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聖魔戦記  作者: 西條
英雄の卵達
21/36

旧友との誓い

前半マドカ視点からのユカリ視点となっております。



「あーーっ!疲れたーーーぁっ!!!」


 箒を持った私は天井へ向かい叫んだ。


 掃除時間約三時間。破壊した壁はそのままだが床は雑巾で綺麗に磨き、棚も元の位置に戻し多少マシになったと思われる。本来、もっと早く終わる予定だったのだがゴブ蔵がいるせいで数か所壁に穴が開いてしまい大幅なタイムロスをしてしまった。ちなみにゴブ蔵は邪魔なので掃除の途中で帰ってもらった。


「はぁー……疲れたぜー」


 失神してすぐさまシオンに叩き起こされたユカリは欠伸をした。保険医なのに負傷者の対応が雑過ぎる。その破天荒ぶりが聖魔学園らしいとも言えるのだけれど。


 時計を見ると既に九時を過ぎている。眠気が襲ってきてもいい時間帯だ。



「でもまさかアリスがロボットだったなんて驚いたぜ」


「ロボットじゃないですってば。魔導人形ですっ!」


 保健室にあった包帯で腰を補強し何とか立てるようになったアリスちゃんはユカリと楽しく談笑していた。アリスちゃんの身体が折れ失神するほど驚いていたユカリだがアリスがシオンの作った魔導人形だと知った時は「マジか」の三文字で済ませた。




「ふゎー眠いー」


「あともう少しじゃない。頑張りなさいよ」


 私が仕上げの掃き掃除をする最中、シオンが呑気そうに言った。保健室の主であるシオンは何もせずにぐうたらと保健室の真っ白なベッドで寝転がっている。



「まぁいいや……明日はゆっくり寝れるし」


「え?寝れないわよ?」


「え?なんで?」


「仕事しなさいよ。あんた達の為に仕事取ってんだから」


「ちなみに明日は六時起床」と付け足すと私は真顔で持っていた箒をへし折り床に投げ捨てた。


「ちょ――!保健室の箒!」


「マドカを怒らせたなシオン。マドカは十二時間の睡眠と適度な休みが無いとああなるんだ!」


「もうそれただのニートダメ人間じゃない!」


「そう。それがマドカだ」


「はぁ……もういいわ。あんた達帰っていいわよ……後は全部アリスにやらせるから」


「ふええっ!?!」


 自分が手伝う気は一切無いらしい。私の心身ともに限界に近い。アリスちゃんには悪いけどもう帰って寝たい。




「ごめんねっ!アリスちゃん!」


 やはり人間、本能には逆らえない。人を憐れむ気一切無しの満面の笑みで私は保健室を出て行った。






◇◇◇◇





 マドカが勢いよく部屋を出て行った。マドカも今日一日疲れたのだろう。私も今日一クタクタだ。メリーさんとかいう女に電撃攻めに合うわで本当に散々な一日であった。


「じゃ、私も部屋に戻るかな」


 私は大きな欠伸をした。全身に眠気が襲ってくる。早くベッドに入りたい。


「……俺も帰らせてもらう」


 なんだかんだでチームに加わったクラインが先に部屋に戻ろうとするがシオンに呼び止められる。




「言い忘れてたけどあんたの部屋相部屋になったから」




「……すまない。 もう一度言ってくれ」




「だから相部屋に………」



 クラインはマドカ顔負けの俊敏さで部屋を勢い良く飛び出して行く。


 クラインを見送るとシオンは「明日が楽しみねと」と微笑む。シオンが何を考えているか私には分からなかった。天才気質の人間はいまいち思考回路がよく分からない。



「クラインさん……どうしたんでしょうね?」


 アリスは頭に?マークを浮かばせている。シオンは「さぁ?」とニヤニヤと相槌を打つ。




 ――私はクラインに対しあまり良い印象は受けていない。




 まずサングラスだ。アレがクラインの第一印象を最悪にしている。現にアリスもクラインの事を怖がっていた。サングラス一つでここまで印象が変わるなんて驚きだ。


 性格も暴力でものを言う典型的な不良かと思っていたがそれは違った。


 

