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EP 8

女神の接待。神に捧げるオイルマネーと、高級エステの誘惑


「……女神、ルチアナ」

黄金の獅子、アーサー王が、その生涯で初めて、恐怖に膝を突いた。

演習場に降り立った女神ルチアナが放つ、純白の『神気エーテル』。

それは闘気や魔法とは次元が違う、世界そのものを書き換える「権能」の圧。

キャルルさんは震えながら平伏し、ヴァルグですら、その漆黒の瞳に微かな戦慄を浮かべて俺の後ろに下がった。

俺?

俺は、ポケットから最後の『人参味の飴玉』を取り出し、噛み砕いた。

……糖分が足りない。相手は、この世界の運営(GM)だ。

「あら、いい度胸ね、石油王さん」

ルチアナが、慈悲深い、だが底冷えするような微笑みを俺に向けた。

「私の作った世界で、私の知らない『ルール』を流行らせるなんて。……管理コストがかかって、定時で帰れないじゃない。……消去デリートしちゃってもいいかしら?」

彼女の手が、ゆっくりと上げられる。

その指先一つで、ポポロ村も、レオンハート王国も、そして石油も、この世界から「最初から無かったこと」にされる。

だが、俺は逃げなかった。

営業職時代、クレーマーと化した大株主に対峙した時のように、最高の営業スマイルを貼り付けた。

「お言葉ですが、女神様。……俺が持ってきたのはバグじゃありません。……あなた様への『供物オファー』です」

「供物? 面白いことを言うわね。私に、この世界にないものが捧げられると?」

「ええ。……例えば」

俺はスキルを発動し、サイドカーに残っていたガソリンから、さらに特殊な成分を抽出・合成した。

それを、ルルカが作った真鍮の小瓶に詰め、ヴァルグに持たせる。

ヴァルグは音もなくルチアナの前まで移動し、恭しく小瓶を差し出した。

「それは、石油から精製した、極めて純度の高い高分子化合物……地球でいう『高級化粧品原料シリコン・ポリマー』です。……これを肌に塗れば、神の美貌は永劫に保たれ、乾燥知らず。……そして」

俺は、一束の『黒い契約書』の予備を取り出し、パラパラとめくった。

「ポポロ村の石油利権の10%を、女神様の『私的用途(ソシャゲ課金・エステ代)』として、無条件でセレスティアの口座へ振り込みます。……金貨に換算すれば、毎月数万枚。……これがあれば、あの『朝倉月人』の限定SSRも、完凸間違いなしです」

「……ッ!!」

ルチアナの神々しいオーラが、一瞬、揺らいた。

慈悲深い微笑みが消え、その瞳に、俗世的な欲求と、驚愕が混ざり合う。

「さらに」

俺は畳み掛ける。

「レオンハート王国との同盟により、ポポロ村の治安は安定します。……女神様が、ジャージ姿で『健康サンダル』を履き、人間に化けて居酒屋で管を巻く……そんな『オフタイム』の安全も、俺とヴァルグが、命懸けで保証しましょう。……どうですか? ルチアナ様。……仕事(管理)を減らして、私生活(趣味)を充実させる。……悪い話じゃないでしょう?」

静寂。

アーサー王やキャルルさんが、何が起きているのか理解できず、呆然と俺と女神を見比べている。

ルチアナは、ヴァルグが持つ小瓶を手に取り、匂いを嗅いだ。

そして、ニヤリと、先ほどとは違う、どこか『親しみやすい』笑みを浮かべた。

「……話がわかるじゃない、金吾くん」

ブワッ、と神々しいオーラが消えた。

次の瞬間。

白いドレスが芋ジャージに、後光が寝癖に、神威が「定時退社の解放感」へと変貌した。

「あー、疲れた! 仕事モードは肩が凝るわね! ……で、そのエステ代と課金代、本当に保証してくれるのね?」

「ええ、もちろん。……女神様の『承認』さえいただければ」

「承認、承認! 石油、最高! ……あ、タバコ(ピアニッシモ)切れてたんだ。金吾くん、ちょっと持ってない?」

女神の陥落。

ポポロ村の石油は、神認可の「聖なる燃料」へと昇格した。

だが、その時。

『――ちょっと待ちなさいよ、ルチアナ! 抜け駆けは許さないわ!』

王宮の演習場の空間が、真っ二つに切り裂かれた。

次元の裂け目から現れたのは、漆黒のドレスを纏い、巨大な『魔王剣』を担いだ、絶世の美女。

アバロン魔皇国、魔王ラスティア。

「私の『月人君』のグッズ代、ポリスのソシャゲ代……! その石油利権、アバロンも噛ませなさい! ……じゃないと、この国、次元ごと切り刻むわよ!」

「ああっ、もう! 拉斯ティア、あんたどこから聞きつけたのよ!」

ジャージ姿の女神と、ドレス姿の魔王が、俺を挟んで睨み合う。

「金吾くん! 私を福岡のライブに連れて行くって約束したわよね!?」

「金吾! 私には、月人君の限定生写真(福岡会場限定)が必要なの!」

神と魔王。

大陸を滅ぼしかねない二大巨頭が、俺の『石油オイルマネー』を巡って、醜いオタ活接待合戦を始めた。

俺は、呆れ果てるキャルルさんとルルカを尻目に、人参味の飴玉を噛み砕き、不敵に笑った。

「いいでしょう。……女神様も、魔王様も。……俺の石油で、満足いくまで『推し活』させてやりますよ。……その代わり」

俺は、二人に『新しい契約書』を突きつけた。

「アバロン魔皇国の『魔導通信網(TV局)』と、ゴルド商会の物流網。……これを、ポポロ村の石油で、俺の好きにさせてもらいます。……世界中を、俺の色に塗り替えるために」

黒い黄金、石油。

それは、神も魔王も、その欲望のままに操る、最凶の『魔具』へと進化を遂げた。

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