余白
この小説は、誰かを感動させるために書いたわけではありません。
売れたいから書いたわけでもありません。
正直に言うと。
自分のために書きました。
大学三年。
就活。
社会人。
退職。
転職。
友達。
家族。
恋人。
そして今。
振り返ると。
あの時の自分は、ちゃんと生きていたのに。
どこかで、人生を失った気になっていました。
でも違いました。
失ったんじゃない。
見失っていただけでした。
この物語は、そんな一人の人間が、もう一度自分の人生を見つけるまでの記録です。
もし今。
周りと比べて苦しくなっている人がいたら。
もし今。
自分だけ取り残された気がしている人がいたら。
大丈夫です。
たぶんあなたも。
人生の途中にいるだけです。
余白は無駄じゃない。
むしろ。
人生で一番大切な時間なのかもしれません。
第一章 取り残された春
大学三年になった頃からだったと思う。
友達との会話が変わった。
正確に言うと。
変わったのは会話じゃない。
たぶん僕だった。
「どこ受けるの?」
「インターンどうだった?」
「第一志望決まった?」
大学二年の頃までは。
そんな話をする必要なんてなかった。
授業が終われば飯を食う。
サークルに行く。
飲みに行く。
終電を逃す。
どうでもいい話をして笑う。
それで十分だった。
でも大学三年になった途端。
みんな急に未来の話をするようになった。
誰が言い出したわけでもない。
誰かが悪いわけでもない。
ただ気付いたら。
同じ場所にいるはずなのに。
みんな違う方向を向いていた。
「お前はどこ受けるの?」
その質問が苦手だった。
別に何もしていないわけじゃない。
就活サイトも見た。
説明会にも行った。
自己分析もやった。
ESだって書いた。
でも。
何かが違った。
画面の向こうには何百社もの会社が並んでいた。
その中から自分の人生を選べと言われても。
正直よくわからなかった。
やりたいこと。
なりたい自分。
十年後の未来。
みんな当たり前みたいに話していたけど。
僕にはその全部がぼんやりして見えた。
だから適当に笑った。
「まあぼちぼちかな」
その言葉だけは。
就活期間中ずっと上手くなった。
本当はぼちぼちなんかじゃなかった。
焦っていた。
たぶん。
誰にも言えないくらい。
夜になるとスマホを開いた。
友達のインスタ。
内定報告。
インターン。
就活イベント。
みんな前に進んでいるように見えた。
僕だけが。
ホームルームが終わった教室に一人残されているような気がした。
就活が始まってから。
一つだけ不思議だったことがある。
みんな急に自分のことを語り始めた。
面接では自分を売り込まなければいけないらしい。
だからみんな。
自分の強みを探していた。
行動力。
継続力。
リーダーシップ。
協調性。
学生時代に力を入れたこと。
僕もやった。
ちゃんとやった。
やらないと置いていかれる気がしたから。
でも。
自己分析をすればするほど。
自分がわからなくなった。
好きなことは何ですか。
得意なことは何ですか。
将来どうなりたいですか。
そんなこと聞かれても困る。
僕が知りたい。
本当に知りたい。
知ってるなら教えてほしい。
そう思った。
当時の僕は。
自分の人生の主人公なのに。
自分のことがよくわかっていなかった。
いや。
違う。
たぶんずっと。
自分のことを考えないようにしていた。
その方が楽だったから。
周りに合わせればよかった。
怒られないように。
嫌われないように。
浮かないように。
その場に合う自分でいれば。
それなりに生きていけた。
実際。
それで困ることはあまりなかった。
中学も。
高校も。
大学も。
それなりに楽しかった。
友達にも恵まれた。
大きな挫折もなかった。
だから余計に気付かなかった。
自分が何者なのかを。
ある日。
大学の帰り道だった。
駅まで歩きながら。
友達が言った。
「早く内定欲しいよな」
「わかる」
そう返した。
反射みたいなものだった。
本当は。
内定が欲しいのかどうかもよくわからなかった。
ただ安心したかった。
みんなと同じ場所に立ちたかった。
遅れていないと確認したかった。
たぶん。
それだけだった。
今振り返ると不思議だ。
あの頃の僕は。
将来に悩んでいたようで。
実は将来なんて見ていなかった。
見ていたのは周りだった。
友達。
先輩。
SNS。
世間。
みんながどこへ向かうのか。
そればかり気にしていた。
