4話
ファイアとクロ―については、知らないと答えておいた。
「そうでしたか、人影は、クローさんとファイアさん」
しかし、スナイプとレンには話しておいた。別に、復讐を考えていたわけではなかったらしいので、犯人がわかってすっきりした感じだった。
「人影は、勘違いってことで調査をやめさせるんですね。もうすでにいない者を探させるわけにはいきませんからね」
スナイプは微笑む。
レンも特に何も言わないが、反対する意思は見せなかった。
「二人はどうする?」
二人の目的である、人影を探すこと。達成された今、僕らに協力する必要はないが。
「ランカとローズですよね。俺も手伝いますよ」
「俺も」
「・・・そうか」
スナイプとレンはお礼にと思っているのだろうか。
「好きにしてくれ」
いてもいなくても、僕には関係ないだろう。
「ランカはどこにいるんでしょうか」
ランカは、ワールドに飛ばされたとき、ザインがいるのにも関わらずにその場に居続けていた。
「ザインが面倒だな。ザインと手を組んでいる限り、可能性は無限だ」
いや、ローズがいる。弱っていると仮定している段階だが、その過程で行けば、弱っているローズをそう振り回すように転々とするだろうか。置き去りにするのが考えられない。
「ローズだな。鍵は」
しばらくはローズを探す。ローズが見つかれば、ランカだって見つかるはずだ。
「ローズですか。確か、蜘蛛の神ですよね」
「蜘蛛? 動物の神じゃない?」
レンが訪ねる。
「僕も神のすべてを把握しているわけじゃないけど。動物の神はいる。でも、流石に動物の神にすべてを任せるわけにはいかないだろう。保てない分は、新たに神を増やし補うようになっている。僕が知っている例を言うと、干支の神とその配下の十二支。季節の神と、春夏秋冬それぞれの神。崩れたら終わりだ。だから、本能的に保険をかけている」
「保険・・・」
「なりそこないもそうだ。最終手段がパペット。代理の神だな。だが、そいつらは融通が利かないから、頼りきりでいると、いつかその言葉は消える。人間界で、新たな神を覚醒させられないってことは、その言葉に何らかの形で関与している人間がいなくなっているということだ。まあ、今はそんなことはないと思うがな」
「今の人間界は、過去のことを残しておく技術がありますからね」
この世界の意味は、本当にあるのだろうか。
拠点に戻ってくれば当たり前と化してしまったメンバーがいる。
「お、リーダーさん。夕飯できてるぜ」
「そうか、いただこう」
あれから、ワールドと共に人影、怪しい人物に関して話しまわった。そして、ローズ、またはランカの捜索に力を入れてほしいと話した。
「ランカは有名なんだな」
ランカの名前を出せば、多くの神は嫌な顔をする。殺し屋の名と共に浸透している。その代わり、表情の神であることを知っている者はだれ一人いなかった。また、ローズについて知っている者もいなかった。
「知っているのは、監視者であるボクくらいなのかな」
拠点にはキツキもいた。キツキ曰く。
「ローズが神になったのはずいぶんと前のことだ。シロがこちらに来る前。つまり、シロが初めてローズに会った時には彼女は神だったってこと。ランカも同じだね」
「昔からの神なのに、今知っているのはいないのか」
「憶測だけど、知っているやつは殺されていたりして。ハハハ! ・・・あり得るね」
「じゃあ、あの時殺したのは。偽物か」
無意味なことをしたな。
「偽物って。じゃあ、誰だよ」
グリーンが聞く。意外と面倒なことを考えるんだな。
「・・・考えても仕方ないだろう。ランカとローズは生きていて、何かの目的のために動いているってことだ」
「目的ねぇ」
キツキとロイヤルはこちらに聞こえないように何かを話している。
「キツキとロイヤルはたまにそうやってるけど・・・まあ、言わなくてもいいけど」
「ごめんね。いつか話すよ」
キツキは申し訳なさそうに言う。
「シロが心配だねって、話してたんだよ!」
キツキが満面の笑みで僕に近づく。その目は何か企んでいる目ではない。ただ、本当に心配しているかのような目だった。
「はぁ、そうか。で、こっから本題なんだが、ローズがいる場所はキラキナ・クリスタルの近くか、ワンダー・デストロイ付近だと思う。理由は、ランカがいた場所だから」
「なら、ワンダー・デストロイではなく、この拠点では?」
「スナイプは知らないと思うけど、この島は森と湖と火山の三つの地域に分かれている」
「森は、俺が植物使って守ってるんだぜ」
グリーンが自慢げに言う。
「火山は・・・あそこに住めんのはいないよ。神でさえもあそこに身を休めるのは至難だよ。湖は湖しかないし」
