3話
「じゃあ、次は僕でいいですか?」
フブキがワクワクした顔で言う。
「え、まだやるの」
「あたしらも!」
ロックも手を高々と上げて飛び跳ねる。
「ちょっと待って。あと、一人ならいいけど、それ以外はまた今度」
そう提案すると、ブーイングが飛んだ。
「リーダー、そう言ってまた逃げるのでは?」
「今度って何年後かな…」
「サイテー、リーダー、サイテーだぞー」
フブキとボルト、グリーンが言う。
いや、グリーン。お前はもういいだろ。
「私は別に構わないんだが」
「俺も、気長に待つよ」
サクラとスラッシュは良い奴だ。
「サクラとスラッシュを見習え。大体、全員一回はやってやるんだから、それでいいだろ」
「え!? 一回だけだったんですか!?」
初耳って顔をしている。フブキまさか言ってなかったか?
今度は全員がぶつぶつと文句を言いだした。サクラもスラッシュも反対派らしい。
断っても断らなくても文句を言われるのは理不尽だな。面倒な奴らだと頭を搔く。
「僕だって疲れるからな」
「じゃあ、何か取引とかすれば?」
ロイヤルが口を挟んだ。
「取引?」
「あぁ、何か貰う代わりに特訓に付き合う。何かする代わりに特訓に付き合う」
「お! いいね!!」
グリーンが言う。
いや、お前はもういいだろう。
「何か欲しいものも、して欲しいこともないしな。……何か条件でも出すか」
「おお、いいね〜。クリア出来たら特訓に付き合うってことで。OK?」
サンダーが人差し指と親指の先を付けてOの字を作る。
「ああ、グリーンは特別ってことで、今回は無償だが」
「やったぜ! フーッ!」
こいつには後で受けてもらおうかな。こいつの態度はたまにむかつく時がある。
「俺はいいよ。特訓、興味無いし。」
「俺もやらない」
ソードとロイヤルはやらないのか。あとは。
「俺は・・・一応」
「俺ももちろんやる〜」
「俺も」
「やるやる!!」
「私もやらせていただこう」
「もちろん僕も」
ボルト、サンダー、スラッシュ、ロック、サクラ、フブキがやる意思を見せる。
「わかった。準備する」
何するか決めてないけど。
さて、あと一人と戦うと言ってしまったからな。
「俺がやってもいいか?」
ソードが言う。
「いや、興味ないって」
「特訓には興味がないだけだ」
ソードが剣先をこちらに向ける。
「さあ」
たまにこいつは本当の殺意を向けてくる時がある。本人は癖だと言っているが。
「僕は本気を出さない」
「あっそ、つまらないの」
その言葉が僕の耳に届き終わるよりも早く、ソードが動き出す。
僕は爪を出す。剣が軌道を変えて爪に当たらずに手前に落ちる。しかし、地面につくより早く僕に突き刺さる。右太ももに刺し傷ができた。
「いって」
地に足を付けるのは危ないな。
白い翼を出し、空を飛ぶ。
ソードには空を飛ぶ手段はないからな。
「俺は人間と戦いたいわけじゃないんだよな」
ああ、なるほど。
「確かにそっちの方が楽だ」
神はどんな姿だと思う? 僕は好きでこの姿をしているだけで、この姿がデフォルトなわけではない。
「移し身」
龍の姿に身を移す。白い胴体。前足と後ろ脚のついた典型的な日本の龍の姿だ。ここは日本じゃないけど。
これがデフォルトというわけでもない。でも、僕のもう一つの姿。
「お望み通り、だ」
この体は武器が使えなくなるがその代わり自身が武器となることができる。
久しぶりの体だ。
ソードめがけて尾をたたきつける。
「ああ、さっきの言葉、後悔しそうだよ」
人の姿よりも圧倒的に速さも力もでる。
ソードへ口を開き近づく。
「くそ」
こんな時、冷静な判断ができていたならよけるという選択肢ができただろうに。
ソードは剣をこちらに向けた。
「悪いな」
その剣をかみ切る。剣はあっさり壊れた。
「な!?」
「移し身」
人の姿に戻る。槍を出して、ソードの心臓に先を置く。
「はあ、後悔したよ」
「そうか。それは悪かった」
「手も足も出ない、とはこういうことなんだろうな。剣が刺さって浮かれた」
「まあ、僕も少し油断したよ。というか、僕が人の姿なら、少しはいい勝負ができただろうに」
「それじゃあ、つまらないって」
「まあ、それに今回は助けられたけど」