だから。
自分がどこへ行きたいのかが見えなくなった。
人生で初めて迷ったわけじゃない。
でも。
人生で初めて。
自分の人生を生きていない気がした。
その感覚に名前はなかった。
だから誰にも説明できなかった。
自分にすら。
ただ。
胸の奥に小さな違和感だけが残っていた。
後になって思う。
たぶんあれが始まりだった。
社会人になるより前に。
会社に入るより前に。
もっとずっと前から。
僕は少しずつ。
自分を見失い始めていた。
第二章 正解の方角
大学四年になった。
周りは少しずつ決まり始めていた。
内定。
旅行。
引っ越し。
社会人になる準備。
みんな前に進んでいるように見えた。
僕だけが立ち止まっている気がした。
就職活動は思ったように進まなかった。
面接に落ちる。
また落ちる。
何がダメなのか分からない。
分からないまま次を受ける。
気づけば、
不採用の通知にも慣れていた。
友達と会えば就活の話になる。
「どこ受けてるの?」
「もう決まった?」
悪気がないことは分かっていた。
だから余計に苦しかった。
帰り道。
駅のホーム。
電車の窓。
映った自分の顔は思っていたより疲れていた。
焦っていた。
でも。
焦っていることを認めたくなかった。
まだ大丈夫。
そのうち決まる。
そう言い聞かせていた。
春は少しずつ過ぎていった。
周りの景色だけが変わっていく。
僕はまだ。
正解の方角を探していた。
やがて、その方角は一本の電話で、突然目の前に現れることになる。
第三章 内定
大学四年の秋。
暑さが少しずつ落ち着き始めていた。
就職活動はまだ続いていた。
周りはもう次の話をしていた。
僕もその輪の中にいた。
でも。
どこか少しだけ遠かった。
就活の話になるたびに笑っていた。
大丈夫。
なんとかなる。
そう言っていた。
本当にそう思いたかった。
ある日。
一本の電話がかかってきた。
静かな部屋だった。
窓の外の景色も。
部屋の空気も。
なぜかよく覚えている。
電話の向こうで言葉が続く。
正直。
全部は覚えていない。
でも。
最後の一言だけは覚えている。
「採用です。」
短い言葉だった。
それだけだった。
電話を切る。
しばらく動けなかった。
嬉しかった。
安心した。
やっと終わったと思った。
春から続いていた時間が。
ようやく一区切りついた気がした。
親に連絡した。
友達にも伝えた。
みんな喜んでくれた。
僕も笑った。
でも。
不思議だった。
心のどこかは静かなままだった。
ずっと追いかけていたものを手に入れたはずなのに。
何かが足りない気がした。
その正体は分からなかった。
ただ。
確かにそこにあった。
秋の風が吹いていた。
僕は少しだけ前を向いた。
そして。
次は社会人になる準備を始めた。
けれどその準備は、まだ何も知らない僕にとって、少しだけ明るい誤解だった。
第四章 はじまりの違和感
社会人になる準備を始めた。
スーツを買った。
革靴を買った。
名刺入れも買った。
社会人になるためのものは、一通り揃えた。
準備はできているはずだった。
でも。
入社して数日で気づいた。
思っていた未来と、少し違う。
毎朝同じ時間に起きる。
満員電車に揺られる。
会社に着く。
パソコンを開く。
電話をかける。
また電話をかける。
断られる。
また電話をかける。
その繰り返しだった。
営業職だから当たり前だ。
頭では分かっていた。
でも。
実際にやるのは全然違った。
電話をかける前に深呼吸するようになった。
受話器を持つだけで緊張した。
断られるたびに少しずつ削られていく感覚があった。
同期は笑っていた。
先輩は慣れるよと言った。
みんな普通にやっているように見えた。
だから僕も普通の顔をした。
でも。
心の中ではずっと思っていた。
「これ、本当に続けられるのかな」
まだ四月だった。
社会人になったばかりだった。
それなのに、
もう少しだけ苦しかった。
その小さな苦しさは、毎日少しずつ、確実に大きくなっていった。
第五章 初めて泣いた夜
ゴールデンウィークが近づいていた。
周りは少しずつ仕事に慣れ始めていた。
電話をかける声も大きくなっていた。
先輩との会話にも余裕が見えた。
でも僕だけは違った。
毎朝、会社に向かう足取りが重かった。
電車に乗るだけで疲れた。
会社の最寄り駅に着くと、
ため息が出た。
出社して席に座る。
パソコンを開く。
今日も電話をかける。
