156、久遠、動物系配信者になる
「こんにちは~久遠で~す」
【キターーー!】
【久遠ちゃーん】
【今日はなんだろ?】
アークを引き取った私はしかるべき場所に移動し、いそいそと配信を始めた。
「今日は~、なんと!馬を買ったので皆に紹介したいと思いまーす!」
【わーパチパチ……って馬?】
【犬とか猫じゃなくて?】
【いきなり話のスケールが違うな】
いやー参ったね、まさかこの私が動物系配信者になろうとは。
正直若干彼らを白い目で見ていたのだが、今ではその気持ちが分からないでもないよ。
これがうちの子自慢ってやつか。
「てことで、先ほど牧場から引き取ったばかりのアークちゃんです」
私は敢えて牧場側の洗浄とか治療とかのサービスを拒否し、そのままの姿で連れてこさせた。
【マジで馬で草】
【あの、なんかボロボロなんだけど……】
【買ったの?拾ったんじゃなくて?】
当然ざわめく視聴者たち。
まあお待ちよ。
動物系動画はペットと飼い主のドラマチックな出会いから始まるものだ。
段ボールに入って捨てられてたり、なぜか海で溺れてたり。
「まずはこちらのVTRをご覧ください」
そう言って祖父が撮っていた牧場の一部始終を流す。
【総帥孫バカでワロタ】
【覇王みたいな馬欲しがる幼女www】
【でもこっちを選ぶ久遠ちゃん好き】
やはり劣悪な環境から優しい飼い主が助けるシーンはウケがいい。
この後飼い主の元で幸せになるのがエモいのだ。
でもやらせと疑われて大炎上することもあり、やりすぎは厳禁である。
その点私のはどう見てもノンフィクション、疑いようがない。
【馬の世界ではこれが日常なんだろうか】
【馬とか現実味がなさすぎて】
【まあ久遠ちゃんだし、何が起こっても不思議ではない】
うん、まあ大丈夫そう。
「そんなわけで私は!このアークを立派な競走馬に育てあげることにしたの!」
【納得(納得)】
【流石久遠プロデューサー】
【その歳でもう馬主かぁ……】
「まずはお風呂に入って綺麗にしましょうね~」
初手お風呂はペット動画の基本。
みすぼらしい見た目から一気に大変身する姿を見せることで、
視聴者はカタルシスを感じるのだ。
【お風呂?】
【REC】
【いや、お前らの期待通りにはならんだろ、だってここ……】
「じゃ、アーク」
「?」
「いってらっしゃい」
「ブヒヒン⁉」
そう言って馬を持ち上げ温泉に投げ入れる私。
そう、ここはチート温泉でお馴染み「月うさぎ温泉」。
怪我や病気で苦しむ奴がいたら、ここに放り込めば一発である。
「ブヒン!ブヒン!」
「ちゃんと肩まで浸かりなさい!」
モップで出ようとするアークを押し返す。
【投げ入れたwww】
【一見虐待だけどやってることは真逆という】
【受け入れろアークw】
最初は暴れていたが、悪いものじゃない、むしろ心地良いと分かるとアークは大人しくなった。
「よし、もういいでしょう、出なさいアーク」
「ブルル……」
うん、すっかり怪我が無くなってる、相変わらずぶっ飛んだ温泉だわ。
「さてお次は、と」
取り出だしたるは馬キチ一族である天原家が、長年の研究の末開発した高級馬用シャンプー。
それを同じく天原家が開発した馬用ブラシで磨く。
するとどうでしょう、くすんだ灰色だったアークの芦毛が、輝くような銀色になったではありませんか。
【おおー】
【すげー】
【そうはならんやろw】
馬臭さも消えて香りもすっかりフローラルだ。
「うん、立派になったわね」
「ブヒヒン♪」
「でも立派なのは見た目だけね」
「ブヒン⁉」
見た目が綺麗になった所でアークはまだ最弱のままだ。
私の馬になった以上それではいけない。
「着いてきなさい」
私が歩きだすとアークも大人しく着いてくる。
【女帝だ……】
【俺も久遠ちゃんのペットになりたい】
【↑お巡りさんこいつです】
「ここよ」
たどり着いたのは「流れる温水プール」用に作っていた楕円状の水路だ。
今は加水して温くなった温泉が張ってある。
これを見た時ピンと来たんだよね。
あ、これ馬の訓練に最適だわ、って。
「さあアーク、これに入って走りなさい!」
「ヒヒン?」
理解出来ていないようだが、とりあえず入らせて走らせてみる。
「ヒヒ~ン♪」
「うん、いい感じね」
何をしているかと言うと水中走行訓練である。
水の中を走らせることにより、足に負担をかけず効率よく全身を鍛えることができるのだ。
しかも、永遠に。
温泉の効果で体力は常にMax。
全力疾走をし続けても疲れることはない。
そしてここは山で高所なため、低酸素による負荷も期待できる。
坂も沢山あって、障害物もすぐ作ってくれる(元ニートたちが)。
まさに理想的なトレーニングスポットなのだ!
