第10話 お弁当
「それはそうと坊ちゃま、そろそろ昼食の時間ですがどうされますか?」
そう言ったのは落ち着きをとりもどしたエリナさんだ
何故か心なしか肌の艶が良くなった気がする
まぁ、気のせいか。エリナさん元々美人だもんな
言われてみれば朝食も食べてないし、意識するとお腹がすいてきた。
でも、せっかくだし…
「あのさ、お弁当とか用意できない…かな?」
「お弁当…ですか?それはどうしてでしょうか?」
うぐ…理由……
「え~っと、ちょっと一人で庭で食べたいな~。なんて。あっ、お弁当の中に木の実とかもあれば嬉しいかも」
「えぇ、わかりました。では、昼食の準備をしてまいりますので、少々お時間を下さいませ」
「うん解ったよ。ありがとう」
さすがエリナさんだ、単なる僕のわがままを聞いてくれるなんて。
「私も姉さんを手伝ってきますね~」
いそいそとエリナさん達は部屋を出ていき、部屋には僕一人になった。
部屋の外のエリナさん達の話し声がかすかに聞こえる
(「うふふ、今日は外食には良い天気ですね~」)
(「えぇ、そうですね。クリュウ様を見守り隊の皆様にお知らせしなければ。今日は復活初日ですし)」
(「では私は木の実の準備とラグさんに坊ちゃまの誘導をお願いに行ってきますね~」)
(「わたくしは厨房でテンさんと一緒に皆様のお弁当の用意も…」)
(「ところであのラトのことは坊ちゃまにお知らせ…」)
(「いえディア様が目覚められてから…」)
何か話してたみたいだけど扉越しだから内容は解らなかった。
ま、いっか。しばらく待ってたら呼びに来てくれるよね。
んじゃ、それまで本でも読んどくか。
そう思い手に取った本は、よくある勇者を題材にしたおとぎ話の絵本だった
『昔々魔法で栄えていた国がありました。
しかし、ある日悪い魔王が現れて国に悪さをされるようになりました。
国の王様は困ってしまいます。
そこで王様は国の魔法使い達に天からの勇者を呼び出して魔王をやっつけて貰うように命令します。
魔法使いは達は一生懸命に色んなお祈りをしました。
たくさん、たくさんお祈りをして遂には一人の魔法使いの所に勇者は来てくれました。
そうです魔法使いのお祈りが天に届いたのです。
王様は勇者に魔王をやっつけるようにお願いします。
もちろん勇者は快く頷き、お供の魔法使いと二人で魔王をやっつける旅に出かけます。
何日も旅をして、大変な戦いをして勇者は遂に魔王をやっつけます。
そして魔王を倒した勇者はすぐに天へと帰りました。
魔王のいなくなった国は平和になり、ますます栄えることになりました。
めでたしめでたし。』
う~ん、ほのぼのした絵なのにどこかトゲのある文章だなぁ
この絵本を描いた人は実はおとぎ話とか嫌いなのかな?
