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神、死する時  作者: わんパチ
串刺し編
2/83

1話

 人は死んだらどこに行くのだろう。


 ここは天国(てんこく)。神々が住むところ。

 そっと目を開ける。

 ここは、天国(てんこく)。死んだ人間が住む世界。そして、僕ら神々が住む世界。言わば、生きている人間が住む世界とは違う、もう一つの世界。

 そんな世界で、僕は小さな丘に寝そべっている。

 今日はとても心地の良い風が吹いている。

「探しましたよ、シロさん」

天国、住宅地から少し離れた丘の上。雲一つない青空を映し出す視界の中にフブキが現れた。

「今日こそ模擬戦に付き合ってください!」

「まだそんなことをしていたのか」

「何もすることないですからね。ハハハ」

確かにここですることと言えば、寝るか、外で遊ぶか。実際、僕もここで寝ている。

「フブキだけ? 他は?」

「今お昼ですので、みんなご飯中です」

もうそんな時間か。体を起こし、伸びをする。

「シロさんこそいいんですか?」

「何が?」

「特訓。あまり参加してませんけど」

「別に強くなりたいとかないし」

そういうとフブキがほほ笑んだ。そしていたずらに

「今シロさんと戦ったら僕が勝ってしまうかもですね」

と言ってきた。

 古典的な挑発だな。そういや、この会話、何回目だろう・・・。

 ため息をつく。

「・・・一回だけだぞ。全員一回」

「有難うございます。お昼の後、いつものところに皆さんを呼んでおきますね」

 立ち上がると風を全身で感じる。相変わらず心地よいそよ風が吹いていた。だから、安心してしまうのだ。

 この丘から少し遠くに壁が見える。そこに向かう。

 僕は空を飛べるが、フブキは飛べないので歩くことにした。フブキ、歩いてここまで来たのか。

 壁に囲まれた住宅地、ワンダー・デストロイ。ここには善人の霊が住んでいる。そして、神も少しいる。学校もあって、お店も並んでいて、死んだ人たちは生きていたころのような生活を送っている。

 ちなみに、一部の人間が天国と呼ぶところは実際、天獄と呼ばれている。

 天獄には管理人がいる。女神 エデン。そして配下には人喰いの天使がいる。人喰いとは言うが、主食は霊である。天獄へ行った霊は人喰い天使に玩具にされ、最期には喰われてしまう。喰われた霊は転生もできず、ただ何もない空間をさまよい続ける存在へと成り果てる。言ってしまえば地獄の方がいいところだろう。

 そして一部の人間が呼ぶ天国とはきっとここ、ワンダー・デストロイのことだろう。天国は本来、善人しかいなかったが、地獄の方がいっぱいになってしまったので、ワンダー・デストロイに善人を集めて、他の場所に、本来地獄に行くはずの霊を来させている。


 ワンダー・デストロイに着く。住人が作業の手を止め挨拶をしてくる。

 住宅地から灰色の味気ない城に向かう一本道。通称、両笑いの街道。

 僕がここを作ったときは差別が激しく、善人と悪人とで分かれていた。天獄と地獄がなかったころだ。ここワンダー・デストロイではこの両笑いの街道を境に、善人と悪人が分かれていた。名前も片笑いの街道だったらしい。悪人が笑い、善人は苦しんでいた。善人は一生懸命働くが、そんなことは知らないと悪人は盗みを繰り返す。金も食べ物も、子供も。そんな正直者は馬鹿を見る街を僕は見ていた。ただ、見ていた。

 それから、いろいろあって・・・、簡単に言うと、天獄と地獄を作って、本当の善人と、軽い悪事を働いた人と、殺人だとかの極悪非道人と分け、ここは平和になった。

 僕はこの街に用事があるのだが、フブキは昼食をとるらしいのでここで別れた。僕は何も食べなくても生きていけるので、基本、食事はしない。フブキたちもそうなのだが、雰囲気が大切らしい。


 両笑いの街道からわき道にそれるとハンマーの看板がある店につく。カランとドアについているベルが鳴る。

「邪魔する」

中にはカウンターがあり、その奥には壁一枚隔てて工房がある。

「じいちゃん、いるか?」

工房をのぞき込めば、夢中で刀を研いでいる少し太った白髪の老人がいる。服装は灰色のTシャツに少しきつそうなジーンズ。タオルを首に巻いてはいるが、灰色のTシャツに汗が染みている。顔を出せば気づいたようで刀とやすりを置いた。

