第0話 叡智な魔導書との出会い
それは、梅雨が始まり校舎の不快指数が急激に高まっていたある放課後のことだった。
僕は、図書委員として閉架書庫の清掃と整理を行っていた。
閉架書庫といっても、所詮は高校の図書室なのでそんなに大きいことはない。
教室の半分ほどの広さの部屋に本棚と段ボールが並ぶ。半分物置のような部屋だ。
僕はそこで、見たことのない仰々しい装丁の本を見つけた。
『少し叡智な魔法の使い方』
本に書かれた文字は日本語でも英語でもない、初めて見る言語だった。
それなのに、本に触れた瞬間、僕はそこに書かれた文字の意味を理解できた。
その本の放つ奇妙なオーラに導かれるように、僕は本を開いた。
表紙を捲ると前書きがあった。
これも見知らぬ文字だったが、なぜかスルスルと意味が読み取れた。
そこにはこう記されていた。
「この本を最初に手に取った幸運な君へ。
この本には、私がこの異世界へ渡ってから数十年をかけて編み出した数々の叡智な魔法の使い方を記す。
私はこの世界で十分楽しんだ。
どうか、私から見て元の世界に暮らす誰かがこの本をうまく使ってくれることを願う。
だが、度を超えて世界の均衡を破ってはいけない。この本を使った行為ははあくまでも15禁に留めること。
もし破ったら、それ相応の罰が、君は降りかかるだろう」
誰かのイタズラかと思ったが、それだと見たことのない文字を読めるというこの現状の説明がつかない。
さらに読み進めていくと、この本がどういうものなのか何となく理解できた。
叡智な魔法とはつまりエッチな魔法ということだ。
この本には、少しエッチな魔法がたくさん書いてある。前書きでは15禁までと書かれていたが、使い方によっては余裕で18禁になってしまいそうな魔法もたくさんある。
これがもし本物の魔導書なら僕の平凡な高校生活が大きく変わるかもしれない。
誰もいない蒸し蒸しとした閉架書庫で、僕は小さな興奮が胸の奥で灯ったことを感じながら、『少し叡智な魔法の使い方』を夢中で読み進めた。
読み進めるとすぐに、"読めないページ"が現れた。
元々見たことがない文字なのでそれが当たり前なのだが、さっきまでは書かれている文字の意味が頭に流れ込んできたのにそれがパタっと途絶えたのだ。
慌てて目を動かすとページの隅にメモ書きがあった。
【より高度な叡智魔法を使うには、まずは初歩的な叡智魔法をマスターしなければならない】
つまり、今の僕にはまだ使えないということか。
裏を返せば、読めたページの魔法は本当に使えるのかもしれない。
「試してみるか」
僕は興奮の火が大きくなるのを感じながら、魔導書を閉じて鞄に仕舞った。
頭の中では、この魔法をどこでどう使うか、誰に使うのかそのことだけがぐるぐると巡っていた。




