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俺が新撰組だ! 〜土方歳三は最後まで武士です〜  作者: 足軽三郎
第二章 北天燃ゆる 〜土方歳三の生涯〜
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最終話 京都追憶

 月日は流れ、明治十年の四月某日。

 京都新報に珍しい記事が掲載された。  

 写真付きの記事である。

 新聞を開いた彼女は「あら」と目を見張った。

 写真の人物が見知った男性だったのである。


 その男は椅子に座り、洋装に身を包んでいた。

 黒い羅紗の三つ揃いだ。

 断髪した髪を頭部後方に撫でつけているため、額が見えた。

 眼差しは鋭く、唇はきりりと結ばれている。

 写真であっても優男と分かる顔立ちだった。

 フロックコオトを纏い、襟元からは白いスカアフが覗く。

 その装いからは中々の洒落者と伺えた。

 写真には『土方歳三近影。明治二年、函館にて』と説明が添えられている。


「副長さんじゃない」


 彼女は呟き、記事に目を通した。


******


 写真の人物、土方歳三については逸話も多く知られている。

 生前の異名も多い。

 曰く、新撰組の鬼の副長。

 旧幕府陸軍を率いた常勝将軍、壬生狼の立役者とも言われていた。

 この記事の読者には思い当たる方もいるだろう。

 そして今日(こんにち)、土方氏について快く思わない方も多いことを記者は存じている。

 その上で、敢えて筆を執った次第である。


 記者は京都生まれの京都育ちである。

 この都の景色が好きである。

 貴船の川床、嵐山の紅葉と季節に応じた四季がある。

 神社仏閣においては言うまでもない。

 京都には千年の歴史がある。

 それはいくら西洋化が進んでも、確かに我々日本人が誇って良いことであろう。


 新聞社に入社してから、記者は明治維新を一通り学んだ。

 その中にはこの京都にまつわる話もあった。

 新撰組、更には土方氏の名前もそこに記されていた。

 記者がいたく感銘を受けたのは、かの有名な池田屋事変である。


 −−新撰組の活躍により京都大火を未然に防ぐことが出来た。

 −−その新撰組を実質的に束ねていたのは、副長の土方歳三であった。


 この事実を記者は知った。

 であるならば、新撰組はこの京都の景観を守ったと言えよう。


 断らせていただくが、記者は新撰組を正義とは思っていない。

 時代の流れとはいえ、人殺しは人殺しである。

 薩長に属する方には恨んでいる方も多かろうと思う。

 けれども、その罪を認識した上で彼らの功績を認めてほしい。

 歴史上では敗者といえども、新撰組の行いは現在の京都の景観保持に一役買ったのだから。

 その点について思うところあり、記事をしたためた次第である。


 最後に土方氏について、二つほど他者からの評価を記しておく。

 敬称略にて失礼する。


『色は青い方、躯体もまた大ならず、漆のような髪を長ごう振り乱してある、ざっと云えば一個の美男子と申すべき相貌に覚えました』

 二本松藩士の安部井磐音の回顧談より。


『歳三は鋭敏沈勇、百事を為す稲妻の如し』

 幕府奥医師の松本良順の手記より。


******


 記事を読み終わり、彼女は目元を緩ませた。

 窓の外へと目をやる。

 桜が満開の季節だ。

 白に近い薄紅が、はらりと風に揺れていた。


「副長さんなら、桜では無く梅がいいと言ったかなあ」


 微かに笑った。

 写真にもう一度目を通した。

 記憶にある副長さんの姿が刺激された。

 言葉を交わしたのは十五年近くも前になる。

 それでも彼女は覚えていた。


 "その窓、綺麗ですよね。陽の光もすっと通ってとっても幻想的なんですよ"


 "ああ、そうだな……っと"


 ごく短い会話だった。

 だがそれがきっかけとなり、その後のやり取りに繋がった。

 ほとんどの人には怖い鬼の副長だったと思う。

 それでも彼女にとっては優しい副長さんだった。


「あなたのおかげで今も私は京都に住めているんですね」


 懐かしく、またほんの少し切ない。

 それでも彼女は−−おつうはもう一度写真に目を通し、丁寧に新聞を畳んだ。 

 立ち上がり壁の時計を見る。

 もうじき夫と子供が帰ってくる頃である。

 夕餉の仕度にかからねばならない。


 "副長さんのこと、話してもいいかしらね"


 他愛もない昔話として語り継いでもいいかもしれない。

 明治維新の敗者の一人としてではなく。

 瀟洒で優しい部分もあった一人の青年として。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「梅の花 一輪咲いても 梅は梅」 新撰組副長と豊玉師匠 どっちが土方だったのか [一言] 完結お疲れ様です
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