「おお、これは、これは、真神様。何の用だい?」

「様はやめろ。頼んでいた武器はできたか?」

 彼はジーカル。ここで鍛冶屋を営んでいる。僕らとは長い付き合いだ。だから、親しみを込めて、“じいちゃん”と呼んでいる。

「ああ、それなら」

と、少し奥の方に行き、火車を持ってきた。

「火車? 使ったことないけど」

武器は槍しかもっていない。武器がなくとも戦えるからだ。

「何でもいいって言ってたじゃねえか」

苦笑いで近くに立てかけてあった愛用の大きいハンマーを担ぐ。戦闘にも鍛冶にも使えるらしい。

 戦闘に使ってもいいのか? 鍛冶屋よ。

 最も、じいちゃん、ジーカルが戦うところなど見たこともないが。

「ガハハハッ! これでもかなりの戦士よ! もうなまっちまったけどな!!」

お前さんもさぼってっと、こうなっちまうぞ。と金色が混じっている歯を見せながら笑った。

「うるさいな。そもそも、本当に戦っていたのか?」

「は! 鍛冶の神なめるなよ! 硬ぇ鉄を何度もたたいてきた腕があんだよ!」


 ジーカル、鍛冶の職人。そして、鍛冶の神。

 天国。神々が住むところ。神は一人ではない。確かに人は宗教で崇める神が違うと聞くが、そういうことではない。それぞれ、言葉の数だけ神はいる。神が生まれ、すべてが生まれた。つまり、どんな小さなものでも、どんなにくだらないことでも、それを作った神がいるということ。だが、逆のパターンもある。言葉が先の場合だ。これは、人々が作った者。家や、車、インターネットもそうだ。

 神は人から生まれる。神の素質がある者の前に突如として真っ白な階段が現れる。それを上った時、その人間は不老となり、神として覚醒する。これが神の生まれ方だ。けれど、不死になるわけではないので、神でも命を落とすことがある。生きている間に後継者を選び、その人間に神としての役割を継がなくてはならない。

 ————僕にはそんな必要はないけど。

 神はそれぞれ分け方がある。分け方は二通り。一つは年代で分けるというもの。神が生まれたのは星が生まれた時でも、ビッグバンが起こった時でもない。すべての始まりの一歩先、初めに生まれた神が一人、無に生まれすべてを作った。

 ただ、その時を僕は知っている気がする。無に生まれた、と聞かされる。だがそれは違う。違うとわかっているのに、僕は覚えていない。ただ、なんとなく感じるのだ。無に生まれるその神の前に、存在していたものがあると。

 そして、最初の神が生まれたその日から宇宙が誕生する。星が生まれ、銀河が生まれていく。それは果てしなく。

 無に生まれた神が作り出した神は、古代神と呼ばれる。ビックバンがおこるまでが古代神。ビックバンが起こり、それからの数千年の神は旧神と呼ばれる。それ以降は今神。古ければ強い神が多い。

 二つ目は位。上級神、中級神、下級神。それぞれ級の中にさらに位があり、上位、中位、下位、力の強さで分かれている。位が高ければ高いほど強い。一般的に知られているのはこの三つの級。さらに、上級神の上、下級神の下がある。

 そして、例外もいる。神のなりそこないと言われている神だ。これにも二種類ほどいる。一つは同じ役割の神が二人以上存在する場合だ。神としての後継者として呼ばれた人間はもちろん、神としての素質がある者は神として覚醒することができるので、かぶってしまう時があるのだ。もう一つは、何らかの原因で、分裂してしまう場合。ただ、これを確認したのは僕の友人なので、僕もよくは知らない。まあ、神のなりそこないと言えど、普通の神と力はあまり変わらない。


 ジーカルは旧神、中級神、中位。それほど強くはないと思っていたが、自称、名だたる戦士らしい。いまだ、自慢話をするジーカルは置いておき、鍛冶としての腕前は確かだ。

 火車を手に取ってみる。重さはまあまあ軽い。赤い龍が円をかたどっている。

 ジーカルは自慢話をやめた。

「ガハハハッ、似合ってるぜ。それと、ほら」

そういって腕輪を投げてきた。黒い腕輪を二つ。

「なんだ?」

「接近戦の時の武器が欲しいって言ってたじゃねえか。射爪だ、受け取れ。念じれば爪が出るだろうよ」

言われた通り、腕輪をはめ、念じてみる。念じた瞬間に爪が出た。黒い爪が三本、爪同士くっついている。

「ああ、それな。念じりゃあ、何とかなるぜ」

指同士を大げさに広げる。すると、爪の形が変わり、五本の爪は一本一本独立した。その代わり、リーチが短くなっている。中距離と近距離か。

 火車はただの近距離化と思ったが。

「それ、二つを合わせると龍が出てな。空を飛ぶことができる! その途中に片方外せば、龍は半分の長さになるが、片方が火車に戻るぜ」

そう言われやって————

「————みるな! たく、ここに大穴が開くぜ。ああ、そうだ。射爪は〈フレアメテオ〉、火車は〈火炎龍〉だ」

「名前はどうでもいいんだが」

武器の名前を言う時など絶対にないだろうし。

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