第020話 次の目的地に行く前に
巡回警備は、その後も続いた。
思ったより治安は良く、街の人々も好意的で安心する。
余った食べ物を分けてもらえ、食事も豪華になった。
ジュクシンやブクロイケも特色のある街で、フェリーヌはブクロイケの”乙女なロード”をいたく気に入った。セラナはジュクシンのカブタ町にある射ちっ放し弓場に興味津々で、ライアはその近くのジムに立ち寄るのを日課にするなど、それぞれノモニルを満喫していた。
ちなみにリックに関して特筆すべき点は、108に張られたアイドルの巨大ポスターに見惚れ、セラナに小突かれたぐらいしかない。
ブシヤに立ち寄った時はキト達に会い、その後の様子も聞く。
彼らの溜まり場はブシヤ中心地から少し離れた公園で、近くでマルキーの両親が雑貨屋を営んでいた。公園か雑貨屋に顔を出せば野卍の誰かは居たから、話を聞くのにちょうど良い。
今日はヴィクトスも一緒に来て、キトとマルキーに会う。
ヴィクトスの方からリックに声をかけてきたので、訳ありのようだ。
「ヴィクさん、お疲れ様です。調子はどうですか?」
「ああ、特に変わりなくだ。ジュクシンもブクロイケも、似たようなものだな」
キトはヴィクトスに懐いていた。ヴィクトスも満更ではない。やはり強い者同士、気が合うらしい。
「良かった。あいつらにも話を通したから、大丈夫とは思っていたけど」
「そうか、それは助かる。第四騎士団を代表して礼を言う」
どうやら野卍と同等の勢力を持つジュクシンの”燭華亞”やブクロイケの”I.E.G.P.”も、野卍と第四騎士団の経緯を聞き静観しているらしい。治安の良さは、そのおかげもあるようだ。
「今までの第三騎士団が、酷かったんだ。俺達もいたからあんま言いたかねえけど」
「何で?」
リックが思わず尋ねた。薄々感じていたものの、現場の情報は貴重である。
第三騎士団は第四騎士団と交わろうとせず街の情報も共有しないと、ヴィクトスは常々愚痴をこぼしていた。リック達も、彼らから避けられていると感じていた。そもそも国境警備のはずがこんなに先延ばしにされること事態、おかしい。リック達も第三騎士団に対し不満が溜まりつつあった。
「警備代とか言って無銭飲食したり、気に入った物をただで持って行ったりしてたんだわ。んで歯向かったら冤罪作って刑務所行き。袖の下も本人の気分次第でどうとでもなる。騎士団に限らず地元の警察もおんなじよ。大体、普通の国の警察なんて真面目な奴はやらねえしな。威張っていた奴が退職後にどこかで殺されるなんて日常茶飯事さ」
「ああ、それで」
警備当初リック達が感じた、どことなく怯えた街の雰囲気が分かった。
権力を笠に着る者達の愚かさは、今に始まった事ではない。
「オレ達がいる限り、そんな真似はさせんよ」
「ヴィクさん、ありがとうございます。ずっといてくれると助かるっす。俺もこいつらの為に体張ってたけど、まともな騎士団が来てくれたから街の人も安心してます」
「そうか」
もしかして、第三騎士団は第四騎士団をはめようとして失敗したのかも知れないと、リックは思った。第四騎士団が彼らと何かやらかせば追い出す大義名分ができたのに、それが出来ず次の指令が遅れているのかも知れない。
(そうだったら、酷い奴らだな……)
彼らの真意は不明だが、いずれにせよ今は任務を全うするしかない。
「それであんた、俺達に何をして欲しいんだ? そろそろ何か話があんじゃねえかと思ってたけど」
マルキーが、ヴィクトスに尋ねる。
彼も、ヴィクトスが来た意味に気づいているようだ。
「そうだな。一つは、俺たちの製品を売って欲しい」
「製品? どんなのだ?」
「騎士団で開発した製品だが、まずは防寒着とか、衣料品だな。これからの季節に良いだろうと思って。違法な労働力は使ってないから、適正な値段で頼む」
「へえ」
冬の行軍も想定しているので、騎士団から支給される防寒着は暖かくて軽く、機能的だ。それなりに売れるだろうなと、リックも思った。
「まあ、いいぜ。親に言って置いてもらう」
「そうか、助かる。それでもう一つのお願いなんだが、製品を売る際、アッシュコインを流通させて欲しい。アッシュコインの方が安く買えるようにして欲しんだ。これも適正な範囲で構わない」
「ふうん。この前のコインだな。確かに、両替商のおっちゃん達からも評価が高かったよ。親に言っておくよ」
「ありがたい。じゃ、商談成立だ。今度オレ達の事務部の人間を連れてくる。アトキンソって奴だが優秀だ。彼が作った魔法の『超手帳』は優れものだから、両親に使ってみるよう言ってみてくれ」
「分かったよ」
* * *
そして更に秋も深まったある日の朝、第四騎士団全員に招集がかかった。
ヴィクトスが皆の前で話をする。
「昨日の夜、第三騎士団長から通達があった。『国境沿いに、カポ村を目指して進め』だそうだ」
「カポ村?」
「ああ、そうだ。北東部にあるらしいが、俺も詳しくは知らん」
名前がカマ村に似てるなと、リックは思った。
だがリックたちの村とは、場所が全然違う。
「三日後に出発だ。各自用意をしてくれ。リック、お前は残ってくれ」
「はい」
ヴィクトスの命令で残っていると、「彼らにところに行こう」と言われたので、ブシヤに行くこととなった。
「へえ、繁盛してるじゃないか」
「おお、ヴィクさん、あざーっす。バカ売れっすよ!」
店員として忙しく対応していたマルキーが言う通り、マルキーの両親が営む雑貨屋は、以前より繁盛していた。壁には【ヒートテク製品、在庫残りわずか! お支払いはアッシュコインで!】のチラシが貼られている。
「アトキンソが言ってた通りだな」
「いやあ、助かります! 野卍のメンバーを使って支店を出す計画もあるんすよ!」
「それは良かった。それで次のお願いがあるのだが」
「いいっすよ? 何ですか?」
マルキーはヴィクトスをすっかり信頼しているようだ。
かなりのお金が儲かったと見えて、顔つきにも余裕がある。
「オレ達は三日後、ここを離れることになった」
「え……マジっすか」
マルキーの顔が曇る。商売がうまくいってるだけに、残念なのだろう。
「安心しろ。アトキンソを使って納品は滞りなく進める。それよりも、国境地帯に沿って道路や砦を作りたい。十分な支払いをするから、人を集めてもらえないか」
「ああ、そういうことか。分かった、明日までに声かけておくよ」
「助かる」
こうして三日後、第四騎士団は出発となる。
マルキー達が声をかけた同行員は、騎士団員の五倍にも膨れ上がっていた。
「え? キトも来たの?」
その中にキトの姿を見て、リックは驚いた。
「おおよ。俺は商売は得意じゃねえからな。こんな体じゃ、みんな怯えるし。こっちの方が性に合うわ。ヴィクさんも、宜しくお願いします」
「ああ、頼むよ。心強い」
こうして、第四騎士団一行はノモニルの街を離れた。




