第46話 あした、待つ
リンドウ船団、ならびにアゲハ船団はそれぞれ今回の目的地、20世紀中盤の世界へたどり着いた。
彼らが生きる未来世界を旅立ってから、28日が経過していた。
ユキナガの印象として、中継地の2020年代からここまでが、思いのほか日数を要した。
機関室で働くハツの話によると、第二次遠征で到達していた2020年代より古い時代は未来世界の人類にとって完全に未踏の世界であり、タイムスリップをおし進めるにあたって技術的な問題が毎日毎日起こっていたらしい。
船団は日本の上空数千メートル地点に現れ、それから近海に降り立った。
中継地の時とほぼ同じルートだったが、艦内の緊張感はまるで違っていた。
2020年代においては日本政府との交渉、根回しが前回の遠征の時に済んでいる。
いま降り立ったさらに古い世界ではそうではない。
この時代の人類にとって自分たちは突如現れた未確認飛行物体の群れである。敵襲と認識されているはずである。いちから友好的な関係を結ばなければならない。
交渉役がすでに向かっていた。命がけの任務。
前回の遠征時、最初の特使は乗っていた小型飛行機が撃墜され亡くなっている。
交渉が済んだというのは、激しい戦闘のあとでのことである。
歴史を取り戻すための戦い。歴史のどこにも記録されていない戦い。
「黒船で日本に来た人もこんな気分だったのかな」
ユキナガはぼんやり考えていた。
今夜は薄暗い厨房で、みゆみゆと二人でお茶を飲んでいた。
ゴンゾーはいない。彼は戦闘機で船団周囲の海域を警備する任務にあたっている。
「しばらくおにぎりパーティには来られないと思う。みゆみゆさん、握手してもらえますか? なんというか、あなたと握手すると、いいお守りになるような気がして」
危険な任務が始まる前日にゴンゾーがそういったとき、みゆみゆは握手をことわった。
「あれはどうしてだったの?」
ユキナガは不思議だった。
「縁起が悪いからじゃ。任務が終わってから握手させてもらう」
みゆみゆはうつむいて、お茶の入ったカップを揺らしながら答えた。
厨房のランプが逆光になっていて、彼女の表情はよく見えなかった。
「わたしはな、ユキナガ。前回の遠征のとき、横浜の大きな会場を使って、乗員たちの激励のためのライブと握手会をやったことがある。盛況だった。たくさんの若者がわたしを見に来てくれた」
「へえ、さすが人気アイドル」
「みんながわたしと握手をしてくれた。わたしの生写真を買ってくれた。そのときわたしは握手をする人ごとに言った。『きっと無事に帰ってきてください』『またわたしの歌を聴きに来てください』」
ユキナガは、話すみゆみゆの手が少し震えていることに気づいた。
「ミユ……?」
「でも……、帰ってきてくれなかったの。もう一度会いに来てくれた人はほとんどいなかった」
「そんなに犠牲者が」
今回の第三次遠征計画の危険性は世間に公表されていない。そして同様に、第二次遠征の際の被害も、ほぼ公表されていない。
「もっと近くで、わたしを好きでいてくれる人たちのことを励まし続けたい。そのためにわたしはこの船に乗ったのじゃ。でも任務に向かうと言ったゴンゾーさんの笑顔を見たとき、わたしは帰ってこなかった人たちのことを思い出してしまった。それで、つい握手を断った。悪いことをした」
「あいつが帰ってきたら握手してあげなよ」
「そうじゃな」
微笑むみゆみゆの声はかすれていた。
「ユキナガ、お茶をもう一杯飲むか? 上司とお茶などつまらぬとは思うが、もう少しだけ付き合え。この後は自由時間とする。ハツのところへ行くといいよ」
「いや、今日はもうしばらくここで上司とコミュニケーションをとることにします」
「勝手にせい」
ユキナガはそれからお茶を2杯飲んだ。




