土産話
いつも通りの夕暮れの公園。
愛海はいつもと同じように散歩していた。今日は、学校がなかったので制服ではなくあまり派手ではないワンピースを着てサンダルを履いていた。
丘の上にあるベンチに見覚えのある人影を見つけると愛海はそちらに向かって手を振った。
「おー愛海! やっぱり来てくれたか!」
どうやら愛海のことを待っていたようだ。
歌奈子は、満面の笑みで右手を振っていた。制服を着ているところを見ると今日も補習だったのだろう。
「どうしたの歌奈子?」
いつも偶然会うことが多いのだが、歌奈子がわざわざ公園で待っているのは珍しい。
急ぎ足で歌奈子の方へ駆け寄ると彼女は、左手に持った紙袋を愛海に突き出した。
「なにそれ?」
「旅行の土産! いやー渡すのすっかり忘れててさ!」
「へーどこ行ってたの?」
「沖縄だよ沖縄! いやーよかったよ!」
自慢げにうなづく歌奈子から紙袋を受け取るとさっそく中身を取り出す。
入っていたのは美しい海岸が描かれている箱に入っているちんすこうだ。
「へーちんすこうか……食べたことないな」
「そうなんだ。これ、結構おいしいよ。歌いたくなるぐらいに!」
「歌はやめてほしいかな」
苦笑いを浮かべながらちんすこうを紙袋に戻す。
「それでどうだったのさ、沖縄は?」
「うん。暑かった」
話を終えて立ち去ろうとする歌奈子の袖を思い切りつかんで引き戻す。
「そういうことじゃなくて」
「Okinawa is very hot.」
「なんで英語! 無駄に発音いいし!」
先ほどの英語を訳しても“沖縄はとても暑い”だ。つまり、さっきと変化がない。
「もっとあるでしょ! 海で泳いだとか、観光地に行ったとか!」
「あーそういう話ね……そうだ。首里城に行ったんだけどな」
やっとまともな土産話が聞けそうだと思い、愛海は先を促した。
「どうだったの?」
「全体的に赤っぽかった」
「あなたねぇ……」
あきれてものも言えないというのはこのことを言うのだろうか。
愛海はこめかみあたりを押さえながらどうしたものかと考え込んでいた。本当に彼女は沖縄へ行っていたのだろうかという疑念すら浮かび上がってきた。
「本当に沖縄に行ったの?」
「行ったよ。飛行機で那覇空港へ行ってそこからいろいろ乗り継いで波照間島まで……」
「いつ首里城に行ったの?」
記憶が正しければ、波照間島に首里城はなく、空港からモノレールに乗っていくはずだ。
だが、歌奈子は気にするなと言わんばかりに愛海の肩をたたいていた。
「そこは気にしない! 気にしない! いやー親戚の家についた時点でへとへとですぐに眠っちゃってさ」
「沖縄に親戚がいるの?」
「そうなんだよ! おっそろそろ時間だ。じゃあな!」
「えっちょっと!」
様々な疑問を残しながら歌奈子は駆け足で去っていく。
「そうだ! 言い忘れてたけど、そのちんすこうの期限今日までだからな! 今日中に食べろよ!」
大声でそう叫んだあと、彼女は愛海が抗議する声もなんのそのといった具合で一直線に走っていく。
今日も一日が終わろうとしていた。
やっぱり、夏休みは遠出するという方多いのでは?
ちなみに私は沖縄へ行ったことありません。(行きたいとは思うのですが、何せ遠いので……)
これからもよろしくお願いします。




