踊る人たちの祭り
祭りにもいろいろな種類がありまして、今回はちょっと趣向を変えて、踊りがメインの祭りの話をしようと思います。
自分は一時期、四国の高知県に滞在しておりました。
酒好きで気安い気性の土地は自分の性に合っていましたが、いかんせん日差しが痛い。同じ日本の中で、こうも違うものかと驚いたものです。
そんな夏のある日。強い日差しを嫌って、朝早くに高知市内を移動していたときのこと。
動くものの無い静かな町が、ぼんやりと照らされ始めるなか。無人の町を横切る、人影を発見。
おや、こんな明朝に歩行者が、と目をやれば、頭部に翻る極彩色の羽織り。奇抜な色の髪の毛をパイナップルのように逆立て、大輪の花を頭に咲かせたお姉さんが歩いている。
羽織りに負けない強烈な色をしたズボンは、空飛ぶじゅうたんに乗る人が履いていそうな形。光沢のある生地でできた羽織りはひざ裏くらいまで長く、お姉さんの動きに合わせてふわふわなびく。
……なにごとでしょうか。
思考が停止した自分の見つめるなか、お姉さんは颯爽と歩き去って行った。
朝の出来事が忘れられず、気もそぞろに一日を過ごしていた。そんなとき、昼食を食べに入った食堂のすみに置かれたテレビに、映っていたのだ。
朝のお姉さんにも負けない派手な衣装をまとった集団が。
よさこい祭り。
話に聞いてはいたが、思っていたよりも大きな祭りらしい。祭りは四日間行われ、前夜祭、二日間の本祭、そして後夜祭の構成らしい。
テレビに出ているのは、昨夜の前夜祭の様子のようだ。
つまり、今日から本祭。
行かねば。この画面越しにも伝わる熱気に、身を浸しに行かねば。
妙な使命感に突き動かされて昼飯を掻き込み、向かうは祭り会場。
当時の自分の移動手段は自動二輪車で、会場付近の道路は踊りのために封鎖されているから入れない。
そこで、電車に乗って行くことにした。
高知駅前に着いた。
いつになく、人で賑わっている。見ると、踊りの当日参加申し込み所まである。
だが、踊りたいわけではない自分はスルー。
祭りのパンフレットだけもらう。
ここで、祭りの規模の大きさに驚いた。
市内の商店街とその近辺の道路が、軒並み踊りの場になっている。かなり広い。
広すぎて、どこに行っていいやらわからないので、いちばん近くの会場に行く。
商店街。いつもは人がぱらぱらと散見されるばかりで、用事がなければ行かない場所。
その長いアーケードいっぱいに、踊り子たちが熱気を振りまいている。日常が祭りに染め上げられ、空気までもが熱くたぎっているようだ。
あの熱は、そこに行かねば味わえない類いのものだ。ぜひ、一度その身で感じて欲しい。
流れるような踊りや力強い踊り。馬鹿みたいにでかい旗を振り回し、チームごとに音源を積んだトラックまで引き連れて踊る、全力投球具合。
もう、気持ち良く圧倒される以外にできることはない。
後になって聞けば、よさこい祭りのためにプロのダンサーに振り付けを依頼したり、衣装をデザイナーに作ってもらったりするらしい。
祭りが終われば来年の祭りのために、また夜毎集まり、練習を重ねるらしい。
信じられない。
踊ることに興味のない自分にはまったく想像もつかない世界だが、そんな自分でさえ魅せられた。
見るだけならば、またいつか行ってもいいかな、と思う祭りである。
やめどころがわからないので、ひとまず完結表示を出します。
また書きたくなったら、ふらりと追加するかもしれません。