ちんすこう
歌奈子が去った後の公園。
愛海は改めてちんすこうを確認したが、彼女の言う通りちんすこうの期限は今日までだった。
あくまで賞味期限なので明日以降に食べても問題ないのだろうが、気分的にこう……なんかいやだ。
今日中に消費したいところだが、半端な量ではない。余ったちんすこうをまとめて押し付けたのかと思うほど山盛りだ。
「どうしよう」
本当に困ったものだ。というか、他に渡す人はいなかったのだろうか。
「おっそれちんすこうだよな」
そんな彼女に話しかけてきたのは、愛海の同級生である雲母東弥で上下ともに黒のジャージという姿を見ると、部活の自主練の途中であろうか。
「そうなのよ。さっき、歌奈子にもらってね……期限今日までなんだけど、いくつかもらってくれない?」
「うーん……今日までか……まぁいいだろう。今から食べてもいいか?」
「どうぞ」
東弥はちんすこうを受け取るとそれを口に含む。
「うん。おいしい。愛敬も食べろよ」
「そうね。どちらにしても食べないともったいないし」
愛海は、東弥が開けた箱からちんすこうを取り出すと中の袋を開けて口に含む。サクサクとした独特の触感と程よい塩味のおかげでたくさんあったちんすこうは徐々になくなって行った。
「結構おいしいのね」
「だろ? 前に友だちにもらったんだけど、また食べたいななんて思ってたんだ」
二人並んでベンチに座りちんすこうを食べる。
気づけば、夕日は沈んでいき公園に設置された街灯が光をともした。
「もうこんな時間」
「わるいな。俺のせいで……」
「別に気にしなくていいけどさ……家すぐそこだし」
愛海は立ち上がって大きく伸びをする。
丘の上にあるこの公園からは街を一望できた。
徐々に灯っていく街灯、ぱらぱらとついていく家の灯り……街の灯りすべてにそれぞれの人生という名の物語があるのだろう。
ふと空を見上げれば、キラキラと輝く金星とはるか上空を飛ぶ飛行機の明かりが見えた。
「意外と街中だからな……星空は望めないか」
気づけば、東弥も同じように空を見上げていた。
これが、山の中とかだったら満天の星空とかなのだろうが、ここは残念ながら町の中だ……それでも
「きれいじゃない……確かに夜空の星は見えないけれど、街の灯りがこんなに見えるもの」
「確かに少し夜景を見るぐらいならこの場所はもってこいかもな」
あれがいつも使っている駅であそこが自宅であっちが歌奈子が通っている高校。
そんなことを考えながら視線を動かしていく。
「さてと……俺ももう帰らないとな……愛敬。家まで送っていくか?」
「えっ別にいいわよ。勝手に帰るから」
「でもな……俺のせいで遅くなったから」
そういう彼の顔は真剣そのものだ。
公園から出たらすぐ家があるのだが、こういうのも悪くないかもしれない。
「わかったわ。行きましょう」
帰ったら家族とまた、ちんすこうを食べようかな。
そんなことを考えながら愛海は家に向けて歩いて行った。




