第三章 魔導の起源(3)
「研究に熱中すると何も聞こえなくなってしまうのは、昔から変わりませんね、ハンス王子。きちんとお食事を召し上がっているかも心配です」
リチャードの言葉に、ハンスは、はははと笑いながら頭をかいた。
「ハンスでいいよ、リチャード。少なくともここでは、君は僕の昔からの友人のままでいてくれないかい?」
ハンスの言葉に、リチャードもやや苦笑するように表情を緩めた。
「・・・そういうところも、昔と変わりませんね、君は」
すかさずマリアが説明を加えた。
「リチャードと兄さんは、子どもの頃に机を並べた学友なの」
ハンスは屈託のない笑顔を浮かべたまま、慌てて椅子の上の書物を片付け始めた。
「散らかしたままでごめんなさい、今座れるようにしますので・・・」
「ああ、どうかお構いなさらないでください」
リフローネは恐縮しながらも、この青年に親しみを覚えつつあった。
「兄さん、リーフをここへ連れてきたのは、彼女が魔導について調べているからなの。兄さんだったら、誰よりも詳しいからでしょ」
「あの・・・正確には、魔導に関係があるかどうか、ということですが」
リフローネはそう前置きして、彼女が経験したことをハンスに話した。
フレスデンで遭遇した、黒い騎士のこと。その騎士は、得体の知れない禍々しい力を纏い、味方の精強な戦士たちが悉く討ち倒されていったこと。自分の兄も深手を負い、命を落としたこと・・・。
あの黒い騎士に対抗するためには、不思議な力の正体を知らねばならない。その目的で、はるばる海を越えてエルドラドまで来たことを、リフローネは打ち明けた。
彼女の話を聞き終えて、ハンスは漸く考え込んでいたようだったが、やがて顔を上げて、彼女を真っ直ぐに見据えて答えた。
「確かなことは言えないけれど、それは古い歴史書に記されている『アウラの禁呪』に酷似しているように思えるね」
「アウラですって!?」
ハンスの言葉に、マリアがいち早く反応し大きな声を上げた。何やらただならぬ、不吉な名を聞いたかのように。
「その、『アウラの禁呪』とは、一体何なのですか?」
リフローネは初めて聞くその言葉の意味を、ハンスに問い直した。彼女の心は、求めていた謎の核心に辿り着いたような予感がして、にわかに騒ぎ始めた。
「その名の通り、古代に禁じられた呪術の一種だよ。・・・だけどそれを説明する前に、そもそも魔導の起源について話しておく必要がある」
そう言って、ハンスは軽く咳払いをした。




