3話
ライムに案内され、少し大きな建物に来た。人混みを避けようと少し遠回りしたが、結局またあの人混みを通ることになった。
「ここがギルドです。・・・大丈夫ですか?」
ライムが少しふらふらしているロイヤルを心配する。
「ああ。お前は大丈夫なんだな」
ロイヤルが僕を見ていった。
「大丈夫なわけではないが・・・。まあ、人が嫌いでもないからな」
僕はギルドの扉を開けた。
「人、少ないんだな」
ギルドの中は案外質素で、カウンターとその横に大きな掲示板があり横には椅子と机が並んでいる。階段があり上に行けるようだが、ロープで行けないようにしてある。そして、ロイヤルの言った通り、人は少ない。カウンターに三人。冒険者だろうか、剣や弓などの武器を持った者が五、六人。人、というか先ほど説明された獣人というやつもいる。
「冒険者というのは人気ではありません。危険が伴う上、報酬もまちまちですから」
ライムが小さい声で言った。
「よく知ってるな」
「知り合いから聞きました。まあ、知り合いも魔物ですので本当か知りませんが」
「もしかして、ライムと話しているのか?」
ロイヤルが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「ああ、左耳の影にいるんだよ。そうか、小さい声で話すと聞こえないのか」
「分裂いたしましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
ライムは素早く分裂して右隣にいるロイヤルの左耳へと移った。
「人が少ないとはいえ、ちゃんと隠れてから移動すればいいのに」
僕らはひとまず、カウンターへと向かい、受付の人に話しかけた。
「こんにちは。どんな要件でしょうか?」
それはポニーテールをした女性だった。茶色のワンピースと白いエプロン、胸に赤いリボンがついている。どうやら正装のようだ。
「要件というか、聞き込みなんだが、いいか?」
「ハイ。構いませんよ」
「ラナキネというものを探している」
それを言った途端、女性の表情が深刻な顔になった。
「堕神討伐の方ですか・・・」
「堕神討伐?」
「堕神討伐を生業としているやつのことですよ」
それは後ろから聞こえてきた。
振り返ると、そこにはユウキがいた。
「また会いましたね」
ニコッと笑うユウキと敵意丸出しのメンバー。ロイヤルは特に変わらない。
「堕神討伐はお金も手に入るし、いい仕事なんですよ」
ユウキは僕が話しかけていた女性に話しかける。
「またお願いします」
「ハイ」
女性は奥から紙の束を持て来た。
「手配書です。堕神の名前が書いてあるんですよ」
「・・・どこから情報を?」
すると、カウンターの女性が答えてくれた。
「神様からですよ。下界に住んでいる神様から聞くんです。堕神の情報が入り次第、使いの人がここまで来て教えてくれるんですよ」
もしかして、ライムが隠れているのも、名前を教えないのも、これを警戒しているのか。
「もちろん私の名前もあります」
ライムが言った。
「そこにラナキネはあるか?」
「ラナキネ・・・ああ、ありましたよ。自ら神を名乗り人々を惑わしている」
僕は少し手配書を見せてもらった。
意外と読める。同じ星だからというのもあるのだろうか。
「・・・、なあ、これ全部手配書、全員殺せば金が入るのか?」
「ええ、そうですよ」
その紙の中からとある神が載っている物を出し、カウンターに置く。
「これもそうなのか」
それは元天災の神、カタロスト。人を殺すことを嫌い、自ら堕落を選んだ。
「カタロストをご存じで?」
「別に。適当にだ」
「それも手配者ですし、倒せばその下に書いてあるお金がもらえますよ」
手配書の下におそらく数字が書いてある。それよりも、その隣の優先度という欄が気になった。
「優先度とは?」
優先度の欄には星が五つ書いてある。カタロストのものには星が一つだけ黄色で、他は茶色だった。ラナキネのものは四つ黄色くなっていた。
「読んで字のごとくですよ」
「・・・単刀直入に聞こう。害がなくても殺す気か?」
「・・・? 堕神は殺すべきですよ?」
それがさも当たり前のように話す女性。
「話の途中いいですか。ラナキネは賞金も高いし、一緒に行きません?」
「一緒に行くって、場所はわかるのか?」
「大体の場所はわかりますよ。正確な場所は近くの人に聞いてください」
女性が答えた。
「ユウキの提案に乗りますか? 悪くはないと思われますが」
後ろから刺されなきゃいいがな。
「ロイヤルはどうだ?」
ロイヤルが答えるより早く、ユウキの仲間二人が声をあげた。
「ユウキ様、こんな奴らいなくても倒せます!」
「誰がこんな奴らと」
ユウキがそれをなだめている。
「今回の敵はいつも戦っていた堕神より強いんだよ?」
「強さとかわかるのか?」
「え? ああ、詳しいことはわからないんですけど、賞金が高ければ強いという解釈をしています」
