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12  作者: 倉谷 梟帥
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13/13

6-(2)

 次の日、イナンナと日向(ひゅうが)は、再びケヴィンのアパートを訪(おとず)れた。室内を見回す。先日、ミセス・オブライエンと共に部屋を出た時と変わっていない。ケヴィンがここに戻(もど)って来た形跡(けいせき)はない。正面にデスクと、その上の散乱した書物とノートが見える。目指す目標はあそこだ。

 二人は目を合わせ、互いに頷(うなず)きあうと、真っ直ぐにデスクに向かう。予(あらかじ)めノートに書かれていたメモを一覧表にまとめてある。その上、それを2分割してイナンナと日向(ひゅうが)の担当も決めてある。二人はそれぞれの目当(めあ)ての本を山の中から探す。数字はページ数だろうと想像している。慌(あわ)ただしくページをめくり、目当てのページを開(ひら)き、おかしな所がないか、目を皿にして見回す。

「あった!これだ!」

 ページの余白にケヴィンが書いたメモがある。

『nk he trusts me compl』

「何だこれ?NK?NKってなんだろ?」

 日向(ひゅうが)の声を聞いて、イナンナが彼の手元のページを覗(のぞ)き込む。

「文章を単語の途中でぶつ切りにしてあるのよ。私の方も。」

 イナンナは自分の開(ひら)いているページを日向(ひゅうが)に見せる。

『cion, I will be el』

「ほんとだ。これ、全部拾(ひろ)い出して、パズルの様(よう)に組み合わせてみれば良いのか。」

「そうね。兎(と)に角(かく)、書き込みをみんな写真に収めて、後で考えましょ。」

「ああ。」

 スマートフォンで、本の余白に書かれた書き込みを撮影していく。作業を進めていくと、広い余白に書かれた、長い文章に行き当る。

「うわ…」

 感嘆(かんたん)の声を上げた日向(ひゅうが)は、書かれた文章を凝視(ぎょうし)したまま、暫(しばら)く固まる。それから、忙(いそ)しく作業するイナンナの方に本を差し出した。

「これ、他のとはちょっと違う様だ。書いてある文字が、まるで読めない。」

 イナンナは、差し出された本に書かれた文章を見る。

『C Tha fios aig an neach aig a bheil fios air an fhìrinn dè a th' ann am mòrachd. Càit a bheil iuchair na fìrinn?

   Thusa a thàinig à Eden,Faighnich do dhuine sam bith aig a bheil fios air na h-àireamhan naomha.』

「…いいえ、これはこれで合ってる。」

「え?何語?」

「これはゲール語。スコットランドのケルト人が使っている言葉。…真(まこと)を知る者は、御業(みわざ)の何たるかを知る。真(まこと)に至(いた)る鍵(かぎ)はいずこにありや?エデンより来たりし者よ、聖なる数を知る者に訊(き)け。」

「凄(すご)いな、ナンはゲール語が分かるんだ。」

「祖父はゲール語話者(わしゃ)だから、少しは分かるわ。」

「ふーん。」日向(ひゅうが)は、自分の手元に本を戻(もど)し、文章をしげしげと眺(なが)める。「フィンは、北アイルランド人だよね。同じケルト人でも、使うならエール語になるんじゃない?なんでゲール語なのかな。」

「さあ。フィンを見付けた時に、聞いてみたら?」

 日向(ひゅうが)は小さく溜息(ためいき)をつくと、スマートフォンを構(かま)えて記録作業に戻(もど)る。

 結局、メモの調査に2時間かかったが、ノートのメモからリストアップした箇所(かしょ)を全(すべ)て見付ける事ができた。

「これで全部ね。」

 イナンナは、床に散らかりまくった本と論文を見下ろして溜息(ためいき)をつく。

「ノートに書かれたメモに、見落としは無いよね?」

 日向(ひゅうが)の心配性が頭をもたげる。

「昨日、二人でチェックしているから、平気でしょ。カメラに収めた物をこねくり回してみて、それで辻褄(つじつま)が合わなければ、また来れば良いわ。」

 イナンナは楽観的だ。それとも面倒臭(めんどくさ)がり屋だろうか。

「さ、片付けましょ。ケヴィンに怒られない様(よう)に。」

 日向(ひゅうが)は黙って頷(うなず)き、来た時よりもきれいに1つ1つ教科書を丁寧(ていねい)に揃(そろ)えた。


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