とあるのんびり屋の記憶
例え夢でも幸せならばいいだろう。
例え妄想でも幸せならばいいだろう。
現実はこんなにもつらいのだから。俺はただ、沈んでいく。
俺には小学校から、今、高校まで一緒だった幼馴染が何人かいた。というのも、俺は島に住んでいて、学校は小学校から高校まで一つしかなかったからだ。
高校まで一緒にいれば、もう家族同然だった。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
俺は誘われるが断った。
「わりぃ、もうちょっと」
「まじかー。じゃあ、手伝うか」
夏。蝉が鳴いて、スイカがおいしくて、海で遊ぶような時期。
「課題ってそんな大変?」
「あ、お前ら夏休みの課題やってないな」
「俺はやってるよ。半分終わらせた」
「そうやって油断して後悔するだろ」
「私は終わったけどね」
「うわ~いいな。後で写させてくんね?」
「だめ~。頑張りなさい」
「私ももうちょっとだよ」
「流石女子だな」
宿題を少し進めて、みんなで遊んだ。
サッカーで遊んだ。俺の蹴ったボールは全部ゴールに入って、みんなが俺を褒めた。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
俺は誘われるが断った。
「宿題、少し進めたいんだよね」
「まじかー。じゃあ、手伝うか」
秋。枯れ葉が舞って、サンマがおいしくて、落ち葉で遊ぶような時期。
「課題ってそんな大変?」
「シルバーウィークとはいえ、結構宿題で出るぞ?」
「俺はやってるよ。半分終わらせた」
「答え移さずちゃんとやれよ?」
「私は終わったけどね」
「うわ~いいな。後で写させてくんね?」
「だめ~。頑張りなさい」
「私ももうちょっとだよ」
「流石女子だな」
宿題を少し進めて、みんなで遊んだ。
かけっこで遊んだ。俺は最後まで捕まらなくて、みんなが褒めた。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
俺は誘われるが断った。
「もうちょっとやっていい?」
「まじかー。じゃあ、手伝うか」
冬。雪が降って、おでんがおいしくて、雪で遊ぶような時期。
「課題って縺昴sな大変?」
「冬休みはちゃんと間に合わせろよ?」
「俺はやってるよ。半分終わらせた」
「こりゃ、最終日で泣きついてくるパターンだな」
「私は終わった縺代←ね」
「うわ~いいな。後で写縺輔○てくんね?」
「だめ~。頑張りなさい」
「私も繧ゅ≧ちょっとだよ」
「流石女子縺?な」
宿題を少し進めて、みんなで遊んだ。
かくれんぼで遊んだ。俺は最後まで見つからなくて、みんなが褒めた。
「怜音! 驕ぼうぜ!」
俺は誘われるが断った。
「後、これだけ!」
「まじかー。じゃあ、謇倶シうか」
春。桜が舞って、筍がおいしくて、花見して遊ぶような時期。
「隱イ鬘ってそんな螟ァ螟?」
「春休みは少ないよ。って油断してると危ないよ」
「菫コはやってるよ。蜊雁?邨わらせた」
「それを油断って言うんだよ」
「遘は邨わったけどね」
「うわ~いいな。蠕で蜀させてくんね?」
「だめ~。鬆大シオりなさい」
「遘ももうちょっとだよ」
「豬∫浹螂ウ蟄だな」
宿題を少し進めて、みんなで遊んだ。
ドッジボールで遊んだ。俺の投げたボールは誰も取れなくって、みんな笑ってた。
「諤憺浹? 驕翫⊂縺?●?」
俺は誘われるが断った。
「ごめん! これだけやらして!」
「縺セ縺倥°繝シ縲縺倥c縺、謇倶シ昴≧縺」
夏。蝉が鳴いて、スイカがおいしくて、海で遊ぶような時期。
「隱イ鬘後▲縺ヲ縺昴s縺ェ螟ァ螟?」
「夏休みはただでさえ多いんだから、ちゃんとやれよ」
「菫コ縺ッ繧?▲縺ヲ繧九h縲蜊雁?邨ゅo繧峨○縺」
「俺知らねぇぞ? 見せてやらないからな~?」
「遘√?邨ゅo縺」縺溘¢縺ゥ縺ュ」
「縺?o?槭>縺?↑縲蠕後〒蜀吶&縺帙※縺上s縺ュ?」
「縺?繧?ス縲鬆大シオ繧翫↑縺輔>」
「遘√b繧ゅ≧縺。繧?▲縺ィ縺?繧」
「豬∫浹螂ウ蟄舌□縺ェ」
宿題を少し進めて、みんなで遊んだ。
サッカーで遊んだ。俺のドリブルで全員抜いて、みんなが俺を褒めた。
「諤憺浹? 驕翫⊂縺?●?」
菫コ縺ッ隱倥o繧後k縺梧妙縺」縺溘?
