第089話 古代都市と言われたら、何かありそうな魅力がある
「みんな、お疲れさま。元気かな? 病気や事故とか聞いてないけど、大丈夫? 問題ない? 何かあったらいつでも言ってね。帰りたくなっても大丈夫だよ」
夜、アシュリートの司会から会議が始まった。最近のリックは議事録係をしており、会議では常にアシュリートの隣に座る。『サウルス』で入力し、瞬時に本部の『記録の間』に送られる仕組みだ。
第四騎士団内の会議は全てこの形式で記録され、誰でも閲覧できる。
記録の連鎖と『サウルス』の使用に一番長けているリックが選ばれるのは必然であった。
遠隔魔法で、ミズネ達や遠方にいる騎士達も参加した。エメオラもいたが、単独行動中らしく背景が違う。今回はカポ村のローヌも参加しており、かわいい2人が一緒にいた。
『おとうちゃん!!』
『パパー!!』
久々の再会に、アレックとナタリーは大喜びではしゃいでいる。『ヒュートン』のセールスでカポ村に行った時以来の2人は、たった二年のうちに随分と大きく逞しくなった。
カヴァリアは少し気恥ずかしそうだ。
だが微笑ましい光景に文句を言う、野暮な団員はいない。
『お、元気にしてたか? 母さんに迷惑はかけてないか?』
『うん! ちゃんとしてるよ!』
『うっそだー! ナタリー、この前さみしいさみしいって泣いてたじゃん? ストレスで浮揚魔法使って、山のかたち変わっちゃったんだよ!』
『うそだよ! 泣いてないよっ!』
アレックに掴みかかるナタリーを、ローヌが慌てて掴んで引き離す。
2人が本気を出したら、家一軒ぐらい簡単に壊れそうだ。
それほどの強さを持つが、やっぱり未だ四歳の子供。
父の不在がさみしいとみえる。
『お父さん達は今から仕事だから、そこから離れて静かにしてなさい』
『はい』
『分かったぁ! またね!』
2人とも聞き分けよく席を外した。
「じゃあ始めようか。まず偵察したカーリアくんの報告からお願いするよ」
「はい。いわゆる古代都市を発見したのは昨日の昼1時26分、ここから南西におよそ十キロ離れた場所です。湖の側に小高い山があり、頂上近くに尖塔を発見しました。双眼鏡を使い二キロ離れた距離から三時間観察を続け、森の隙間から建物らしきものを五箇所確認しました。ただし山と周辺は森に覆われており、詳細は確認できていません」
ノモニルを出発して夏を過ごし、だいぶ帝国領内に侵入した。兵站を確実にするため遅々とした歩みではあるが、もう数十キロを踏破している。
「モンスターは居たのか?」
ヴィクトスが質問した。
「はい。観察中、鷲獅子が三羽飛び立つのを確認しました。翼にザルディア國の紋章を確認ずみです。また降り立つ鷲獅子も五羽ほど確認しましたが、どの鷲獅子も足に家一軒ほどの荷物箱をくくりつけていました」
「鷲獅子か……帝国軍の兵器モンスターだから、軍事拠点の可能性が高いね」
「そう思います」
初めての遭遇報告に、団員は静かになる。
いままで避けてきた戦闘が起こる可能性は、限りなく高い。
言葉にしなかったが、みな緊張していた。
「敵に見つからなかったか?」
「おそらく大丈夫と思います。ちょうど岩場の陰から観察できましたし、モンスター達に不自然な行動はありませんでした」
「他には? 地上でのモンスター活動は?」
「残念ながら手前の森が深く、それ以上モンスターの確認は出来ませんでした」
「リックくん、今まで遭遇したモンスターの種類と数はどんなだっけ?」
アシュリートがリックに確認を求める。
「はい。鬼熊が六匹、巨大亜ザリガニ等の川モンスターが五匹、グレイウルフの集団が二群、暴走馬の集団が四群です。ただどれも単発な遭遇で、野生のモンスターと判断していました。あと直接の遭遇ではないですが、ゴブリンの村とホビットの村を確認しています。おそらくオークの村と同様の成り立ちかと思われます」
「そうだね。やっぱり今回が、初めての帝国軍モンスターとの遭遇かな」
「そう思います」
「これが、オークさん達が言ってた古代都市イロスだろうね」
「お前、何か情報あるのか?」
ヴィクトスはあの時いなかったので、詳細は知らない。
既にタコタ社長はノモニルに戻っている。
「この前言った通りさ。彼らはだいぶアグラピア様に心酔しているようだし、僕たちと仲良くなっても利敵行為はしたくないだろう」
オークの忠告に従い、なるべくモンスターの村とは距離をとった箇所に道路を伸ばしている。先程のゴブリンやホビットの村にも接触を試みたが、門が堅く閉ざされ見張り台からが石と矢が降ってくるばかりで交渉の余地はなかった。
「どうする?」
『迂回するルートはないの?』
「残念ながら北側に湖が広がっているので、大幅に時間をロスします」
ミズネの質問に、カーリアが回答する。
「あとね、ミズネ。君に知らせてなくて悪かったけど、あそこに聖典のヒントがあるってオークくんから言われてるんだ」
