【第2話 : 運命の一歩】
第八章:新たなる冒険
冷たい藁の感触が意識を揺り戻した。薄暗い馬小屋の天井が視界に入り、埃っぽい匂いが鼻を突く。全身が重く鈍い痛みが広がり、なぜ自分がここにいるのか思い出せない。ただ、ぼんやりとした記憶が頭の片隅で漂っている。
突然、扉が勢いよく開いた。
「おい、フィン!何してんだ!」
飛び込んできたのは大柄な少年だった。身長は190センチほどもあり、その大きな体格に似合わず鋭い声で叫ぶ。
「まさか俺のことも忘れたとか言わないよな?」
彼は手を腰に当て、ため息をついた。その表情には呆れと少しの不安が混ざっている。
「ジンだよ、ジン!お前の幼馴染だろ。村で一番の力持ちで、一番の速さを誇る。それが俺だ!」
彼は胸を叩き、どこか得意げに笑った。
ジンの顔には呆れが浮かびつつも、どこか心配する様子が伺えた。
フィンは混乱しながらも、彼の言葉に何かが引っかかった。確かにその名前には聞き覚えがある。しかし、自分自身の記憶が曖昧なままではどうにもならない。
「今日は傭兵団の入隊試験だぞ!俺たち、この日のためにどれだけ準備してきたと思ってるんだ!」
ジンは苛立ちながらフィンを引き起こし、力強く腕を引っ張った。
「こんなところで寝てる暇なんかないんだよ。走るぞ!試験に遅れたら台無しだ!」
その言葉に促されるように、フィンは体の重さを感じつつも馬小屋を飛び出した。
第九章:試験の門
朝の冷たい風が頬を切るように駆け抜け、村を抜ける道を走る二人。ジンはその大柄な体格に似合わず軽やかな足取りで先を進む。一方、フィンは足が重く、息も荒くなる。
道中、ジンは後ろを振り返りながら叫んだ。
「お前、大丈夫か?最近ずっとぼんやりしてたけど、今日くらいは気合入れろよ!傭兵団に入れれば、俺たちの人生は一気に変わるんだぜ!」
やがて視界に現れたのは、巨大な城塞都市だった。高くそびえる石壁が朝日に照らされ、門の前には長い列ができている。そこには武器を携えた者たちが並び、それぞれが緊張した面持ちを浮かべていた。
ジンは胸を張り、門番の前に進み出ると堂々と言った。
「俺たち、傭兵団の入隊試験を受けに来ました!」
門番は彼を一瞥し、少しの間沈黙した後、軽く頷いて二人を中に通した。
第十章:運命の試練
広場に集まった受験者はすでに百人を超えていた。その中央には巨大な石がいくつも置かれ、周囲には様々な武器が並べられている。屈強な試験官たちが厳しい表情で見守っていた。
「これより傭兵団入隊試験を開始する!」
試験官の声が広場全体に響き渡る。
「選んだ武器で目の前の石を叩き割れ!石を割った者だけが合格だ!」
ジンは真っ先に大振りの斧を手に取り、満足げに笑った。
「俺にはこれしかないだろ!」
一方で、フィンは並ぶ武器を見渡し、古びた剣を選んだ。その剣は手に馴染む感触があったが、どこか奇妙な違和感も感じた。
「次!」
試験官の声に、ジンが台座の前に進み出る。彼は深呼吸をし、全力で斧を振り下ろした。
「ふんっ!」
その瞬間、石は真っ二つに割れ、周囲から歓声が上がる。
「へっ、楽勝だな!」
ジンは得意げにフィンを振り返った。
「次!」
フィンの番が来た。震える手で剣を握りしめ、ゆっくりと台座の前に進み出る。
剣を振り上げ、全力で振り下ろす。だが、剣は石に弾かれ、高い音を響かせただけだった。石には傷一つついていない。
「不合格だ!」
試験官の冷たい声が広場を覆った。
フィンはその場に立ち尽くし、視線を落としたまま動けなかった。周囲のざわめきが遠のいていく。
失意の中、フィンは広場を後にする。ジンが遠くから声をかけているのが分かったが、その言葉は届かなかった。ただ、握りしめた剣が微かに温かく光るのを感じた。
その光はまるで、「これが終わりではない」と語りかけるかのようだった――。