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神、死する時  作者: わんパチ
串刺し編
6/83

とあるしっかり者の記憶

 自分の信じるものを否定されようが、馬鹿にされようが、私はそれを信じ続けた。

 私の信じた道だから。私の信じた人だから。

 私の、信じた背中だから。

 私の父は組長と呼ばれる人で、白菊組という組をまとめていた。

「白菊さん~? また、久瑠組の奴らっすよ。どうします?」

「ほおっておけ。それよりも、あの件はちゃんと進んでいるんだろうな」

 私の家には家族以外の人がいつもいた。部下だと父は言っていた。

「桜ちゃん、どうしたー?」

 父の部屋の前で座っていると、部下の人が話しかけてきた。

「何でもない」

 私は立ち上がって自室に戻ろうとする。

 私ももう高校生だ。父に会えない日が続いて寂しいなんて。

「桜?」

 父がドアを開けて、私を見た。

「・・・、顔見れたから、今日はもう寝る」

「悪いな。お休み、桜」

 父は申し訳なさそうにドアを閉めた。

 畳と木のいい匂い、家族じゃないけど、いろんな人が集まったこの家。私は好きだった。


 ある日、父は怖い顔をして出かけて行った。部下の人もついていった。

 私は、玄関で膝を抱えて待っていた。

 ・・・・・・。

 お腹が空いた。

 気が付けば、もう朝だった。靴は、まだない。

 私はそのまま学校をさぼって、玄関で待っていた。

 ・・・・・・。

「桜・・・?」

 父の声が聞こえた。

「お父さん」

 もうあたりは暗くなっていた。

 父は血まみれの部下を抱えていた。

「その人」

「大丈夫だ」

 父は開いている部屋にその人を連れて行った。他の部下の人も、けがをしているようだった。

 私は部下の人の治療を手伝った。

「久瑠組ってところと戦ったの?」

「お、桜ちゃんは気にしなくていいんすよ」

 部下の人は、私にそういうことをあまり話さない。

 私だって、手伝えると思うのに

「お父さん」

心細くなって、一緒に寝ようなんて声をかけようとしたけど、いい年した奴が何を言っているんだろうって思って、やめた。


 少し眠れなくて、布団の中で丸まっていた。

 ・・・何か物音がする。

 父だろうか。部下の人だろうか。

 その音は、足音で、この部屋の中へ入ってきた。

 その音は私の布団の横まで来た。

「死ね」

 そのつぶやかれた言葉は、耳を疑うものだった。

 私は毛布をその人物へ投げた。

「誰」

 知らない人だった。父でも部下の人でもなかった。

 何より、手に持っている刀が私の視界に映った。

 毛布でひるんだ相手からとっさに刀を奪った。

「クッソ!」

 その人はもう一本。今度は小さなナイフをポケットから取り出していた。

「死ねぇ!」

 私の手には、刀があった。

 ————死にたくない!


 部下の人が、なかなか部屋から出ない私を呼びに来た。

「桜ちゃん? もう朝だよ?」

 父は決して人を殺さなかった。それを私はかっこいいって思った。

「桜ちゃん、入ってもいい?」

 母が言った。もう顔も覚えてないけど。人を殺して得られるものは何もないと。

 ドアが開いた。

「桜ちゃん?」

 部屋の電気がついた。

「————あ、あ、さく、らちゃ・・・。白菊さん! 白菊さん!!」

 部屋にあるのは一つの死体と血だらけの人間だ。

 私の持っていた刀は相手の太ももに刺さっている。

 相手の持っていたナイフは私の心臓に刺さっている。


「その人、久瑠組の人だったのか」

「殺しておけばよかったのに」

「私は人を殺さない父に憧れていたんだ」

「人を殺さないことがいいと信じるのは勝手だが、今回はそのせいで死んだんだぞ?」

「悔いはないよ。未練はあるけど、殺さなかったことに悔いはない」

「そっか」

 私は白い髪を持つ青年と話している。シロという、神様らしい。

 死んだという自覚はあったから、ここは死後の世界かと聞いたら、曖昧な答えしか返ってこなかった。

「死んだ人の方が、上ってくれるんだよ」

 シロは階段を指す。

「まあ、一回死んでいるしな」

 私は階段を上り始めた。

「気持ちのいい自己犠牲だった。死にたくないと私は思う。相手も同じ気持ちだろう」

 私は少し振り返り、その青年に笑いかける。

「私の父はかっこいいだろう?」

「ああ、そうだな」

 その青年は無表情だったけど、笑った気がした。

 父はどうしているだろうか。私の死で、悲しんでいるのなら、申し訳ないことをしてしまったな。


 これは私の、大切な信じる者の話だ。

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