そうして本を読んで時間を潰して居ると、ドアをノックする音が聞こえた。
「坊ちゃま、お弁当の準備が出来ました」
エリナさんの声だ
「うん、解った。今出るよ」
そう言って本を仕舞い部屋を出た。
「では、お坊ちゃまお弁当と木の実です。厨房係のテンさんには休憩を言い渡していますから後ほどお礼をお願いします」
「うん解った。でもエリナさんも作ってくれたんでしょ?ありがとう!」
僕がお礼を言うと、エリナさんは少し微笑んで
「では、いってらっしゃいませ」
そう丁寧にお辞儀を返してくれたのだった。
この屋敷は建物自体はそれなりの大きさ(“日本人の僕”にとっては十二分に大きい)だけど、山中に建てられている為か、庭がとても広い。
小さい頃から街に出ることが無かった僕にとって、庭は格好の遊び場だ。
庭師のラグ爺さんが屋敷の近くの草木や道を整えてくれているけど、ちょっと道を外れるともう全然場所がわからなくなる。
でも、そうやって道に迷いながらふらふらと歩いていると大抵いつも同じ広場にたどり着くのだ。
「あ、いたいた。ルシェ、久しぶり!会わなかった間は御飯食べれてた?」
そう言って白ラトに話しかけると、彼(はたまた彼女?)は広場の脇の森の中からこちらに駆け寄って、僕の肩にするするとよじ登ってきた。
そう、ここが白ラトの子供ルシェと出会って世話をしている場所だ。
出会った場所だ、と言っても特に劇的な出会いがあったわけではなく、いつも通りここで他の動物達と遊んでいるときに、弱っている白ラトを見つけたと言うだけだ。
ラト種は“地球”で言うネコとリスの間の子みたいな動物で、身のこなしも素早く、木の実を主に好んで食べる。
見つけた時の白ラト、ルシェは人間に怯えていて、とても弱っているのに餌も何も受け取ってくれなかった。仕方ないから家に連れ帰って治療してもらおうと、捕まえてはみたんだけど、急に暴れ出して指を噛まれてしまった。だから、その日は木の実だけをルシェの前に置いて僕は広場から退散したのだ。次の日、ちゃんと餌を食べてくれたのを見て嬉しくなった僕はそれからほとんど毎日ここの広場に木の実を置き続け、やっとの事で僕に懐いてくれたんだ。
初めて目の前で餌を食べて頭を触らせてくれた時は、それはもう天にも昇る気持ちだったのを覚えている。
(……そういえば、晴香ちゃん元気かなぁ)
(いや、それは今“僕”が考えても仕方ないか…)
僕の思い出に“僕”が引きずられてしまった…。反省反省。
で、せっかくこうして懐いて名前をつけたのに、数日前僕が病気で倒れてしまったから、今日までルシェがちゃんと木の実を自力で探して食べられたのか気になっていたのだ。
ルシェはもう元気になったけど、図鑑で調べた限り、白ラトの子供でも特に小さいみたいだ。たぶん親も居ないだろうし、ラト同士の喧嘩で敗れたのか、左目に体の大きさの割に大きくて(僕の中では)カッコイイ傷跡を持っている。自力で食料を確保できるか心配になるのは仕方ないと思う。ただ、この傷跡を見てるだけで、彼が孤高のオスを名乗るのに相応しい一匹獣だと思えて心配は不要なんじゃ無いかと思えるから不思議だ。
「お前の傷跡は何度みてもカッコイイな。僕もいつか付けてみるかな?」
そんな事を喋ってみると、周りの木々が「やめておけ!」とでも言うかのようにざわざわと音を鳴らし始めた
「似合わないのは解ってるつもりだけどさ…」
自然に否定されるって何だか落ち込むなぁ。
とにかく、ルシェは見た限りとても元気そうなので安心した。
「じゃ、これがルシェのご飯だよ?」
そう言って、僕は肩に乗って顔を擦り寄せてくるルシェに木の実を与えてやる。
「で、これが僕の昼ごはん!」
僕は広場の切り株に座って、お弁当を広げた。
「うん。今日もお弁当がおいしい!エリナさんもテンさんもいつもありがとう!せっかくだからルシェも食べてみるかい?」
などとルシェに話しかけ(ルシェはお弁当より木の実の方がお気に入りみたいで無視されたけど)、お弁当を食べていく。
エリナさんも厨房で働いているテンさんもとても料理が上手だから、毎日の食事がとても楽しみだ。
「いつかエリナさんみたいな美人で料理上手な人と結婚できるといいよね!“晴香ちゃん”はあんまり料理出来なかったけど…。僕は割と料理好きだし、そういう人がお嫁さんなら僕が頑張って料理上手になるって事で良いよね?」
こんな人には恥ずかしくて話せない内容でも、ルシェなら喋れるから気が楽だ。
どこか遠くの木々の隙間から(「わた、わたくしとけけけっ、結婚!?いえ、それよりも『ハルカチャン』とはどこのアバズレ女ですか~!!」)何やら木霊の声が聞こえた気がしたけど気のせいなのだろうか。
ここ最近は気のせいが多くて困る。
そんな悩ましい昼のひとときだった。
エリナさんがエロいのではない、作者がエロいんだ。
最近それに気づいた。




