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第九十九話 略奪傭兵

 村が襲撃されているというので駆けつけてみたら、味方だった。


 どうすんだこれ?

 やっつけちまっていいのか?

 いいわけないよな、一応、味方だし。


 かと言ってこのまま村を見捨てるのも忍びない。

 仕方がないので、略奪をやめるよう説得をすることにした。


 隠れていた各隊を整列させ、堂々と接近する。

 傭兵どもは突如として出現した謎の軍勢にも慌てることなく、略奪をやめて横隊を組み俺たちに相対した。

 思ったより手ごわそうだ。


「我が名は〈木こりのジャック〉。スティーブン王にお仕えするものである!

 貴殿らはホースヤード伯配下の兵とお見受けするが、間違いないか!」


 こちらの名乗りに、彼らは明らかに気配を緩ませた。

 頭目らしい騎乗した男が前に出て来た。


「いかにも我らはノルディア代公ジェラルド様にお仕えする傭兵隊である!

 我らに何か御用か!」


 やっぱりジェラルドの手下か。

 まったく行儀の悪い奴らを雇いやがって。


「我々は、村を襲う不埒な盗賊がいるとの通報を受けて駆け付けて参った!

 直ちに奪ったモノを返却し、退散せよ!

 素直に従うならばこの場は見逃してやる」


 だが、この勧告を聞いて相手の傭兵隊長はゲラゲラと笑いだした。


「〈木こり〉の旦那よう! 獲物の横取りはあんまりじゃないですかねえ?

 こっちだっててめえの配下を食わせてやらにゃあならねえ。

 大体、俺たちゃジェラルド様に食料の調達を命じられてるんだ。

 あっちへいけと言われて、はいそうですかってわけにゃあいかねえや」


 そう言いながら、自分のところの旗持ちに顎で合図して前に出す。


「どうしてもって言うんなら、この〈馬に烏〉の旗竿をへし折ってからにしてもらいましょうか」


 さて、面倒なことになったぞ。

 食糧調達を命じられたというのなら、そう遠くないところにジェラルドの本隊がいるはずだ。

 やるなら確実に、そして迅速に皆殺しにせにゃならん。

 万が一にも取り逃がしたり手間取ったりしようものなら、本隊からの増援が飛んでくるに違いない。


 まずはこのまま話し合いを続けよう。

 そうしながら両翼のウィルとエルマーに指示を出し、左右に回り込むよう動かそう。

 奴らがこちらの意図に気づいて退散するならよし。

 しないならそのまま皆殺しだ。


 そのように指示を出そうとしたその時、どこからか角笛の音が鳴り響いた。

 同時に重々しい蹄の轟きがこちらに近づいてくる。


 音のする方に目をやれば、果たして〈馬に烏〉の旗を掲げた騎兵部隊である。

 ジェラルドの奴、もう勘付きやがったのか?

 いや、それにしちゃおかしい。

 目の前の奴らの増援要請に応じてきたのなら明らかに速すぎる。

 だが傭兵どもは大喜びだ。


 状況は分からんが、ともかく大急ぎで皆に密集するよう指示を出す。

 左右に展開していたエルマー隊とウィル隊もこちらに駆けつけてきた。

 騎兵の数は百騎程。

 先頭にいるどこか見覚えのある鎧姿の騎士が騎槍を高く上げた。

 

