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俺が新撰組だ! 〜土方歳三は最後まで武士です〜  作者: 足軽三郎
第一章 京都にて 〜新撰組、活躍の時〜
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第十三話 長州藩士は何処

「見つかるかね、土方さん」


「見つけなければならんよ、源さん」


「そうだね、うん」


 なんということもない会話である。

 歳三に頷いた男は井上源三郎という。

 歳三より五歳ほど上だが、見た目はもっと上に見えた。

 近藤、沖田らと同じく試衛館の同門である。

 性格は温厚であり、隊士からも慕われていた。


「見つけないとえらいことになるからなあ」


 井上の声は朴訥である。

 外見も朴訥である。

 剣の腕は立つが、一見そうと感じさせない。

 真面目ではあるが才気ばしったところはない。

 だが、この井上の愚鈍なまでの朴訥さは時として役に立つ。

 歳三が自分の捜索隊に入れた理由はそこにあった。


「そうだ、京都中に火など放たれてはえらいことになる。だからこそ、絶対に止めねばならない。源さん、頼りにしているよ」


「うむ、わしに任せておけ。長州者になど好きにはさせんよ」


 井上は口元をきっと結んだ。

 意気に応える性格である。

 捜索は地味な任務だ。

 長州藩士がどの料亭や茶屋にいるかなど、まるで分からない。

 一軒一軒慎重に調べていかねばならない。

 最初は高かった士気もこの暑さの中では鈍り出す。


 "だから源さんなのだ"


 歳三は無言のままだ。

 だが井上には感謝している。

 黙々と業務遂行を目指す姿は周囲に好影響を与える。

 自分との組み合わせが良いことも考慮している。

 人員配置の妙は歳三の長所である。


「どうした、年輩の井上君がこれほどに励んでいるのだ。長州の非道を狩り尽くすまで今日は終わらぬぞ」


 じろりと隊士を見渡した。

 声には多少の演技をまぶす。

 副長は冷厳冷徹でいい。

 隊士が震え上がった後、井上が和ませてくれるだろう。

 そこまで考慮していた。

 この気候の下、長時間の任務は堪えるのが普通だ。

 だが、気の緩みは死に繋がる。

 張り詰め過ぎず、緩過ぎず、地道に捜索任務を行うことだ。

 じわりと汗が額に浮いている。

 涼しい顔で拭い、そのまま井上と肩を並べた。

 向こうから話しかけてきた。


「ところで土方さん。集まりそうな場所にはほんとうに一つも目星がついていないのかい」


「何故そう思います?」


「いやね。土方さんは頭がいいからな。二、三軒くらいは心当たりがあるのでは−−と思ってね」


「まさか。私は占い師じゃない。奴等の居場所など見当もつかないさ」


 笑ってかわした。

 だが、実のところまったく心当たりが無いでもない。

 長州藩士がよく使う料亭や茶屋は記憶している。

 "島村"や"奈良富"などは怪しい。

 隊に告知しなかったのは先入観を持たせないためだ。


「近藤さん達が見つけるか、俺達が見つけるか。競争だな」


 わざと軽口を叩く。

 隊士達が頷いた。

 歳三は鴨川の方を見た。

 川を挟んだあちら側でも、近藤達が懸命な捜索をしているはずだ。


「見つけるさ、必ずな」


 どちらが見つけてもいい。

 結果として御所が守られ、京都の町が守られればいい。

 かつ新撰組の評価が改まればいい。

 そんなことを考えつつ、歳三は次の茶屋へと向かった。


******


 歳三達と別れた後、近藤勇もまた任務を行っていた。

 片っ端から料亭や茶屋をあたる。

「新撰組である。市中取り締まりのお役目につき御免」と言えば、大抵は協力してくれる。

 なので調べ自体はそこまで困難ではない。


「だが数が多いな」


「このあたりは人も多いし、家がひしめいていますからね」


 近藤に答えたのは沖田である。

 常の朗らかさはそのままに、微妙な緊張感がある。

 一歩一歩にぴんと張り詰めたものがあった。

 

 彼らがいる通りは木屋町通という。

 すぐ左に高瀬川、右の方は先斗町通を挟んで鴨川である。

 だが家屋が並んでいるため、鴨川は見えない。

 沖田の言うとおり、人も多くごみごみしている。

 旅客相手の旅籠も多い。


「まったく賑やかなことさ。流石は祇園祭前だな」


 永倉新八が呟く。

 この間にも目線は左右にやっている。

 旅装の者が比較的多い。

 祇園祭のために遠方から来た人々だ。

 だが、この中に長州藩士が偽装しているかもしれない。

 古屋の話が本当なら、一定数紛れているはずだ。


「難儀なことだよ」


「仕方なかろう、永倉君。一人一人捕まえて尋問するわけにもいかん」


「それはそうですがね」


 とはいえ、近藤も永倉の気持ちは分かる。

 木屋町通には繁盛している茶屋も多い。

 人々の雰囲気が祭を前に浮き立っている。

 なのになぜ自分達は暑苦しい格好で捜索しているのか。

 手っ取り早い手段が取れれば、と思うくらいは仕方ない。


「だが焦りは禁物だ。いらぬ騒ぎを起こせば長州の奴等が逃げ出す。そうなれば捕縛の機会は無い」


 自分を戒めるかの如く、近藤は言い切った。

 時刻は既に四ツ時、つまり午後十時。

 提灯の灯りはあれど、さすがに暗い。

 そして夜風は微かに夏の昼間の熱気を残す。

 ふう、と一つ息をつく。


「ここまで空振りか。次はどこをあたるか」


 立ち止まった。

 ここは三条通と木屋町通が交差する辻である。

 目の前に三条小橋がある。

 この橋を歩けぱ高瀬川を渡り、三条通を進むことになる。

 木屋町通を北上していたので、左折して西へ方向転換するわけだ。

 この三条小橋の向こうには旅籠がずらりと並んでいた。

 その中には確か。


「怪しいな」


 近藤は唸った。

 疲れているのは確かだ。

 だがその目はじっと橋の向こうを睨んでいた。


「池田屋ですか。長州の定宿ですよね」


「本命中の本命か」


 沖田は微笑み、永倉は仏頂面となった。

 沖田の言うとおり、池田屋は長州藩士がよく利用している。

 会合を開くことは十分考えられる。


「うむ。もう夜も遅い。池田屋をあたってみよう。空振りなら歳たちと合流だ」


 近藤は腹を括った。

 ここで駄目なら鴨川の西側は駄目ということだ。

 つまり、歳三らの隊が受け持つ鴨川の東側を探さねばならない。

 一旦決めると近藤は速い。

 ずんずんと三条小橋を渡る。

 池田屋の看板が近づいてきた。


 "ん、あれは"


 ふと違和感を抱いた。

 夜空を背景に池田屋の輪郭が見えた。

 か細い灯りを頼りに、外観を眺める。

 その間にも違和感は大きくなる。

 ニ、三歩近づく。

 途端にその正体が分かった。

「あ」と声が出た。


 "雨戸が締め切られているのか"


 この暑い夏の夜に。

 何のためにか。


 "中で密談しか考えられぬな"


 それしか思い当たる節は無い。

 音が漏れることを恐れてか。

 ぎり、と歯を噛み締めた。

 近藤の大きな口がガツン、と閉じられる。


「諸君、ここのようだぞ」


 近藤は池田屋を見渡した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 池田屋  浅黄色の伝説の始まりですね [一言] CSの時代劇chで新撰組血風録をやってます 白黒時代劇も良いですね
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