『ほんと? 騙されてんじゃないの? アシュー、人がいいから騙されたこと何度もあったじゃない。私が止めなきゃ、美人局にやられそうだったでしょ?』
「高校生の僕じゃないよ。それに実際、行く価値はあると思う」
『戦争になっちゃわない?』
「うーん……そこが問題なんだよね……」
ミズネの指摘ももっともだ。軍事基地に乗り込んで、戦いが起きないはずがない。アシュリートも考えあぐねているようだった。
「んじゃ俺達で行くか? カヴァリア、ナイアも一緒で」
「はい」
「了解です。任せてください!」
ヴィクトスが声を上げると、二人も乗り気だ。戦士である彼らは土木工事ばかりの毎日に飽き飽きし、鬱憤を晴らしたそうな顔をしている。騎士にとって闘いは華。最近出番のない彼らは、日頃の鍛錬の成果を試したくてうずうずしているのだろう。
「僕らもいきたいでーす!」
「私もー!」
黒龍と白龍も手をあげた。人間姿だが、龍であるとは皆も知っている。2人とも目がキラキラしていて、何としても行きたそうだった。
「そうだね……僕も行こうかな……」
「アシュー、そしたら此処の守りはどうすんだ?」
「大丈夫だよ。カヴァリアとミラコフもいるし、予め結界を張るから作業を留めておけば問題ない。迎撃用で翼竜に乗れる騎士は残すよ」
「それならいっか。久しぶりに暴れるか?」
「いや、ヴィクトス、それは困るよ。あくまで穏便にお願いするよ」
アシュリートに窘められるものの、ヴィクトスは気にしていない。
「分かった、じゃあ三日後に編成部隊を組んで行こう」
アシュリートの決断で、会議が終わる。
終了後、『サウルス』でまだ議事録作成をしているリックに黒龍が近寄ってきた。
「お前も行くだろ? 面白そうじゃねえか?」
「え、あ、ああ」
リックは特に行きたいと思っていた訳ではない。だがセラナも白龍と何か喋っているし、この流れだと参加しそうだ。
(古代都市か……)
オロソでは、現王朝以前の建造物は殆ど取り壊されている。
それは、現王朝の正当化のために当然の行為とされていた。
なので、遺跡は瓦礫の山というイメージしかない。
古代都市と言うからには、遥か昔の建物が保存されているのだろう。
その点でリックも興味がそそられるものの、不安はあった。
(大丈夫かな……)
今回の遠征参加者は、明らかに歴戦の猛者達だ。
団長と副団長が同時に参加するのも初めてになる。
だから負けるイメージが全然つかない。
それが逆に、リックを不安にさせた。
「リックも行くでしょ?」
夜、テントで当然のようにセラナから確認を求められる。
「うん」
リックは覚悟を決めた。
* * *
三日後。秋晴れの天気は視界良好だ。
一隊は馬に乗って、イロスと思われる古代都市に向かう。アシュリート団長とヴィクトス副団長、ライア、リック、セラナ、黒龍に白龍と、精鋭揃いだ。フル装備で用意も万全である。
偵察隊が言っていた丘まで来ると、確かに湖の辺りに小高い山があった。
小一時間ほど観察するも、モンスターの出現はない。
「罠かな?」
「その可能性は高いな」
「どうする?」
「ここまで来たんだ、行くよ」
アシュリートを先頭に丘を駆け下り、森に到着する。広葉樹と針葉樹の混合で、高さ100m以上の立派な木もそびえていた。報告通り山の周りは森に覆われ、北側にある湖は広く、向こう岸は見えない。
だが近づいて探索すると、山に通じる道を発見する。
大型モンスターでも通れそうな幅だ。ただモンスターが待ち構えている様子はなく、道の先も木に覆われて門らしき建築物は見えなかった。
「待ってても仕方ない。行ってみようか」
モンスターに会わないと始まらないのも確かで、一同はアシュリートの意見に従い先に進む。森の中は鬱蒼として昼間でも薄暗かった。辺りを注視するものの、敵意あるモンスターはいない。
だが森の中をだいぶ進んだ時、それは起こった。
「きゃぁーーーー!!」
「セラナぁ!!」
ワサワサワサッ!!!!
突如両脇にある木から無数の枝が伸び、セラナを絡めとる。
共鳴するかのごとく、木々が物言わず騒ぎ始めた。
!!
森自体がモンスターだったのだ!!
木の枝はそのままセラナを樹上に持ち上げ、あっという間に連れ去っていく。
その手際の良さは出色もので、手慣れていた。
「まずいっ!」
咄嗟にアシュリートも火炎魔法を打ったものの、衝撃に耐え燃えることもない。騎士達を嘲笑うがごとく瞬く間にセラナは森に飲み込まれ、既にその姿はなかった。
……
騒ぎが収まると、木々達は何事もなく以前の姿に戻る。
その後、植物型モンスターが襲ってくる様子はない。
明らかにセラナのみを狙った仕業だ。
「僕の判断ミスだ……ごめん。一旦退却だ」
自信が過信につながった己の愚行を恥じるアシュリートを始め、悲痛な顔をした一同は無言で森を後にした。
(セラナ……)
直ぐにでも奪還に行きたいリックだが、敵の情報が何もないこの状況では返り討ちにあう可能性が高い。断腸の思いで断念するリックであった。