 恐らくジェラルドだ。

 こちらは槍を持つ奴らを前に出して衝突に備える。


「槍持ちは膝をつき、石突を地面に刺して傾けろ!」


 槍衾というにはあまりに頼りないがやらないよりましだ。

 皆が逃げ出さぬよう、俺が前に出て金の斧を高々と掲げた。


「気合い入れろお!」


 俺が叫ぶと、兄弟たちが応じて気勢を上げる。


「おぉぉぉ!」


 気合は十分。これなら勝てないまでも無様は晒すまい。


「ウィル、先頭からやれ。よく引きつけろ」


「了解。弓隊構え! 先頭に狙いを定めろ!」


 ウィルの指示に従い弓隊が矢を番える。

 鎧を着込んだアイツを仕留めきれるかは分からないが、落馬させるだけでも多少は敵に混乱を起こせるはずだ。

 まるで動揺しなかったローズポート伯の騎馬隊は例外中の例外なんである。


 そう思っていたのだが、まもなく弓の射程に入るという直前にジェラルドらしき奴が進路を右に変えた。

 さすが、奴らとは共闘したことがあるだけに、こちらの弓の性能もしっかりと把握されているようだ。

 側面に回る気か? これはまずいことになったぞ。

 こちらも合わせて隊列を転回させる。

 だが、こんな隊列を組んでの戦い方は本来俺たちの得意とするところではない。

 足並みはたちまち乱れ、俺たちの密集陣はめちゃくちゃになってしまった。


 まったく嫌になる。ジェラルドは決して戦下手ではない。

 その上こちらの長所も限界も知り抜いている。

 万事休すだ。


 が、それに続くジェラルドの動きは全く予想外のものだった。

 奴はそのまま俺たちの横を素通りし、浮かれた傭兵どもの中に突っ込んでいく。

 突然の攻撃に、傭兵どもは逃げる間もなく蹂躙される。


 剣戟と蹄の騒音の中から、かすかに「なぜだー!」という叫びが聞こえた気がした。



「すまなかった。まったく恥ずかしいところをお見せした」


 虐殺が終わった後、こちらにやってきたジェラルドの第一声がこれだったので俺はのけぞった。

 戦闘中に頭にでも一撃もらったのかと思ったが、お供についてきたヒューバート殿がニコニコしているのを見るにそう言うわけではないらしい。

 こいつ自身のことも気になるが、それはさておき今の状況について確認しておかねばならない。


「なんだってんだよ、今のは。

 ありゃお前さんの兵隊だったんじゃないのか?」


 俺の問いにジェラルドはため息を一つついて答えた。


「いかにも、我々が契約を結んだ傭兵隊だ」


 その顔はいかにも疲れ切った様子で、心なしかやつれているようにすら見えた。


「近頃に雇い入れた者らには質の悪いのが多くてな。

 食糧調達などと称して戦列を離れ、勝手に略奪を働く輩が多く出ているのだ。

 おかげで、こうして懲罰して回らねばならず行軍もままならん」


 呆れた話である。

 それではわざわざ金を出して兵を減らしているようなものだ。


「何でそんな奴ら雇ってるんだよ」


「雇いたくて雇っているわけではない! 兵が足らんのだ」


 ジェラルドが言うには、本来彼に協力することになっていた近隣領主がさっぱり兵を出してくれないのだという。

 一瞬、こいつの人望の問題かとも思いかけたが、よくよく考えてみればこの辺りはノルディア公でもあったエリック王の本拠地だったんである。

 それも、地元では大層人気のあったお人だ。

 その息子を裏切ったホースヤード伯の息子なんぞに協力的であるわけがない。

 なんなら兵を出さずとも敵に回らないだけましという状況であれば、あまり強く要請することもできないだろう。

 まったく八方塞がりである。


「ともかく、きさ……貴殿が来てくれて助かった。

 我がためとは言わぬ。どうか、ヴェロニカ殿下のためと思って御助力いただきたい」


 そう言ってジェラルドは俺に深々と頭を下げた。

 余程追い詰められていたのだろう。 

 こいつでなければ同情したくなるところだ。

 だがまあ、姫様のためと言われれば仕方がない。


「で、俺たちは何をすればいいんだ?

 城攻めの手伝いか? それともさっきみたいな不良傭兵どもの取り締まりか?」


「いや、実はもっと厄介な奴らに入り込まれていてな。

 そいつらの討伐を依頼したい」


「厄介な奴ら?」 


「そうだ。敵方に貴殿らのような後方かく乱に長けた者らがいてな。

 輜重隊が度々襲撃を受けている。

 おかげで食料の調達も容易ではなく、先程のような不良傭兵による略奪の一因になっている。

 我々も幾度か討伐を試みたが、奇襲伏撃に長け、逃げるも巧みでなかなか捉えることができずにいるのだ」


 なるほど、それは確かに俺たち向きの任務だ。


「わかった。別行動で構わないな?」


「うむ」


 と言うことは、俺は実質自由に振舞えるわけだ。

 コイツにあれこれ指示を出されずに済むなら願ったり叶ったりである。


「食料他の物資については……そうだな、ホースヤード伯の名で書状をつけてやる。

 これがあれば、こちらの勢力圏内であれば補給を無暗に断られることはないだろう。

 だが、近頃はどこの村も食料事情がひっ迫している。

 あまり無理な要請はしないでほしいところだが――どうした?」


 ジェラルドが俺の顔を見ながら不思議そうに首を傾げた。

 どうやら、少しばかり呆けた顔を見せてしまったらしい。

 先ほどから、随分とモノの分かったとこばかり言うので驚いてしまったんである。


「……いや、お前さんも随分変わったなと思ってさ」


「当然だ。少しでも殿下に相応しい男に近づかねばならん。

 たとえ張りぼてだろうとな」


 俺が返す言葉を見つける前に、ジェラルドはくるりと背を向けて言った。


「書状はすぐに届けさせよう。しばし待て」


 そうして振り返りもせずに歩き去って行った。

 後に残ったヒューバート殿が俺に深々と頭を下げる。


「まことに、ありがとうございました」


 何のことやらわからない。

 俺が戸惑っていると、ヒューバトード殿は頭を下げたまま言葉を続けた。


「貴殿とお会いしてから、若様は変わられました。

 恐らく、貴殿のありようが若様への良い刺激になったのでしょう。

 以前の事を水に流せとまでは申せませぬが、どうか関係を改める機会をいただきたく。

 これは、若様だけではなく、ジャック殿におかれましても益のあることと存じます」


 そう言い終わっても老騎士殿は頭を上げようとしない。


「お顔を上げてください、ヒューバート殿」


 ヒューバート殿が不安気に顔を見せる。

 俺は正直に答えた。


「お約束はできません」


 彼の表情が曇る。

 これではあまりにも老騎士殿が不憫だ。

 だからこう付け加えた。


「しかし、お互いの行動次第では、あるいは」


 俺にとってはこれが限界だ。

 しかし彼にとっては十分であったらしい。


「ありがたきことにございます」


 ヒューバート殿は改めて一礼すると、小走りのジェラルドを追いかけていった。

 まったくジェラルドの奴は幸せ者だな。

次回は8/14を予定しています

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