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次の日、イナンナと日向は、再びケヴィンのアパートを訪れた。室内を見回す。先日、ミセス・オブライエンと共に部屋を出た時と変わっていない。ケヴィンがここに戻って来た形跡はない。正面にデスクと、その上の散乱した書物とノートが見える。目指す目標はあそこだ。
二人は目を合わせ、互いに頷きあうと、真っ直ぐにデスクに向かう。予めノートに書かれていたメモを一覧表にまとめてある。その上、それを2分割してイナンナと日向の担当も決めてある。二人はそれぞれの目当ての本を山の中から探す。数字はページ数だろうと想像している。慌ただしくページをめくり、目当てのページを開き、おかしな所がないか、目を皿にして見回す。
「あった!これだ!」
ページの余白にケヴィンが書いたメモがある。
『nk he trusts me compl』
「何だこれ?NK?NKってなんだろ?」
日向の声を聞いて、イナンナが彼の手元のページを覗き込む。
「文章を単語の途中でぶつ切りにしてあるのよ。私の方も。」
イナンナは自分の開いているページを日向に見せる。
『cion, I will be el』
「ほんとだ。これ、全部拾い出して、パズルの様に組み合わせてみれば良いのか。」
「そうね。兎に角、書き込みをみんな写真に収めて、後で考えましょ。」
「ああ。」
スマートフォンで、本の余白に書かれた書き込みを撮影していく。作業を進めていくと、広い余白に書かれた、長い文章に行き当る。
「うわ…」
感嘆の声を上げた日向は、書かれた文章を凝視したまま、暫く固まる。それから、忙しく作業するイナンナの方に本を差し出した。
「これ、他のとはちょっと違う様だ。書いてある文字が、まるで読めない。」
イナンナは、差し出された本に書かれた文章を見る。
『C Tha fios aig an neach aig a bheil fios air an fhìrinn dè a th' ann am mòrachd. Càit a bheil iuchair na fìrinn?
Thusa a thàinig à Eden,Faighnich do dhuine sam bith aig a bheil fios air na h-àireamhan naomha.』
「…いいえ、これはこれで合ってる。」
「え?何語?」
「これはゲール語。スコットランドのケルト人が使っている言葉。…真を知る者は、御業の何たるかを知る。真に至る鍵はいずこにありや?エデンより来たりし者よ、聖なる数を知る者に訊け。」
「凄いな、ナンはゲール語が分かるんだ。」
「祖父はゲール語話者だから、少しは分かるわ。」
「ふーん。」日向は、自分の手元に本を戻し、文章をしげしげと眺める。「フィンは、北アイルランド人だよね。同じケルト人でも、使うならエール語になるんじゃない?なんでゲール語なのかな。」
「さあ。フィンを見付けた時に、聞いてみたら?」
日向は小さく溜息をつくと、スマートフォンを構えて記録作業に戻る。
結局、メモの調査に2時間かかったが、ノートのメモからリストアップした箇所を全て見付ける事ができた。
「これで全部ね。」
イナンナは、床に散らかりまくった本と論文を見下ろして溜息をつく。
「ノートに書かれたメモに、見落としは無いよね?」
日向の心配性が頭をもたげる。
「昨日、二人でチェックしているから、平気でしょ。カメラに収めた物をこねくり回してみて、それで辻褄が合わなければ、また来れば良いわ。」
イナンナは楽観的だ。それとも面倒臭がり屋だろうか。
「さ、片付けましょ。ケヴィンに怒られない様に。」
日向は黙って頷き、来た時よりもきれいに1つ1つ教科書を丁寧に揃えた。




