第29話 呪
ユースケは安アパートの一室に籠っていた。
そしてスマートフォンを見ている。画面にはSNSが映る。
「おいひき逃げの犯人としてお前の車が映ってるぞ!」
そう大学の友人から連絡が来たときはビックリした。
そしてそれが彼の車の特徴をとらえていたからだった。
「おいおいマジかよ……車のナンバーまで出てんじゃねぇか」
ユースケは毛布にくるまって震えている。いつ誰が押しかけて来るのかすら分からない。
通知の音が何度かなる。どこから噂が漏れた……
彼は思案する。田舎の両親はSNSなんて見ないだろうが生憎あそこまで広まっていては誰から情報を手に入れるかも分からない。
顔がバレるのも恐ろしいので大学にも行けず、買い物すら店員が俺の顔を知っているのではないかと言う恐ろしさに包まれる。
人の噂も七十五日だという者がいるかもしれない。でもそれが彼には効かない。
なぜなら本当にあの車でもってひき逃げしてしまったからだった。
あれは8時頃だった。彼は1時限目に講義があることを忘れており、慌てて一人暮らしのアパートを出て車に飛び乗った。その時点ですら危ないが問題はその後だった。
車を爆速で走らせて街の網目を通り過ぎていく。
あの道くらい慣れているつもりだった。しかし急ぎ過ぎていて道をはみ出していた少女に気づかなかった。
鈍い音がした後少し走って自分が当て逃げしたかもしれないことに気づいた。
この場で現場に舞い戻っていればまだ少女も助かり、自分の罪も少しはましになったのかもしれない。
しかし現実は非情なもので彼は講義を優先した。
「少しぶつかっただけだ。大した怪我じゃないだろう……大体あのガキだって道をはみ出ていたじゃあないか。両成敗で良いだろもう」
そんな考えで講義の出席カードを出してスマホで内職をしていると、ニュースサイトが目に留まった。
「激王町。犬神神社前でひき逃げアリ、少女は意識不明の重体」
それを聞いて飛び上がるかと思い、講義の場を取り繕うのに苦労した。
そしてそのニュースは最悪の結末を迎える。
先ほどの友人からまたラインが来る。
『なぁユースケ。お前あの日講義に走って入って来たよな。間に合ってはいたけど珍しくねぇか?』
知らない。
『お前まさか……』
知らない知らない知らない知らない知らない知らない……
ピンポンとチャイムが鳴り響く。
「すみませ~ん」
何の用だ。まさか警察……それにしては声が若々しいが。いや警察にもいろいろいるだろう。あぁいう感じで油断させる作戦なのかもしれない。続いて女子の声が聞こえる。
「いないんじゃない?」
「そうみたいだな。全く愚太郎お前良い年なんだから紙飛行機をあちこち飛ばすの止めろよ。挙句の果てにこんな家に入っちまったじゃねぇか」
「ごめんごめん。つい広い所で飛ばしたくなってさ」
紙飛行機が家に入っただけか……そんなの気にしている余裕はない。勝手に取ってくれ。そう言おうと近づいて見てみた。
そこには高校生ぐらいの男女が三人いた。
まさか家を突き止めようとして突っ込んでくる気じゃ……そんなの無理だ。自分の方が歳は上だが高校生3人を相手して勝ちきれる自信なんかない。
「取ってくれて構いませんよ。今風呂出たばかりで外に出れる状況じゃなくてですね」
ウソだ。勝手に取って帰ってくれこのガキども……そう思っていると。
「あぁいえでも車に傷つけてたりしたら申し訳が立たないですし。こういう時は言えと学園からのお達しで」
めんどくさい奴らだ。じゃあ1時間くらい放っておこう。飽きて帰るはずだ。
そんなことを思って踵を返した瞬間……
「ねぇ痛いよ……」
子供のころころした声が聞こえる。
「子供が転んだのか?」
無視してみる。すると別の声も聞こえてくる。
「痛いよ痛いよ……」
同じ声が聞こえる。しかも自分のすぐ近くから。
「ねぇあなたが私を轢いたの?」
自分の真後ろから聞こえる。あの時の小さい悲鳴と同じ声が……
恐る恐る振り返る。そこには……
あの時引いた少女がいた。
「あっああ……」
「痛いよぉ……成仏できないよぉ……」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!すみませんすみません」
男の悲鳴を聞いて俺たち高校生は陰で大笑いした。
本当は笑ってはいけないのだがこれであの男も少しは反省するかもしれない。
その後公園でたむろしているとパトカーが来てあのアパートから大学生くらいの男が出て来た。彼が犯人だったのか。
まぁどの道これで一件落着か。
隣にいる少女を見ると恨みを晴らしてスッキリした顔をしていた。