何件かけても結果は出ない。
焦る。
焦るほど声が小さくなる。
声が小さくなるほど断られる。
悪循環だった。
昼休みになると、
誰もいない階段に座った。
スマホを眺めた。
大学時代の写真が出てきた。
サークル。
飲み会。
旅行。
くだらない会話。
あの頃は楽しかったな。
そんなことを考えた。
気づけば、
社会人になってから笑う回数が減っていた。
家に帰る。
ご飯を食べる。
風呂に入る。
ベッドに横になる。
そしてまた明日が来る。
その繰り返しだった。
ある日。
仕事から帰ってきて、
玄関で靴を脱いだ瞬間だった。
突然、涙が出た。
理由はよく分からなかった。
怒られたわけでもない。
大きな失敗をしたわけでもない。
でも。
もう限界だった。
誰にも見られない部屋で、
ただ泣いた。
声を出さないように泣いた。
自分でも驚いた。
こんなに弱かったのか。
こんなに苦しかったのか。
泣きながら思った。
「頑張らなきゃ」
じゃなかった。
心のどこかで、
もう頑張れない。
そう思っていた。
その夜から、僕の中で何かが少しずつ止まり始めていた。
第六章 休みたい
朝、目が覚めた。
正確には、
目は覚めていた。
でも身体が動かなかった。
スマホを見る。
まだ家を出る時間には余裕がある。
起きなきゃ。
そう思う。
でも起きられない。
布団の中で天井を見ていた。
何分経ったのか分からない。
会社に行かなきゃ。
社会人なんだから。
みんな頑張ってるんだから。
そんな言葉を頭の中で繰り返した。
それでも身体は動かなかった。
気づけば出発時間を過ぎていた。
慌てて起き上がる。
顔を洗う。
スーツを着る。
駅まで歩く。
いつもと同じはずだった。
でも違った。
足が重い。
本当に重かった。
駅に近づくほど苦しくなった。
電車が見えた。
その瞬間。
涙が出そうになった。
自分でも意味が分からなかった。
ただ。
会社に行きたくなかった。
サボりたいわけじゃない。
怠けたいわけでもない。
でも。
行けなかった。
人生で初めてだった。
学校も。
部活も。
アルバイトも。
行きたくないと思ったことはあっても、
行けないと思ったことはなかった。
スマホを取り出す。
会社の連絡先を開く。
画面を見つめる。
指が動かない。
数分後。
震える手で電話をかけた。
体調不良で休みます。
それだけ伝えた。
電話を切った瞬間、
安心した。
でも同時に。
情けなかった。
家に戻る帰り道。
平日の昼間なのに、
街は普通に動いていた。
スーツ姿の人たちが歩いている。
みんな働いている。
みんな前に進んでいる。
そう見えた。
僕だけが取り残されている気がした。
家に帰る。
ベッドに倒れ込む。
天井を見る。
そして初めて思った。
もしかしたら。
僕は壊れかけているのかもしれない。
第七章 知らせ
会社を休む日が増えていた。
最初は一日だけだった。
次は二日。
その次は午前中だけ休んだ。
なんとか出社できる日もあった。
でも以前のようには働けなかった。
朝起きるだけで疲れていた。
会社へ向かうだけで苦しかった。
それでも、
社会人なんだから。
頑張らなきゃ。
そう思っていた。
思わなければいけない気がしていた。
そんなある日だった。
高校時代の友人から連絡が来た。
内容を見た瞬間、
何が書いてあるのか理解できなかった。
高校時代、いつも一緒にいた6人組の友人が亡くなった。
頭が真っ白になった。
嘘だと思った。
何かの間違いだと思った。
何度も画面を見返した。
でも文字は変わらなかった。
亡くなった。
その事実だけが残った。
高校時代。
放課後も。
休日も。
当たり前のように一緒にいた。
大人になってからは、
全員が集まることは少なくなった。
それぞれ違う場所で生活していた。
でも。
いつかまた集まると思っていた。
みんな当たり前に生きていて、
また酒を飲んで、
また笑うと思っていた。
だから信じられなかった。
数日後。
地元の居酒屋に集まった。
本当なら6人いるはずだった。
でもその日は4人だった。
1人は鹿児島の大学にいて来られなかった。
そしてもう1人は、
来られなかったんじゃない。
もう来ない。
その事実だけが重かった。
席に座る。
ビールを頼む。
乾杯をする。
いつもと同じはずだった。
でも違った。
誰かが高校時代の話を始める。
みんな笑う。
僕も笑った。
でも。
笑うたびに苦しかった。