 意外にもただの根暗だったのだ。あいつは。



 何故だか知らないがクラインの態度が無性に腹が立って仕方が無い。あの無表情に苛立ちを覚えてしまう。考えるだけで悪口百個は言えそうだ。


 どうやらクラインは相部屋になったようだ。 内心、ざまぁみろ。



「はぁ……なんかクラインみたいな根暗は好きになれねぇなぁ……」


「そういう事を言うとレイアさんが……」


「レイアさん?」


「あっ!いえ!これはわたしの独り言です!」


 アリスは歯切れの悪い言い方をする。「レイアさん」について追求するがアリスは口を割らない。これ以上は無理だなと私は微妙な気持ちで保健室を後にした。





 保健室を出た私は自室に帰るべく廊下をふらふらと歩いていた。


 明日朝六時起床。超夜型の黒の一族には苦行だ。私はもう一度欠伸をすると後ろから物凄い勢いで走るクラインが通り過ぎた。声をかけようと立ち止まるがあまりの速さに呆然と見送ってしまった。



「どうしたんだ……あいつ?」


 明日聞いてみるかと呟き再び歩き出す。


 前方には紫色のロングヘアー女子がクラインの走り去った方向をずっと見つめていた。やはりクラインのサングラスは老若男女問わず注目されるのだろうと、女子生徒に近づいた。



「あー。うーんとあれだな……。 い、今通り過ぎたやつ面白かったな!」


 人と話すのが不慣れなせいか会話がぎこちない。そして完璧にクラインを話のネタにしてしまった。


 勇気を振り絞って話しかけたのだが女子生徒の耳には私の話が入っておらずボーっとしていた。折角話しかけたんだと私は諦めずに女子生徒に話しかける。


「名前はクラインって言うんだが何考えてるか分かんねーんだよなー……あはは」


 女子生徒の反応を窺った。相変わらずボーっとしているが不意に口元を歪め、笑い出した。




「うふ……うふ……うふふふふふふ」




 不気味な笑い声を聞き、ギョッとする。そして即座に「こいつは危ない奴だ」と判断し、その場を立ち去ろうとした。危ない奴は関わるとロクなことが無い。話しかけた自分が馬鹿だったと自重する。




「待ってください」



 女子生徒は私を引き留める。意外にも顔は可愛らしく外見からしてお嬢様だ。女子生徒はスカートの両端を掴み優雅にお辞儀をした。


「自己紹介申し遅れました。私はレイア。 貴女とは良き友人になれそうです」



(ん?レイア……?)