24時間疲れ知らずのトレーニング。
これが人間であったなら精神に異常をきたしてもおかしくはないが、
まあ馬なら大丈夫だろう、走るの大好きだし。
「アークファイトよ!全力で走り続けなさい!死なないから!」
「ヒ、ヒヒ~ン!」
プールサイドを並走しながら、メガホンでエールを送る。
【お、鬼トレーナー……】
【馬って走るの飽きたりするのかな?】
【たまには他のことにしてあげて?】
「さて、一旦ここで止めましょうか」
走らせること小一時間。
そろそろ次の段階へ進もう。
「アークー、こっちにきてー」
「ブヒヒン」
プールから上がり、素直にこちらに来るアーク。
「あれ?あなたなんか逞しくなってない?」
心なしか以前よりもしゃっきりしてるように見える。
【あの短時間で⁉】
【常に全力で走ってたらそりゃ……】
【恐ろしい程の早さで筋繊維が破壊と再生おこしてそう】
「まあいいや、ちょっと大人しくしててねー」
そう言って私はアークに鞍を取り付ける。
【お、乗るのか】
【まあ普通そうだろ】
【いきなりトレーニングから始める方がおかしい】
「よーし準備できた、よっと」
鐙に足をかけ、勢いを付けてまたがる。
「おおー、高ーい」
これが馬の上から見る景色かぁ。
普段の私の視点よりもずっと高い。
タケルの記憶にもない、初めて見る視点だ。
「確かに、これはいいかも」
伯父様たちがハマる気持ちも分かるかもしれない。
ちなみに私は乗馬は初めてだ。
でもまあなんとかなるだろう、漫画とかで読んだことあるし。
「じゃあ早速歩いてみようか」
「ブヒヒン」
歩きだすと意外と揺れる。
なるほどこんな感じか。
へーなるほどなるほど……。
「よしマスターした」
【早い】
【相変わらず理不尽な……】
「久遠ちゃーん、って馬⁉」
しばらく歩くと、元ニート達が作業している現場に辿りつく。
「やあやあ諸君、元気しとるかね」
ダメな社長みたいなこと言ってしまった。
「ど、どうしたんですかそれ」
「私、今日から動物系配信者になったから」
「なるほど?」
「まあ仕事終わったらアーカイブ見てよ」
「「はーい」」
手を振って別れる。
【あれが元ニートどもか……楽しそう】
【くっそ俺も応募してればよかった……!】
【二次募集もあったのに、まだ応募もしてない所がニートなんだよなぁ】
その後も作業員たちに散々見せびらかして、今日の配信は終了した。
「ふふ、大人気だったねアーク」
アークにブラシをかけながら話しかける。
「配信も盛り上がったし、アークの餌代だって沢山投げ銭もらったし、顔見せは大成功だね」
「ブヒヒン♪」
「おーお前もそう思う?まったく賢い奴だねぇ」
そう言って撫でまくる私。
気付けばすっかり馬を気に入ってしまった。
くっ、血は争えないという訳か……。
「よーしこの調子で強くなって、レースでも勝ちまくって私たちで伝説作るよ!」
「ブヒヒン!」
とは言え問題がないわけではない。
まず騎手がいない。
レースに出るには資格を持ったジョッキーが必要不可欠なのだ。
本当は私が乗りたいところだがこればっかりはどうにもならない。
いくら金を積もうとも無理なものは無理だ。
「まあ仕方ない、お爺様に頼むか」
誰か優秀な騎手を紹介してもらおう。
こっちなら金を積み放題だ。
と思ってたら次の配信であっさりと解決した。
「久遠ちゃん!」
配信をしていたら、作業中の元ニート集団から飛び出してきた男がいた。
【なんだなんだ?】
【トラブルか?】
「えーっと確か、元ニートのなまくらジョッキーさんだっけ?」
ここではハンドルネームで呼び合うことも多いから、私もハンドルネームで覚えている。
「あ、はい、まさか覚えててくれたなんて……」
でへへと照れるなまくらジョッキー。
【なんだこいつ……】
【お巡りさーん!】
「で、どうしたの?」
「お願いです!僕にその馬の世話を任せて貰えませんか⁉」
突然土下座をし、そう懇願するなまくらジョッキー。
「どうしたの突然。あ、なまくらジョッキーだから馬に詳しいとか?」
「はい、実は以前まで騎手をしておりまして……」
「へえ?」
一括りにニートと言っても色々いる。
生粋の怠け者から怪我をした働き者、やる気を失ったエリートなど様々だ。
でもまさかレア職業のジョッキーまで紛れていたとは。
「怪我が原因で引退したのですがおかげ様で完治しました、ありがとうございます!」
「いえいえ」
「ですが治った途端、以前は諦めていた馬が恋しくなりまして。なんとかしてまた馬に関わりたいと思っていたところ、先日の配信を見まして……」
居ても立っても居られなかったということか。
【そいつもしかして紀夫じゃないか?】
「のりお?知ってるの?」
【ああ~100年に一人の天才ジョッキー。馬に乗るために生まれてきた男、鞍馬紀夫だっけ?】
【紀夫ニートだったんか】
「そうなの?」
「あ、はい、恥ずかしながらそう呼ばれたこともありました。騎手は乗るだけではなく馬のトレーニングや世話もできます」
「なるほど、じゃ、採用」
「ほんとですか⁉」
【軽い】
【おめでとうノリオ】
いやラッキーだわ、
こんなにあっさり探し人が見つかるなんて。
慈善事業もやるもんだね。
もしかしたらこの2万人のニート(1万増えた)の中にも、隠れた人材がいるのかも知れないな。
「よしノリオ、あなたには私が不在の間、アークの世話を任せるわ」
「はい!」
「そしてアークの騎手もね」
「い、いいんですか?もう決まっているんじゃ……」
「いえまだよ。それにね、私のアークに乗るのなら、私の戦士であるあなたに頼みたいの」
「久遠ちゃん……」
戦士とはこの山で働く元ニートたちのことである。
全員私の熱狂的なファンであるため忠誠心がバカ高い。
「いい、私たちでアークを、最強の馬に育て上げるわよ!」
「はい!」
【うおー紀夫復活マジかよ!】
【競馬ファンにとって大ニュースやでこれ】
【最初のレースはみんなで応援に行こう】
【これ人気出すぎない?】
こうしてプロの専門家の手により、アークはより一層強力な馬へと変貌を遂げるのだった(短時間で)。