「ん?」
「いいや、何でもない」
右太ももを見る。
けがならもう治っている。
ああ、だからけがをしたくはなかったんだ。
どんなけがをしてもあっという間に治るんだろう。切り傷も、刺し傷も。首を切っても、心臓を刺しても。
さて、記念すべき最初の条件は何にしようか。
そう悩んで、早、数日が過ぎた。
「悩んでるな」
ロイヤルがやってきた。
ここは城内部の図書室。冒険もので試練みたいな、目標のようなものを探していた。
バッチを集めるとか、父親を探すとか、目的のものを盗むとか、島を見つけるとか。準備が面倒な者ばかりだ。それに、こいつらは目標というより、夢になっている。壮大なものだ。
「宝探しにするか。宝・・・。そんなものないしな」
「これは?」
ロイヤルが取りだしたのは旗だった。白い旗だ。
「用意したのか」
「フブキがな。それを渡すために探していたんだ」
「フブキは?」
「ここですよー」
フブキが顔を出した。
「なんだ、お前が届ければよかったのに」
「そうでしたね。意外と早く用事が済んでしまったので」
「用事?」
「ああ、気にしないでください。スレールさんと会っていたんです」
スレール、記憶の神だ。雲に乗った小さい老人の姿をしている。彼は他人の記憶を水晶に保存している。その水晶が壊れれば人は記憶を失う。早急に修復すれば元に戻るが、しばらくすると壊れたまま、過去の書物という本になり二度と戻らなくなる。さらに、一部の記憶だけを消すことも可能だ。
「記憶でも消したか?」
記憶が消えたって本人は悲しくならない。周りが悲しむだけだ。ただ、それだけ。
「ハハハ、そんなことないですよ。少し確認ごとを」
フブキは一瞬、悲しい顔をした。
「?」
ロイヤルも分からないようだ。
「それで、条件とやらはどうですか?」
「ああ、この旗を使わせてもらおう。宝探しだ。最初に見つけたやつと戦う」
「それだと、偏りませんか?」
「クリアしなかった奴だけやればいいだろ」
「それもそうですね」
「じゃあ、挿してくるよ。門で待っててくれ」
旗を持って城を出る。
城の近く、ここワンダー・デストロイから見える巨大な樹、天空樹。その高さは計り知れない。誰も頂上までたどり着けないほど高いからだ。こう遠くから見ても一番上が見えない。
天空樹へ翼を出し飛んでいく。
頂上まで行くと流石にどうしようもないから適当に止まる。
下を見ればもう地面がかすんでいた。他の仲間は空を飛べない。このくらいがちょうどいい。旗を枝に挿すわけにはいかないので、適当に持ってきたひもで枝に固定する。
見えないな。ひもを長くし、ある程度目立つようにする。これでわかりそうだな。それにしても結構高い。
グリーンなら根を操ってあっという間に行けそうだが、あいつはもう戦ったからな。
ワンダー・デストロイの門へ行く。そこには全員がすでに集まっていた。
「遅かったですね。旗はどこに?」
フブキが言う。
「旗とは?」
そうか、フブキ以外には条件について言ってなかったか。
「条件は、天空樹の旗を取ってくること」
「たっか!」
グリーンが木の一番上を見る勢いで首を動かす。
「中間ぐらいに固定させている。流石に一番上まで行かせると何年もかかりそうだからな」
「ですよね~」
グリーンがなんとも間抜けな顔をする。やはり馬鹿だな。
「ルールは無し。他人を蹴落とすなり、自身の力を使って旗を取ればいい。あ、天空樹は傷つけるなよ?」
「了解です」
「じゃあ、スタート」
ロイヤルとソード以外が駆け出す。
そう、グリーンまでも走りだしたのだ。
あいつは馬鹿だ。本当に馬鹿だ・・・。フブキが止めてくれるか? まあ、グリーンが取ったとしても、やらなければいいか。
「二人はどうする?」
ロイヤルはそのままここにいるらしい。ソードはジーカルに新しい武器を頼むようだ。
「悪かったな、模擬戦とはいえ」
「いや、俺の落ち度だ。それに、愛情とかないしな」
そうだな。サクラだったら怒っているところだ。
ソードがいなくなると、ロイヤルがその場に座る。
「ここからじゃ見えないな」
そういいながら本を開くロイヤル。
「まあ、結果を見ればわかるだろ」