従者 スカリ=サーハ
「猫パンチ 鎧破波―!」
俺は地上にぶつかる前に波動、気を放った。生命エネルギーを地にぶつけてクッションの役割をするためだ。
しかし、毎度、思うがこの流派の名前はどうにかならないのか。ふざけすぎで羞恥心がいっぱいだ。だが、実質はあるので文句は言えない。初代のネーミングセンスを疑いたい。敗れたとはいえ、相手はゴリラキックって流派だしな…。負けると色んな意味で恥ずかしい。
などと、くだらない文句を心中に愚痴いていると地上に落ちたダメージを加えて、さきほどのダメージの蓄積で疲れ果て眠くなった。
―――――ZZZZZZZZZZZZ―――――
意識がハッキリとしてきた。俺はスプリングがきいてない安っぽいベッドの上にいることがわかる。誰かが俺を拾って助けてくれたのであろう文句はいえないが。
周囲を見渡すとここは木造のコテージのような感じの山小屋だった。
「おやおや、お目覚めですか」
「あんたは?」
見た目は俺よりか年上かわからないが、やたらと落ち着いた女だった。じじいとかじゃなくてよかった! これはお約束か? まあ、見た目はいいし。ブロンズカラーの髪にブルーの瞳に細身で女としては長身なのが特徴だ。
「知っていますよ。あなたはゴタロウ=ヴィヴァルディでいらっしゃるのでしょ?」
「いや、あんたは何者かと聞いているんだよ! あ、いててて」
「騒ぎますと肩の傷口に障りますよ。あらあら、すみません、年をとるとボケやすくて」
「あんた、そういう年にみえないんだけどな…」
「そうですね。今年で16になりますかね…」
「めちゃくちゃ若者というか子供じゃねえか! 痛―!」
「だから、大声だすと傷が祟りますと…」
「おい、小娘、助けてくれてありがとな!」
「小娘? 私は26の淑女ですよ」
この、ボケ女は食えない奴だな。命の恩人だからおとなしくするけどな。
「それはそうと、やってしまいましたね。貴方は落ち着きがないからこういう結果になるのですよ。私の言動にもいちいち反応しますし」
いきなり、説教が始まった。確かに反論できない無様な醜態だが、見知らぬ人間に言われてもな……。高空バトルの顛末でも見ていたのか?
「ディーテ様から目付役としてあなたとコンタクトを取ろうとしましたが……よもや、そうそう破れて返ってくるとは……」
ディー姉絡みの人間なら食えねえな。厄介そうだ。
「あんたなら勝てるのかよ?」
「あなたのそういう勇み足がよくないというのですよ。確実に勝てる状況じゃなければ戦わないのは戦闘の基本です。いくらでもあの時はやり過ごす方法があったのですよ」
「本当かよ?」
女はこくりと頷く。本気の眼差しだ。眼力が凄い、怖い。俺の失態はそんなに不味いのか?
「まずは、名乗るのを忘れていましたね。私はスカリ=サーハ」
「スカリさんよ。戦闘の極意をご教授できませんでしょうかね?」
俺は、皮肉を込めて言い放つ。
パン!
すると、スカリは俺に思いっきり平手打ちをする。機嫌は悪くなさそうだが、怒っている? 感情を制御できないのであろうか?
「それは、あなたの方ですよ。そうやってあなたは軽口を叩きますが、相手を怒らせても今の状態では何もできないのですよ」
「心でも読めるのか?」
「だいたい、察しがつきます。ディーテ様から貴方の振る舞いは聞かされていますので」
ディー姉め! ……余計な事を……。って、考えも読まれているのか?
「良いお姉さまではないですか。他の兄弟子は手に負えないとか言っていまして、代わりになにかとあなたの面倒をみたがるのですよ」
「まあ、ディー姉には色々と世話にはなっているが……。恩を返そうだとか考えてはいない」
「別にいいのですよ。貴方が無事でいれば姉弟分とはそういうものです」
「そ、そうなのかな~?」
「さておき、戦いにおいて上策は謀略です。騙し討ちです。しかし、私達にはその準備がありません。そもそも敵情がわかりません。次点の上策は外交です。あなたは私という強者を一人仲間にいれた……」
「いや、俺は一人で行動するぜ!」
ズゴッス!
思いっきり溝に拳を叩き込まれる。ちょっと、死にかけた。
「うごごごご、痛い、ってそれどころじゃねえ……」
「これで、あなたと私は同志ですよね✩」
暴力女がとても素敵に微笑んでくれるじゃないか。痛い愛情はいらない。
「暴力じゃねえか……」
「では、あなたの回復を待ちながら情報収集といきましょう。逃げたら、ディーテ様に報告しますので気をつけてください」
いい女見つけたかと思いきや、ディーテ姉並にやっかいな奴に捕まった。先が思いやられる。
しかし、俺の恩人ではあることだし、恩義ぐらい返すまで付き合うとするかね。嫌だけど。どのみち、肩の傷が重症だ。俺の治癒能力は早いがしばらくはおとなしくしておくか。つまらないけど。