 保健室でクラインの悪口を言った際アリスが「レイアさん」と言う人名を口に出していたなと……とアリスと最後に交わした会話を思い出した。


 レイアは意外にも礼儀正しい。アリスが苦笑いするくらいだ。もっと危険人物かと思っていた。危ない奴と言う称号は無しになりそうだがその前に一つ疑問があった。



「なんで私の名前知ってるんだ?」


「なんでって……貴女クラインさんと同じチームじゃないですか」


「ん? クラインってそこまで有名だったか?」


「クラインさん……素敵ですわよね。サングラスの奥に秘めた優しさがたまりませんわ……嗚呼……クラインさん」


 レイアは遙か遠くを見てうっとりとしていた。頬はほんのり桜色に染まり紫色の瞳は星のようにキラキラと輝いていた。これはまさしく『恋する乙女』の顔だ。






「は?クラインが?」


「そうですよ?貴女には分かりませんか?クラインさんの良さを!」


「いや分からん。全く分からん。マジ分からん」


クラインの良さを探すが一つも無い。不気味な人形を好きというアリスも異常だがクラインに好意を持つレイアの方が余程異常だ。


「ふぅ……貴女には分かりませんか。残念です」


「あ、あのさぁ……あいつのどこが良いの?」


「知りたいですか⁉」



 レイアは鼻息を荒くし私に迫った。レイアの話を聞けばきっと朝になるのがオチだろう。



「いや、やっぱいいわ」


「いえ!そうおっしゃらずに!」


 距離を置くもレイアはジリジリと近づく。




「――いい加減にしろ」


「いたっ!」


 レイアの頭に何者かのチョップがヒットした。レイアは頭を擦りながら後ろを振り向くと黒いジャケットを着た黒髪の少年が立っていた。


「あら、ヤマトさんでしたか」


「お前今までどこ行ってたんだよ……お蔭で俺は一人で保健室に行く羽目になったぜ。つか保健室ボロボロだったし……一体何があったんだって感じだ」





「ヤ、ヤマト……?」





 私は思わず幼馴染み旧友の名を呟いてしまった。ヤマトは私の方を見ると目を見開き仰天した。



「お前……ユカリなのか……?」


「あぁ……ユカリだぜ。 お前の幼馴染の」 


 私とヤマトとマドカ――三人は幼い頃からの大親友であった。ヤマトは面倒見がよく黒の一族では無いマドカといつも遊んでいたマドカの兄貴分的な存在であった。


 しかし事件は三年前に起きた。ヤマトの兄が失踪したのだ。ヤマトは兄を探すと言いいきなり故郷を飛び出して行った。それから今までヤマトは戻ってくることは無かった。                     


 あれから三年、ここで会えるなんて思いもしなかった。マドカもきっと喜ぶだろう。私は感極まり床を飛び跳ねそのままヤマトに抱き着いた。



「ユカリ!まさかお前とここで会えるなんて思いもしなかった!」


「三年も何やってたんだよ!馬鹿! 私もマドカもどれほど心配した事か……!!」



「あ、あぁー……兄貴探し、をな」


 ヤマトは軽く目線を逸らした。この様子じゃ兄はまだ見つかっていないようだ。それもその筈、手掛かりも無しに故郷を出て行ったのだから見つかるはずが無い。



「それよりユカリがここにいるって事はマドカもいるのか?」


「同じチームだぜ。相変わらず馬鹿でアホのニートダメ人間だ」


「だろうな。明日にでも顔見せとかないとな」


 思い出話に花を咲かせているとレイアが不機嫌そうに二人の間に割って入った。



「酷いですわ!あんまりですわ!」


 今まで忘れ去られていたせいか少し涙目だ。


「すっかり忘れてたぜ……ごめんな?ヤマトと久しぶりに会ったら話が盛り上がっちゃってさ」


「なにが幼馴染ですか!羨ましいですわ!リア充爆発しやがれですわッ!」


「はいはい。すいませんねぇ。悪いけどレイア、部屋に戻ってくれねぇか?俺はユカリと色々話さなきゃならないからよ」


「ふんっ! いいですわねー盛り上がっちゃってーはいはい。分かりましたー邪魔者の私は部屋に戻りますわー。ふーんだ」


 レイアはブツブツと文句を言い廊下を歩いていく。悪い事をしたかと私は少し申し訳ない気分になってしまう。


「クラインの盗撮写真あげれば機嫌直すか……?」


「なんの話だ?」


「いやこっちの話だ。それよりヤマトと話すなんて久しぶりだぜ。話したいことが山ほどあり過ぎて困るくらい久しぶりだぜ」


「俺も同じだ。でもなんでお前らここに来たんだ?」


「マドカが突然行きたい!って言いだしてよ……」


「本当に突然だな。まぁそれがマドカというか。 ……ユカリ。マドカは虫並み……いやそれ以上に弱い。 マドカの事、頼んだぞ」




「このユカリちゃんに任せとけ!」




 私は親指を突出し胸を張って言った。その顔はどこか誇らしげだ。


「はは、頼もしいな」






(……私が頑張らないとな)




 クラインは役に立たない。あいつは精々、壁係だ。


 マドカを守れるのは私しかいない。マドカは私がいないと何も出来ない。だから私が守ってあげなくては……。何度も何度も自分の中で言い聞かせた。


西條です。


このユカリというキャラクターは私の中でもかなり気に入っています。なんというか…鎌使いの女の子ってカッコいいですよね!!

ユカリにはカッコいいというか出来るだけ女の子らしい部分を出していきたいな、って思います。カッコかわいい鎌っ子…素敵…。

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