それにと、ロイヤルが付け加える。
「森には、グリーンが造り出した守護者がいる。湖はセイレーンがいる。まあ、危害は加えてこないし、意外とおとなしい。火山が落ち着く場所がないと言ったのは闘争心の激しいケンタウロスがいる」
「なんか、すごいのが住んでいるんですね」
多くは、幻獣が住んでいる中断地にいるが、セイレーンとケンタウロスに関しては手に負えないと、中断地を管理する者に押し付けられた。
「幻獣のいる中断地ですか。行ってみたいですね」
そのスナイプの言葉にレンやガーディがうなずいている。
「ハハ・・・、あそこは、神に虐げられた幻獣が住むところだ。神なんかが行ったら、殺されるぜ」
それに答えたのはグリーンだ。
中断地は幻獣と神が争った跡、天国と下界の間に作られたすたれた浮遊大陸だった。それを可哀そうだと思ったグリーンがその大陸に草木を生やし、僕が結界で守っている。中断地の管理者は九尾 キュウである。グリーンと僕とキツキそしてロイヤル以外の神を憎んでいる。キツキとロイヤルが許されているのは、殺されかけた幻獣たちを隔離という形ではあるが、助けたからだろう。
「まあ、交渉してもいいぜ。俺の言うことなら、聞いてくれるかもしれんし」
グリーンは、中断地を気に入っている。
「あそこは静かだぜ。ただ、風を感じて、空気を吸い込んで、それで一日が終わるのを眺めてる。それが幸せだって思える場所だ」
中断地にはキュウがいるだろうし、簡単に部外者が入ることはできない。ここ、ラストアイランドにも身をひそめる場所などない。
「拠点の目の前に現れた。だから、ワンダー・デストロイ付近にいる可能性を、一応な」
「完全に憶測だよね~。手掛かり一つもないから、仕方ないけどね」
キラキナ・クリスタルに関しては、可能性は低いとみていいと思う。
「ワンダー・デストロイ付近に的を絞るか。キラキナには別の神に行ってもらう。ワールド?」
ワールドが転移してくる。
「はいはい。貸し、覚えておいてね」
「わかったよ」
ワールドはすぐに消えた。これでキラキナ付近は大丈夫だ。
「ランカ、ローズを探すぞ」
それに呼応するメンバー。
殺される前に殺す。その殺すという言葉に違和感を抱きながら。
ローズを探すために、ワンダー・デストロイ付近の捜索を始めた。
「どこにいるんですかね~」
ララはクリスタにまたがっている。
「それ、クリスタいやがんねぇの?」
ガーディがララに話しかける。
「クリスタがいいって言ったし」
「言った?」
「あ~、そんな気がしただけ」
ララはクリスタをなでる。
ガーディは俺の方に近寄ってきた。
「ちなみに、見当はついているのか?」
「ついていたらこんな長時間捜索してねぇぜ」
僕の代わりにグリーンが面倒くさそうに答えた。
「隠れている。それについても憶測だからな」
すると、目の前の空間がゆがんだ。
「みっつけた~」
それはワールドだった。
「ワールド。どうかしたか?」
「あ~、あんただけ」
僕がうなずくより前にワールドが僕を引っ張る。
「どうした?」
ワールドは木の陰に隠れる体制を取っている。
「あんたも真似しなさい」
ワールドが少し僕をにらんだ。
「急に連れて来られても」
僕はワールドの横に身をかがめる。
「あそこ」
僕は身を乗りだす。
それは、洞穴だった。
ここは森の中だが、少し遠くに壁が見える。おそらくワンダー・デストロイの壁だろう。
「あの穴がどうした?」
「最近、妙な噂を聞いてね。何でも、スーツ姿の男が殺人を繰り返しているの」
「本当か?」
「それだけじゃないの。死体はもれなく消えているらしいの」
「どこからだ? その情報は」
「それが。スーツの男は、どうやら、一家を全員殺さず、一人だけ生かしているようなの。その生かし方は、人間のままだったり、神様になったり様々だけど。それで、復讐へ行った人が大勢いるの。まあ、帰ってきた者はいないらしいのだけれど」
「復讐に来させる・・・」
「どうやっているのかは分からないわよ? 何しろ全員もれなく戻ってこないのだから」
「じゃあ、ここに連れてきた意味は?」
「勘よ・・・!」
ワールドはどや顔をしている。
「・・・・・・」
「そんな目で見ないでよ・・・。冗談よ、冗談。アニャマルからよ。動物が最近いないんだって」
消えた死体。復讐に行った者が消える。動物がいない。
「肉は栄養があるからな」
僕は木の陰から出る。
「え、ちょっと」
「教えてくれてありがとう」
僕は穴をのぞき込む。意外と穴は大きい。
僕はワールドに何も言わずに入っていった。
————それを僕は後悔している。