第五章 ゴルド(2)
しばらく泣いて落ち着きを取り戻したところで、マリアはハンスたちに話し始めた。
「リチャードが、裏切っていたの。彼は、『禁呪』の力を得て、この国を支配するつもりだって言ってた・・・。私、ずっと騙されていたんだね」
力なくうつむく彼女の背中を、ハンスは無言で撫でる。彼もまた、親友に裏切られた痛みを感じていた。
「・・・それにしても、よくここが分かったのね。どうやって突き止めたの?」
マリアの問いには、マルコが得意気に答えた。
「おいらの耳で、リチャードさんの馬の足音をずっと追いかけて来たんだ。おいらレニ族だから、眼と耳はすっごくいいんだぜ」
続いて、リフローネも落ち着いた声でマリアに話した。
「ライプニッツ卿に疑いを持つようになったのは、ハンス王子の研究成果が盗まれたことを聞いてからです。研究のことは、限られた人たちしか知らないと言っていましたから。それから、白いローブを着た男の話です。誰かがその男から『禁呪』を得て、この国に持ち込んだ可能性が考えられました。しかし、『パロへ渡航した船の記録がない』ということ。・・・ですが騎士団の警備挺なら、記録を残さず行き来することができるでしょう?」
彼女の説明を聞いて、マリアは半分驚き、半分感心していた。
「リーフ、あなた、すごいのね。私ったら、何にも見えてなかった。・・・はあ、嫌になっちゃう」
同じ王女でありながら、自分は彼女に遠く及ばない。マリアは、再度落ち込むこととなった。
「マリア、今は沈んでいる時間はありません。こうしている間にも、ライプニッツ卿の軍は王都を目指して進軍しているのです」
リフローネのその言葉に、マリアははっとして顔を上げた。
「そうだ、姉さんに知らせないと!リチャードが・・・あいつが、『禁呪』の力を使って、グランルートへ攻めてくるって!こうしちゃいられない、早く行かなくちゃ!」
マリアは急いで立ち上がろうとしたが、足にうまく力が入らず、よろけてしまう。ハンスに支えられながら、再び床にへたりこんでしまった。
ハンスが慌てて声をかける。
「マリア、落ち着いて。今からグランルートへ向かっても、リチャードの軍にぶつかってしまうよ!また捕まるか、運が悪ければ殺されてしまう。運よく王城へ辿り着いても、僕らだけじゃ大した戦力にならないよ」
苦悩の表情を浮かべるマリア。彼女は、リフローネの方を見上げた。
「リーフ、教えて!フレスデンで奇跡を起こしたあなただったら、この状況をどう切り抜けるのか。お願い!」
リフローネは、マリアの視線を真っ直ぐに受け止め、静かに答えた。
「・・・私がフレスデンで勝利することができたのは、サールーン王の援軍を得ることができたからです。今は、私たちに味方してくれる、新たな援軍が必要です」
リフローネの答えを聞き、マリアは小さく「そうか」と呟いた。
「ヴァルガ山へ向かおう。ゴルド人に、援軍を頼んでみる。・・・いや、必ず援軍に引き入れる」
その言葉に、ハンスは驚いた。
「マリア、本気なのかい?」
「うん。私たちにできることは、もうそれしかないもの」
リフローネもうなずく。
「私も、それが唯一の方法だと思います」
よし、とマリアは再び立ち上がろうとする。が、疲労が激しく、足に力が入らない。どうやら魔導を使いすぎたようだ。
「マリア、無理をしないで。ナジャ、お願いです、彼女に手を貸してあげて」
リフローネの願いを聞き、ナジャがマリアの前に立った。
「マリア王女、失礼いたします」
そういうと、ナジャは素早く彼女の肩と脚に腕を回し、軽々と抱き上げたのだった。
「しばしご辛抱を」
涼しい顔のまま、彼女を抱いて歩き出した。
マリアは驚いた表情で彼の顔を見つめ、小さくつぶやいた。
「・・・アリかも」
「?」
リフローネは少し不思議そうに、マリアを見たのだった。




