【第3話 : ようこそ、騎士団へ】
第十一章:混沌と静寂
広場は数百人の合格者たちの歓声で満ちていた。その中で、ただ一人、フィンはうつむいていた。地面に向けられた視線、震える拳。試験に落ちたという現実が、彼の心に重くのしかかっていた。
周囲の合格者たちは嘲笑混じりの視線を向ける。
「あいつ、剣を握る資格もないくせに参加するなんて笑えるよな。」
「村の落ちこぼれって、こういうやつのことを言うんだろう。」
フィンは言い返すこともできず、その言葉が刺さるたびに、肩が小さく震えた。唇を噛みしめるが、それがかえって惨めさを際立たせるだけだった。
しかし、その時だった。広場の空気が一変した。嘲笑と歓声が一瞬でかき消え、静寂が広がった。まるで、目に見えない巨大な力が群衆全体を飲み込んだかのような緊張感。
第十二章:紫苑騎士団の団長
「やれやれ、賑やかだね。君たちがここでそんなに騒いでいる理由はなんだい?」
その声は静かで落ち着いていたが、広場全体に響き渡った。その主に目を向けた瞬間、誰もが息を呑んだ。紫色の長髪、碧色に輝く瞳、純白のコート。その姿は、ただ立っているだけで圧倒的な威厳を放っていた。身長は2メートルを超え、その存在感は異様なほどだった。
「私は、この国の紫苑騎士団団長、ゼクスだ。」
その名が告げられると、広場の人々が一斉にざわめき始めた。
「ゼクスだって…!?本物なのか…?」
「あの、伝説の英雄がここに現れるなんて…!」
試験官ですらも膝をつき、頭を垂れた。
「第六天衆の一人、ゼクス団長が自ら現れるなんて…。」
ゼクスはざわつく群衆を気にも留めず、静かに広場を見渡した。そして、彼の視線が一人の少年で止まる。
第十三章:伝承の剣
「君、少しこちらに来てくれるか?」
ゼクスの穏やかな声に、フィンは動けずにいた。しかし、周囲の視線に押されるように、ぎこちなく前に進み出た。
「その剣を見せてもらえるかな?」
フィンは驚きながらも、手に握っていた古びた剣をゼクスに差し出した。ゼクスはそれを軽く持ち上げ、一度振る。
その瞬間、大地が震えた。大気が振動し、地面に細かい亀裂が走る。そして試験用の石ではない、広場の中央に据えられた巨大な岩が音もなく真っ二つに割れた。
広場に衝撃が走った。人々は息を飲み、その光景に目を奪われた。
「なんだ…今の力は…?」
「あんな剣に、あんな力が…」
ゼクスは微笑みながら剣を見つめた。
「面白い。この剣を選んだのが君だというのが興味深い。」
フィンは驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「でも、僕は試験に失敗しました。この剣で石を壊すこともできなかったんです…。」
ゼクスは静かに首を振った。
「君が石を壊せなかったのは、剣が君を拒んだからではない。むしろ、剣が君を選んだからこそ、力を示す必要がなかったのだ。」
ゼクスの言葉に、フィンの胸にかすかな希望が芽生えた。
「この剣は伝承の剣だ。過去に数多くの英雄を導いてきた剣。そして、その剣は持ち主の覚醒を待っている。」
ゼクスは剣をフィンに戻しながら続けた。
「君の旅はここから始まる。諦めることなく、その剣と共に前に進むんだ。」
第十四章:新たな旅立ち
ゼクスは群衆に背を向けると、静かにフィンとジンに言葉を投げかけた。
ゼクスは二人を振り返り、静かに言った。
「ようこそ、ここからが君たちの新たな試練の始まりだ。」
フィンとジンは互いに目を合わせ、ゼクスの言葉を心に刻んだ。