あいつならここでこう言ったな。
あいつなら絶対笑ってたな。
そんなことばかり考えていた。
時間は進む。
会話も続く。
それなのに、
どこか現実じゃない気がした。
帰り道。
一人になった。
夜風が少し冷たかった。
その時だった。
急に涙が出た。
止まらなかった。
仕事が苦しかった。
会社へ行くのも苦しかった。
将来も見えなかった。
そこへ友人の死が重なった。
ずっと我慢していたものが、
全部あふれた。
人は突然いなくなる。
明日が来る保証なんてない。
そんな当たり前のことを、
初めて本気で理解した。
そして思った。
もう無理かもしれない。
心が折れる音なんて聞こえない。
でも。
あの日を境に、
僕の中の何かは確かに壊れていた。
それでも翌日は来た。僕は、自分の名前のついた苦しさを探すことになる。
第八章 適応障害
友人の訃報からしばらくして、
僕は病院へ行った。
正直、
行きたくなかった。
病院へ行くということは、
自分が普通じゃないと認めるような気がしたからだ。
まだ大丈夫。
そのうち戻れる。
そう思っていた。
思いたかった。
待合室で順番を待つ。
何を話せばいいのか分からなかった。
先生の前に座る。
最近どうですか。
そう聞かれた。
何を話したのかはよく覚えていない。
会社へ行けないこと。
朝起きられないこと。
涙が出ること。
友人が亡くなったこと。
思いつくまま話した。
途中で言葉に詰まった。
気づけば泣いていた。
先生は黙って聞いてくれた。
そして最後に言った。
「適応障害ですね」
初めて聞く言葉だった。
適応障害。
病名がついた。
不思議だった。
少し安心した。
理由が分からなかった苦しさに、
名前がついたからだ。
でも同時に、
認めたくなかった。
病気じゃない。
甘えてるだけじゃないか。
みんな頑張ってる。
自分だけ逃げてるんじゃないか。
そんな考えが頭の中を回った。
診察が終わる。
病院を出る。
空は晴れていた。
街もいつも通りだった。
何も変わっていない。
でも。
僕の中では何かが変わっていた。
社会人になって初めて、
自分は限界だったんだと認めた。
認めざるを得なかった。
その帰り道だった。
少しだけ肩の力が抜けた気がした。
戦うことをやめたわけじゃない。
諦めたわけでもない。
ただ。
休まなければいけないところまで来ていた。
それだけだった。
第九章 選択
適応障害。
病名がついても、
すぐに何かが変わるわけじゃなかった。
朝は苦しかった。
会社のことを考えると動けなかった。
それでも、
どうにかしたかった。
辞めたいわけじゃなかった。
逃げたいわけでもなかった。
ただ少し休みたかった。
一度立ち止まりたかった。
だから上司に相談した。
休職したいです。
そう伝えた。
今思えば、
助けを求めたつもりだった。
でも返ってきたのは、
想像していた言葉ではなかった。
後日、
会議室に呼ばれた。
上司が二人いた。
扉が閉まる。
静かな部屋だった。
そこで言われた。
「明日までに決めてほしい。」
「続けるのか。」
「辞めるのか。」
頭が真っ白になった。
休職の相談をしたつもりだった。
でも気づけば、
退職か継続かの話になっていた。
何を言われたのか、
細かくは覚えていない。
ただ。
言葉だけは今でも覚えている。
明日までに。
明日までに決めてほしい。
その言葉だけが頭の中を回っていた。
家に帰った。
何も考えられなかった。
続ける。
辞める。
どちらを選んでも怖かった。
続ければまたあの毎日が待っている。
辞めれば新卒一年目で退職になる。
どちらも正解には思えなかった。
夜になった。
部屋の明かりだけがついていた。
静かだった。
でも頭の中だけはうるさかった。
将来どうなるんだろう。
親になんて言おう。
友達になんて言おう。
次の仕事はあるんだろうか。
考えても答えは出なかった。
それでも。
一つだけ分かっていた。
このまま無理を続けたら、
本当に壊れてしまう。
だから僕は決めた。
辞めよう。
初めてだった。
自分の意思で、
何かを手放す決断をしたのは。
怖かった。
情けなかった。
悔しかった。
でもあの日の僕には、
それしか選べなかった。
第十章 退職の日
退職すると決めた。
決めたはずなのに、
どこか他人事のようだった。
当日は午後から会社へ向かった。
午前中は家にいた。
何をしていたのかはあまり覚えていない。
テレビを見ていた気もする。