「ちょっと待ってて、これだけやっちゃう」
「縺セ縺倥°繝シ縲縺倥c縺、謇倶シ昴≧縺」
遘九?よ椡繧瑚痩縺瑚?縺」縺ヲ縲√し繝ウ繝槭′縺翫>縺励¥縺ヲ縲∬誠縺。闡峨〒驕翫?繧医≧縺ェ譎よ悄縲
「隱イ鬘後▲縺ヲ縺昴s縺ェ螟ァ螟?」
「こんな時期でも宿題は出てるんだからやっとけよ?」
「菫コ縺ッ繧?▲縺ヲ繧九h縲蜊雁?邨ゅo繧峨○縺」
「全部やっちゃえば楽だぞ~?」
「遘√?邨ゅo縺」縺溘¢縺ゥ縺ュ」
「縺?o?槭>縺?↑縲蠕後〒蜀吶&縺帙※縺上s縺ュ?」
「縺?繧?ス縲鬆大シオ繧翫↑縺輔>」
「遘√b繧ゅ≧縺。繧?▲縺ィ縺?繧」
「豬∫浹螂ウ蟄舌□縺ェ」
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「諤憺浹? 驕翫⊂縺?●?」
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「隱イ鬘後▲縺ヲ縺昴s縺ェ螟ァ螟会シ」
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サッカーをした。俺のパスは一度だってつながらなかった。
鬼ごっこをした。俺がいくら捕まえようと触っても、何の感触もなかった。
かくれんぼをした。俺が見つけたと言っても友達は隠れるのをやめなかった。
ドッジボールをした。俺のボールは誰の手にも渡ることは無かった。
俺を褒める声は、何と言ってるかわからなかった。
学校は廃れていて、家は崩れていて、友達の家はもうなくて。俺の宿題は全部木の板で、俺の食べ物はずっと木の実で。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
ボールが目の前に転がっている。
それを思いっきり蹴る。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
ボールが飛んでいった。
「ごめん、俺。宿題しなきゃ」
ボールが海へ向かっていった。
「まじかー。じゃあ、手伝うか」
ボールはそのまま波に消えた。
「課題ってそんな大変?」
俺は今まで持っていた木の板も海へ投げた。
「課題ってそんなに大変?」
木の板は海に消えた。
「・・・ああ、そうだよ」
崩れた家の残骸を海に投げる。
「俺はやってるよ。半分終わらせた」
投げているうちに、涙が出てきた。
「・・・お前ら、なんで」
家はもうほとんどなくなった。
「私は終わったけどね」
俺はそのまま歩き出した。
「・・・なんで、いないんだよ」
ずっと歩き続けた。
「うわ~いいな。後で写させてくんね?」
波が俺の足を濡らした。
「いなくなっちゃったんだよ」
体がどんどん濡れていった。
「だめ~。頑張りなさい」
もう肩まで沈んだ。
「俺も、連れて行けよ」
頭まで海の中に沈んだ。
「私ももうちょっとだよ」
海底に足を付けて、歩きにくかったけど歩き続けた。
おいていかないで。
俺の友達が目の前にいる。こんな水の中で宿題をしている。
「流石女子だな」
なんで、水の中で平気なんだよ。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
なんで、しゃべれているんだよ。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
・・・苦しい。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
・・・悲しい。
「怜音! 遊ぼうぜ!」
「————」
水の中で、うまくしゃべれなかった。水が口に入ってもっと苦しくなった。
「まじかー。じゃあ、手伝うか」
俺の島は人数が少なかったけど、みんな仲が良かった。俺もみんなと遊んでた。
ある夏休み、俺は一人で集落にある山の向こうへ少し出かけていた。友達の一人が誕生日で、何かないかなって探してた。
————それは、この世が終わるような大きな音だった。
地震が起きたのだった。俺はその振動で頭を打って気を失った。
目が覚めると、もうすっかり朝で、一夜を過ごしてしまったんだとわかった。
お母さんに怒られるな。
そんなことを思いながら、俺は家へ帰った。
家に帰ったら案の定怒られて・・・。
宿題をしようって思って、自分の部屋に行って宿題をしてたら、窓から名前を呼ばれた。
怜音、遊ぼうって。
・・・・・・。
————集落は無くなっていた。地震の後、津波がこの島を襲ったのだ。家も学校も小さなスーパーも小さな病院も流された。俺は偶然にも山の向こうに行ってたから無事だった。
その崩壊した集落を山の頂上から俺は見たんだ。
それは階段だった。苦しいのは消えていた。
「大丈夫か?」
大丈夫かって、初めて聞く言葉だ。
「わりぃ、もうちょっと」
もう、これでいいや。俺はずっと記憶の中に————
「もうちょっとって、何を待てばいいんだ?」
————!?
俺は声の主を見た。
そこにいたのは俺の友達じゃなかった。
白髪の男性だった。
「ハハ、夏休みの宿題終わらせてないのか?」
「ああ、そういうことか」
男性は少し考えて、それから口を開いた。
「夏休みはもう、とうの昔に終わったぞ」
「宿題、少し進めたいんだよね」
さっきのとは違う感情が沸く。
「もう宿題する必要はないぞ」
「答え移さずちゃんとやれよ?」
ああ、会話が成り立つ。
「答え移しても、終わるには終わるからいいんじゃないか?」
「アハハ、そうだな。終わるんだ。なあ、触れてもいいか?」
「別に構わないぞ?」
俺はその男性の手を触った。
「触れた・・・」
「当り前だ」
「さわれた~」
もう疲れたよ。
「・・・お疲れ様」
男性が優しく言った。
ああ、ちょっと、休むよ。
これは俺の、忘れたい話と、救われた話だ。