第四章 暗影(1)
ハンスに会った翌日、リフローネは再び女王に謁見を申し出た。初日の様子を思えば断られてしまうかもしれないと覚悟はしていたが、予想に反しすんなりと許可をもらうことができた。
広い謁見の間で、リフローネは一人、女王の前に立った。女王は、先日と変わらぬ怜悧な表情のまま、一分の隙もない姿勢で玉座に鎮座していた。
「恐れ多くも、再びのお目通りを叶えていただき、深く感謝申し上げます」
「礼など無用です。貴女が聞きたいということを、申してみなさい」
女王は表情を崩さぬまま、広間に響く凛とした声で問うた。
リフローネは、女王を真っ直ぐに見据え、意を決したように彼女の問いをぶつけてみた。
「アウラの禁呪を封じる術をお教え願えますか」
その言葉を聞いた瞬間、女王の眉がわずかに動いたのがわかった。
「・・・ハンスですね」
リフローネが、誰から禁呪のことを聞いたのか、女王には見当がついているようだった。彼女は軽くうつむいて目を閉じ、額に手をやった。
リフローネは続けて言った。
「私の兄の命を奪った黒い騎士は、何らかの方法で禁呪の術を知り、その力を得ているのではないかと、王子は教えてくださいました。それを封じる方法は、おそらく陛下しか御存じではないということも。不躾なお願いであることは重々承知しております。ですが、かの恐るべき敵と戦うためには、禁呪を封じる術が必要なのです。どうか、お願い申し上げます」
膝をつき、深々と頭を下げるリフローネを前にして、女王はしばし沈黙した。
広間に静寂が広がる。
「・・・それはできません」
感情を押し殺したような声で、女王は答える。
「禁呪の力は、誠に危険な存在です。人の世を壊してしまいかねません。魔の手はやがてこの国にも延びてくるでしょう。どうか・・・!」
「・・・あなたは!」
そこまで聞いて、女王はとうとう声を荒らげ、リフローネの言葉を遮った。
「この私が、王家の権威に拘泥するあまり『封呪の法』を専横していると思っているのでしょう!」
強い瞳が、リフローネを睨む。彼女は黙って、その瞳を見つめ返した。
「何故王家が、何百年もこの法を門外不出としているか、貴女には分からないのでしょう。事は貴女が思うほど、単純ではないのです」
そこで言葉を切って、再び女王は落ち着きを取り戻した声で続けた。
「すでに我が国に、アウラ教団に関わりがある者が忍び込んでいる形跡が見つかったと報告を受けています」
「!」
不意にリフローネは、昨日のマルコの話を思い出した。パロと言う名の漁村にいたという、白いローブの魔導士。
この世界の裏側で、恐ろしい悪意が蠢いている。その兆しが、少しずつ濃くなっていくような感覚を覚えた。
「あなたを疑っている訳ではありません。しかし、不用意に秘密を漏らすべきではない。・・・下がりなさい」
女王の言葉を聞いて、飲んでいた息を吐き出し、リフローネは一礼をして女王の面前を辞した。