スマホを眺めていた気もする。
ただ、
時間だけがゆっくり過ぎていた。
昼になった。
スーツに着替える。
もう何度も着たはずのスーツだった。
でもその日は少し重く感じた。
会社へ向かう電車に乗る。
窓の外を見ながら、
これで終わるんだなと思った。
会社に着く。
上司と話をした。
退職の手続きだった。
書類を書いた。
説明を受けた。
話をした。
でも正直、
何を話したのかあまり覚えていない。
覚えているのは、
全部があっという間だったことだけだった。
手続きが終わる。
席に戻ることもなく、
そのまま会社を出た。
エレベーターに乗る。
一階へ降りる。
自動ドアが開く。
外の空気を吸う。
解放感はなかった。
達成感もなかった。
あったのは不安だけだった。
これからどうなるんだろう。
次の仕事は。
お金は。
将来は。
考えれば考えるほど怖かった。
その日の夜。
同期から連絡が来た。
「飲みに行こうよ」
次の日も仕事がある平日だった。
それでも時間を作ってくれた。
居酒屋に入る。
何を話したかは、
正直あまり覚えていない。
でも、
笑ったことは覚えている。
退職したばかりなのに。
不安でいっぱいだったはずなのに。
気付けばいつも通り話していた。
社会人になると、
学生の頃みたいには集まれなくなる。
予定を合わせるのも難しくなる。
気付けば飲み会の回数も減っていく。
それでも。
こういう時に隣にいてくれる人がいる。
それだけで少し救われた。
会社を辞めた日だった。
でも、
人との繋がりまでなくなったわけじゃなかった。
駅へ向かう帰り道。
夜風が少し気持ちよかった。
社会人になって、
初めて途中で諦めた。
そう思っていた。
でも、
今なら分かる。
あれは終わりじゃなかった。
人生はここからもう一度動き出す。
その時の僕は、
まだ知らなかった。
この先、
もっと苦しいことも、
もっと楽しいことも待っていることを。
そして、
人生は前に進んだのに、
僕の天然パーマだけは最後まで言うことを聞かなかった。
エピローグ 余白
あの頃の僕は、
人生が終わったと思っていた。
会社を辞めた。
新卒一年目で立ち止まった。
みんなが前に進んでいるように見える中で、
自分だけ道の途中に座り込んでしまった気がした。
でも今振り返ると、
あれは終わりじゃなかった。
ただの余白だった。
何者にもなれなかった時間。
何も進んでいないように見えた時間。
誰にも胸を張れなかった時間。
でもその時間があったから、
僕はもう一度、自分の人生を見ようと思えた。
人生は、思ったより長い。
そして案外、しつこい。
終わったと思った日にも、
次の日は来る。
泣いた夜にも、
朝は来る。
そして僕の天然パーマも、
どれだけ整えようとしても、
やっぱり次の日には好き勝手に跳ねている。
人生も、たぶんそれくらいでいい。
まっすぐじゃなくても。
きれいにまとまらなくても。
それでも前には進める。
この物語の第一部は、ここで終わる。
でも僕の人生は、
ここからもう一度始まっていく。
あとがき
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
第十章で退職の日までを書きました。
ここで物語は一区切りです。
ただ。
安心してください。
僕は元気です。
むしろ当時より元気かもしれません。
当時は毎日が必死でした。
目の前のことをこなすだけで精一杯でした。
正解も分からない。
将来も見えない。
そんな日々でした。
でも。
あの日退職したからこそ見えた景色があります。
失ったものもありました。
悔しかったこともありました。
情けないと思ったこともありました。
それでも。
あの日がなければ今の僕はいません。
人生は意外と続きます。
終わったと思った日も。
全部ダメだと思った日も。
気づけば次の日が来ます。
だからもし今、
仕事や人生で悩んでいる人がいたら、
少しだけ肩の力を抜いてください。
なんとかなります。
少なくとも僕はなんとかなっています。
天然パーマも相変わらずです。
人生は変わっても、
髪型だけはなかなか変わりません。
そこだけは神様も譲る気がないみたいです。
そして。
この物語はまだ終わりません。
ここから先の話も、
少しずつ書いていこうと思っています。
またどこかでお会いできたら嬉しいです。
ここまで読んでいただき、
本当にありがとうございました。
宮島




