よりずっと緑眼には好意的です。』
セイはその薄い緑色の瞳を子供たちに向けた。
子供たちはカラフルな民族衣装を身に着けてボール遊びに興じていた。
『ナジェは魔女により発展したと村人は信じており、色々と案内してくれました。
川の流れを利用した共同の洗濯施設や、湧き出す高温の温泉を利用した共同風呂や、その蒸気を利用したパン窯などユニークな施設があり、その全てを魔女がもたらしたと説明してくれました。
村人は織物にも優れており、カラフルで緻密な柄の布を織るのですが、それも魔女がもたらしたもので、近隣の街で高値で取引されているそうです。』
セイは歴史好きのメイヴィが喜びそうな話題だと思って1人笑った。
『染物も青の染料を木の実から作るそうで、美しい青に染まります。
そういう技術があるので、村人は特別裕福というわけではありませんが、皆衣食住満ち足りており、穏やかです。』
職場の事にも触れるべきだろう。
『子供たちは優しく純朴で私が諭せば素直に聞いてくれます。
学校の同僚も皆親切で、遠くから来た私を歓迎してくれました。』
セイは続けて何を書こうかと少し悩んだ。
目を上げると雪を被った山々が見えた。
セイは筆を進めた。
『ここは標高が高いせいか、晴れると空が抜けるように青く、山々の頂に積もる雪が美しく映えます。
この時期はあちこちで麦畑がまさしく小麦色に色づき、山や土手が鮮やかな緑色に染まり、大変美しいです。』
この風景を貴方がたにもお見せしたい、一度遊びに来てくださいと書こうとしてセイは筆を止めた。
悪い所ではないが、高級な宿屋もないこんな遠い辺境の地へ中央の官吏がわざわざ休暇を使って遊びに来るなんてあり得ないのだから。
セイは手紙を封筒に入れると、他の報告書と共に官用郵便の袋に詰めた。
民間郵便より3日早く着く。私用の手紙だが1通くらい紛れ込ませても誰も咎めないだろう。
学校の建物に向かいがてら、子供たちに帰宅を促した。