「ふうん」
他の賞金と比べると確かに高い。基準がいまいちわからないが。
「同行の話、乗ろう。賞金の四分の一もらいたいが、いいか?」
「半分じゃなくていいんですか?」
僕とロイヤルは食事が必要ないし、何か買う予定もない。・・・それに、ここに長居する気はない。
「何かあったときのために」
「そうですか。わかりました。じゃあ、よろしくお願いしますね」
ひとまず、カウンターの前は邪魔なので、掲示板の横にある椅子に座った。
「改めて、俺はユウキって言います。右から、ヒルラ、フウル、リンです」
それはライムから聞いていたからな。
「僕はシロという。こっちがロイヤル」
「俺は魔法を使って戦います。ヒルラは魔法。フウルは回復専門。リンは武術」
これは、戦い方を言っているのか。回復専門って何だろうか。そもそもこの世界の回復手段を知らないので想像がつかない。
「僕は・・・」
一応、使えるのは射爪くらいなんだが。射爪ってこの世界に存在しているのか。
「射爪ってわかるか?」
「うん。爪のことですよね。へぇ、珍しいですね」
「俺は、斧だ」
「斧、ウォーリアーですね。俺のメンバ―、近接がいなかったので助かります」
「そうか。足を引っ張らないように頑張るよ」
ラナキネのいる場所は少し遠いらしく、明日の朝出発ということになった。
「それじゃあ、また明日ここで」
ユウキがギルドから出る。
「あの」
それはフウルだった。確か、回復専門と紹介されていた。頭の輪っかが気になる。
「先ほどはヒルラとリンがすみませんでした」
そういえば、フウルだけは僕らに対して何も言っていなかったな。
「あ~、気にしていないから」
「あの、ですね。えっと、これを」
それは虹色のひもだった。
「私の術を施したものです。小さなけがならばすぐに治せるんです。ごめんなさい。一つしか用意ができないので」
僕はロイヤルを見つめる。
ロイヤルははた迷惑そうに、手を出した。
「有難う。大切にするよ」
「はい」
フウルはロイヤルの手の上にひもを置くと、ユウキを追いかけた。
「・・・怪我」
僕はそんなものがなくても不死があるし、ライムも怪我はしない。
「消去法で俺か」
ロイヤルは右手首にひもを結んだ。
僕はカウンターに行き、カタロストの手配書をもらった。
「そいつはキツキが堕とした奴だな。知っているのか?」
「少しな。キツキ経由であったことがある」
ギルドから出て、人混みを通っていく。
「はぐれるなよ?」
「わかってる」
街から出て、しばらく草原を歩いて行く。
「ちょうど天獄と地獄を作ったくらいだ。カタロストの仕事は災害を起こし、人間の間引きをすることだった。もう何年も仕事をしないから、キツキからいろいろ言われていたらしい」
僕らはライムと出会ったであろう場所まで来た。日が傾き、夕暮れが綺麗だった。
「カタロストは人を殺すくらいなら、仕事を放棄し、堕落の道を選んだ。付き合いは短かったが、キツキが堕落させるところを僕も見ていたよ」
ライムが耳の影から出てきて、一つになった。
「そういえば、カタロストがいなくなってから、複数の神が行方不明になることがあったな」
「複数の神。ああ、それなら俺も聞いたな。ワールドエンドだったか。負の神で集まってチームみたいなのを結成していたやつらが全員消えたんだよな」
「僕もそいつらに関してはよく知らなかったし、原因も分からないし、キツキも知らなかった。まあ、キツキが心当たりがあるとか言っていたから・・・。カタロストに聞けば何かわかるかもな」
「それで、その紙を?」
カタロストの紙をライムが見ている。目がないからわからないが、多分見ていると思う。それをロイヤルが指した。
「ああ。討伐行く振りをして話を聞きに行こうと・・・そうだ。ライムに聞きたいことがあるんだ」
「はい。なんでしょうか」
「まず、ユウキの言っていた回復専門っていう言葉について」
「回復専門とは魔法の中の回復効果を持つものを使うことに特化した人のことです」
「魔法に回復があるのか。この世界の回復手段は?」
「ポーションと呼ばれる薬か回復魔法です」
ポーション。聞いたことがないな。
「お前は知らないだろうが、天国にもあるぞ? 他の国に行ってみればある程度はここと似ている」
「そうなのか?」
「お前はワンダー・デストロイか創星にしかいないからな」
「今度行ってみるか」
「今度? 戻るつもりか?」
「ちょっとね。思うことがある」
結局、僕の不死が消えないのは、それのせいじゃないのか。
「言っただろ、ライムが。堕ちればスキルとか使えるって」
使えなかったのなら、容易に想像できることだ。
「僕らは堕落なんてできなかった」
ロイヤルを見据える。
「僕らはまだ神だ」
この世界は僕らを殺さない。この世界は僕らに放棄することを許さない。
————あいつが許さない。