第047話 ひとまず目的は達成された
話し合いの場は学校の校庭だった。北部で標高も高い地域なので、この時期でも夜は涼しく過ごしやすい。
アシュリートが映し出されたすぐ前には、いつもの3人に加えナイ=カポナが座っている。その後ろはカヴァリアやローヌら騎士がいた。残りはいつも通り自由に位置しており、ヴィクトスが連れてきた団員もいる。セラナはリックの隣でライアはフェリーヌの近くだ。
エメオラに見せつけるようにぴったりくっつくものの、後ろを振り向く気配はない。
村人らも思い思いに座り、アシュリートの立体映像を物珍しく眺めていた。大人達は酒が入り子供も沢山いるのでガヤガヤ騒がしく、ちょっとしたお祭りだ。
「……報告ありがとう。つまり、危機を察知したミズネがエメオラと一緒にザルディア女帝様を押し留めたあとカポ村に行ってみると、奸計にはめられたヴィクトスがお楽しみの最中2人が黒龍を奪って一発逆転、カポ村にいる暗黒魔道士を追い出したって事かな?」
「いや、面目ない……」
ヴィクトスが俯きながら同意する。自業自得とも言えるけれど、やはり心の傷は癒えてないようだ。女性達を通じて村人に知られる可能性を恐れてか、彼の背中が一回り小さく見えた。
「うーん、ちょっと違うかな。女王様をかわせたのは、リック君が無意識で出した技のおかげです。凄かったよ。アシューにも見て欲しかったぐらい」
「へえ」
「い、いえ偶然ですよ」
ミズネから名指しされて、リックは謙遜していた。
技に再現性がないので、過剰な期待は困るというのもある。
まだ名前を決めてないからといった理由ではない。
「まあまあ、そう言わず。リック君カポ村ではドジって落とし穴にはまったけど、セラナちゃんと一緒に運良くナイ=カポナさんと会い共闘に持ち込んだのも、大事な働きでした」
「そうなんだ、活躍したんだね」
「あ、ありがとうございます」
アシュリートからも褒められ、少し恥ずかしかった。
セラナは別なことを思い出し、恥ずかしくなる。
「あと黒龍についても私は契約解除して再契約しただけで、後の現場はカヴァリア君とローヌさん、ライア君にフェリーヌちゃんの働きです。それにヴィク君の動きもミラコフ君が教えてくれなきゃ分からなかったし、彼らも復興作業に励んだおかげで、今日一日で村もかなり復旧しました」
「そうなんだ。いずれにせよ皆良く頑張ったね。お疲れ様。それで、肝心のカポ村との交渉は大丈夫かな?」
「それは俺が約束する」
ナイ=カポナが立ち上がった。
つられて、村人も少し静かになる。
「初めまして、第四騎士団団長殿。俺は村長の息子のナイ=カポナだ」
「はじめまして。今回は急な訪問でおまけに村の一部を破壊してしまい、申し訳ありません。後で事務方を派遣して損害賠償の見積もりを出すので、宜しくお願いします」
「お気遣い感謝する。そもそも自分達で播いた種だから、あまり言えた義理じゃない。税金は、俺が親父に約束させる。だが一つ言っておくが、俺達はオロソに従うわけじゃない」
ナイ=カポナは念を押すように言った。
その言葉に、アシュリートの顔も引き締まる。
「お前ら第四騎士団が、信頼に足ると思ったからだ」
「それはそれは。どうもありがとう」
ナイ=カポナの言葉に、アシュリート達は感謝した。
交渉は、何事も互いを信頼することから始まる。
「俺達の村は貧しく、阿片が無ければ生活が立ち行かなかった。ヴィクトスを接待した彼女達もそうだ。口減らしで村を出て都会で働いていたのに、急に法律が変わり失業の憂き目にあったのもいる。そうなると貧困まっしぐら。悪い奴に騙された挙句、奴隷同然になったりカルトや反政府活動に強制参加させられたのも、一人や二人じゃない。コネもなく無学な奴は、騙されやすいのが世の常だ。話を聞き彼女達を救うために俺達が街に行ったのも、一度や二度じゃない」
「そうか……」
ナイ=カポナの言葉は重く、アシュリート達も言葉が出ない。
「廃人同様になっても、戻ってこれただけ未だマシだ。行方知れずも多い。自己責任と言う奴もいるが、政府と癒着して補助金をせしめているNPOや社団法人も多いと聞く。とにかくあいつらは信用できない」
「そうだね……」
名門三家の出身であるアシュリート達だから、彼以上に内実を知っている。だから余計に彼の言葉を否定することは出来なかった。
リックは、村でも似た境遇の知り合いがいた事を思い出す。幼なじみで優しかったキュアお姉さんは、17歳ごろ家を出たきり行方知れずだ。小さい頃は気付かなかったが、思えばカポ村の彼女達と同じ境遇だったのかもしれない。
「お前達は、対等な立場として俺たちを扱ってくれた。そんな奴らは初めてだ。今まで来たのは上から目線で命令口調の奴らばっかりだったからな。黒龍を奪還した後も、村に損害を出さないよう努力していたと報告を受けている。村を代表して礼を言う」
「ありがとう。騎士として当然だけどね」
「その言葉、第三騎士団に言ってやれ」
ナイ=カポナの皮肉に、場が和む。この辺、M何とか星雲から来た宇宙人やゴリラとクジラの合成化物達とは違う。後片付けをするまでが任務だ。
「王に言っておけ。第四騎士団がいる限り、カポ村は税金を払うと。だが信頼が損なわれれば、その限りではない」
「分かった。王様に伝えておくよ。それで提案なのだけど、第四騎士団の支部を置いても良いかな? もちろん対等な立場で契約金を払います。当然だけどカポ村の法律が及ぶようにするから、特権はない。何なら、派遣団員が教育や技術指導をしても良いよ」
その言葉に、ナイ=カポナは意外といった顔をした。
「その申し出はありがたい。俺達は俺達だけでこの村を守りたいが、まだ弱いのも事実だ。うちの若い者を第四騎士団で鍛えてもらうのも可能だろうか?」
「ええ、もちろん」
「分かった。親父の土地が使えるから、後で話をつけておこう」
「よろしくお願いします。じゃあ話し合いはこれぐらいで良いかな? 他に何かある?」
村人からも団員からも、特に意見は無かった。
「大丈夫みたいね」
「今日は色々とありがとう。時間を作って僕も一度行きますので、その時はよろしくお願いします」
「ああ、こちらもよろしくお願いする」
「村長さんにもよろしく。じゃあ」
アシュリートの立体映像が消え、その後は団員と村人が朝まで飲み明かした。
翌日、エメオラやミズネが帰った後も、リック達は残ってカポ村の復旧工事や第四騎士団駐屯地設営作業に励んだ。規定通りの休暇は取れるものの、国境地帯の工事も進行中だから人員配置が中々難しく、何かと忙しい。
あっという間に時間が過ぎ、オロソ歴326年も12月となる。
「わぁ、久しぶりだなあ」
「ほんと、懐かしい」
「ふう。しばらくは元の暮らしに戻れるぞ」
「みんな帰ってこれて良かったね。冬コミには間に合いそうだし」
役割を終え、リック達4人は第四騎士団本部へと帰ってきた。




