託される重み
俺たちの勢力はサンゾウ兄……じゃなくサンゾウ姉達の所有する母船にセカンド、ガヴァダヴァダンことGVDRY五十機ある。正直、かなりの戦力だ。先ほどの戦闘でイチモンジ兄のNBを多数吸収した結果がRYの増産に繋がった。
それを一人で操縦しているのがカイン=フリーランという男だ。並ではない。サンゾウの一味にどうしているかと思えば不思議なほど優秀だがそいつを率いることができるサンゾウも器がでかい。RYに三十数名の武術家達もGVDの肩や腕などに乗っかり臨戦態勢に入っている。
相手は次兄のジト=グレイアムだ!
と、いうことになりそうである。多数のGVDを引き連れてこちらと対峙する。
俺としては一人で戦い抜くのが望みだが同盟を組んだ手前そうもいかない。と、勝手に自分の行動に理由をつけているのがもどかしい。しかし、それがベストでもあると思える。
二度とあの力を引き出せないかもしれない。長兄イチモンジを撃破した技だ。
―――――――――猫パンチ 千万兆来――――――――――
流派、猫パンチに存在しない俺が狂って拳を乱撃した技だ。あれほどの自己制御できない無数の徒手を俺はまた再現できるであろうか?
それほど、ジト兄貴も強い。誰よりも強く有り続けようとする俺には無用の悩みだが、ジト兄貴も普通に戦って勝てるほど甘くはないだろう。
「だが、躊躇うものはない。目的の為に一つに集中するのみ」
俺はシシロウ兄貴に近づくために動いているだけだ。その先になにがあるのかわからないが障害を排除しなければことは進まない。俺はひたすらジト兄貴を打ち破ることだけに思考を統一する。
「シャーー」
俺は静かに怪猫音を発する。
惑星アネイタの景色は醜く怪しげに紅く光り、荒野の吹く風の様に荒んだ空気を纏う。それを俺は取り込んだように感じた。全てが一体となり一つの標的に対して激流をぶつける瀑布と化す殺気。
憎しみはない。ただひたすら目的を遂行する意思。眼前の男は余裕をもってこちらを見据えていた。気にはならない……。
「やめようか? ゴタロウ」
「………」
「聞こえぬようだな……。ならば、私を殺して先に進むがよい」
「………」
挑発か? ジトの兄貴はそういうことをする男ではない。だが、これが戦いを開始する合図だとみなす。俺はジト=グレイアムに突進しようとした。
「おやめ、ゴタロウ!」
サンゾウが制止する。聞くつもりはないが、なぜか俺は狂気に身を委ねただけのように思えて自制する。
「なんだよ? 邪魔するな」
「あなた、お姉さんに向かって口答えだめよ。ダメダメよ」
サンゾウの相変わらず調子で少しは落ち着くが納得はいっていない。
「あんたをお姉さんなんて思ってないぜ。ついさっきまで兄貴分だったしな」
「じゃあ、恋人? まあ、黙ってお話を聞きなさいな」
「ふん、話し合うことなんてあるのか?」
「ウフフ、あるみたいね? ジト兄さん」
「サンゾウ、お前は場の雰囲気を変える力を持っているようだな。ゴタロウの為に使ってやるが良い」
「あら~? 私がそんなことを」
「既に私では手に負えないからだ。ゴタロウにシシロウもな」
「何を企んでいるんだ?」
「ゴタロウよ、そう警戒するな。お前が私に劣ると判断していれば手を下しもしたが……長兄の戦いと今のお前の闘志の眼差しを見て私は及ばないと実感したよ」
「そうよね~。ゴタロウ、マジって気迫だったわ」
「サンゾウ姉貴、くだらない口を挟むな」
「あらあら、ごめんなさ~い。ウフフ」
「そうやって、ゴタロウを制御するよう努めているのだな。サンゾウも変わったものだ」
「はて、なんのことかしら?」
サンゾウは覆面姿にも関わらず動作は大げさでクネクネと何かしら体で表現する。それに対してジト兄貴はただひたすら静かな佇まいをしている。老齢、イチモンジ兄より若いがそう思わせる味をだしている。食えない人だ。
「そう睨むな。私の望みは猫パンチの継承者と八玉の宝玉を持つにふさわしい人間を探していたにすぎない。ゴタロウよ、お前はシシロウより上だ」
「そんなことは……」
真に受けることができない。俺はシシロウ兄貴に近づくために行動しているのだから……。
「お前は人を遠ざける癖はあるが、人を愛するこころを持っているように思える」
「は? 初めて知ったね、そんな言葉」
「お前には仲間がいる。それを忘れるな」
「いないね、俺は孤高だからな」
「性質がそうでもあったがここまでにたどり着いたのは決して一人ではないだろ?」
「行きがかりに誰にも関わらないなんてないだろ?」
「そうか……」
ジト兄貴は少し間を置きひとつ、ひとつ口にする。
「ディーテ、スカリ、アシア、ミリア、カイン、そして、サンゾウ=オーファン。お前のことを大事に思っているぞ」
「そんなことがどうしてわかるんだよ! 適当に言うな!」
「だがな、ディーテ達はお前に阻むかもしれぬ」
「だからといってどうなるんだよ?」
「一人というものは破滅に導く。私も欲しかったな……仲間が、我々兄弟は孤独だった。シシロウの強さはあくまでも孤独の強さに向かっている。お前も断ち切るくらいにな」
「殺人衝動が抑えきれないだけだろ」
「違うな。奴は殺人のみが己を強くすると考えているようだが、お前はやむを得ないことに対して立ち向かって殺めている。その差は違う」
「ごちゃごちゃと……。俺はな、俺を見捨てたシシロウ兄貴に認めて欲しいんだよ! 俺はどんなことをしても強くなるために兄貴に近づく」
「そうか……しかし、私は時間がない。病魔に取り憑かれていてな。八玉の力でなんとか命を維持している」
「なんの関係が?」
「死ぬ前に、兄として弟に渡したいものがあってな。八玉の宝玉だ」
八玉の宝玉はそれだけで存在がすぐに感知できるというのに、今までジト兄貴が手にしていたとは気付かなかった。どういうことだ?
「不思議か? 八玉にはそういうこともできるということだ。そして、お前に八玉に封印していた私の技を伝授してあげよう。受け取ってくれ」
「人の力なんぞいるか!」
「ふふふ、末っ子といのは手を焼くものだな…」
そう言うと、ジト兄貴は崩れていった。まさか、これだけで命が失うのか? ジト兄貴からこぼれ落ちる八玉の宝玉の一つを俺は慌てて拾う。すると、なにかが体に流れるような感覚を得た。
「……何を考えているかわからないジト兄貴がな……」
「ゴタロウ、組んであげなさいな。ジト兄さんの意思を」
「意思?」
「憎しみや欲求に捕われず、やもえないことから逃げずに立ち向かおうする勇気を」
「勇気?」
知ったことではない。しかし、なぜか俺にはいずれわかるとジト兄貴の声が聞こえたような気がした。
今まで兄として、なにかしていたのでないのに勝手なんだよ! クソが!




