願いは決まっている
俺はサンゾウの方に向かった。イチモンジ同様にゆっくりと地上に落ちていくサンゾウの肉片は何も物語らない。無残な亡骸。人として形を何一つとどめていない。
「サンゾウぉぉぉお!」
涙の一つも持ち合わせていない俺だが、今も涙はでない。しかし、果てしない怒りが、無念が、俺の脳を揺らす。自身の心臓をほじり出して破壊したい。俺の甘さ加減に。俺は、俺は何をしたい? どうしたい? 気持ちがわからない……。こんなに怒り狂っているのに。
「ふん、女の死を直面して激高しおったか? 未熟者が!」
「イチモンジ……貴様」
俺は張り裂ける力を押さえつけることができない。
「うおおおおお!」
咆哮しながら、憤怒を帯びた力を出し続ける。
構図はサンゾウとイチモンジから、俺ことゴタロウとイチモンジへと変わる。中に割って入る者はいない。それをなぜかは考える気持ちがない。
「生命エネルギーを全て体外から放出して浮遊し圧力で外部を近寄せない気か? ならば私も同様にするか」
イチモンジの圧倒的な気が、生命エネルギーが放出される。しかしながら、俺は怖じ気付けることはない。
「うむ、五分と五分か……。だが、私は負けぬ。かかってこい! ゴタロウよ」
「どうでもいいんだよ!」
そう、どうでもよかったサンゾウの死が俺にまとわりつく。そのしつこさを拭いきれない自分に苛立つ。
「そうでもあるまい。死が糧になるのは戦うことを始める者、終わらせる者の宿命にすぎない。成長しおったな、私も死力を尽くそう」
「余計な理屈はいい」
「では、始めよう、死闘をな」
俺たちは構える、始めにして最後の攻撃。
「猫パンチ 奥義 爆龍伝殺圧」
「猫パンチ 千万兆来」
お互いの技が交差する。俺はイチモンジの技を掻い潜る。
「ふん、千万兆来、ありもしないわ…ざ…を、ウグッ!」
そして、俺の拳が幾千無数の乱撃を殴打する。自分でもわからないほどに殴りに殴りつづける。どこまでもサンゾウのように残骸と化す為に。
「ククク」
イチモンジは笑いながら攻撃を食らっている。手を休める気は毛頭ない。俺すらもとまらない。
「見事で…」
これだけ、怒りをぶつけても余裕なのか? 届かないのか? 俺は怒りがやまないというのに。
「あったぞ」
「!」
? どういうことだ。夢中であったから聞き取りにくかったがイチモンジが俺を褒めた? よくわからない。
が、俺は呆気にとられて手がとまる。何故だ?
俺が少しは呆然とする。すると、笑っていたイチモンジが爆裂四散する。これ以上最後の言葉は残らない。非情になると誓ったが非情になるとはこういうことか? しかし、俺は酷く冷静になっていた。行動が一点に絞られている。
「八玉の宝玉よ! 俺に来い!」
八つ揃うと宇宙さえ支配できるとされる願いの宝玉。俺はサンゾウとイチモンジがどこに秘匿しているかわからない。だが、本人達がいる空域であることは間違いない。俺が生命を、念を最大限に放って宝玉に呼びかける。宝玉達は応じてくれるだろうか?
すると、一つはサンゾウ達の母船からもう一つは途方もない距離の空から落ちてくる。そして、俺は二つを手にした。願うことはきまっている。可能なのかはわからないが…。一つ所有していた時よりも圧倒的に体内の生命が乱れる。しかし、負けてはいられない。俺は何故だかしらないが、あの人に戻ってきて欲しいからだ。
「頼む! 八玉よ、兄貴……いや、サンゾウ姉貴を甦らせてくれ!」
宝玉に意思などあるかはわからないが俺の頼みに微笑みかけてこう告げたように聞こえた。
『いいでしょう。こんなことは一回きりですよ』
すると、肉塊とも言い切れない、サンゾウの残骸が再構築される。再生? 再想像? よくわからないが元のサンゾウへと戻り始める。
一瞬、イチモンジも、と思ったが拒まれたように感じた。
『腑抜けよ』
そう、聞こえたような気がした。
そして、サンゾウはあられもない姿、つまりは素っ裸で俺の前に浮遊している。
「………」
「………」
「ゴタロウ、きゃー!」
「………」
「ゴタロウ、驚きなさいよ、レディを前にして」
「ああ、驚いている。助かったんだな……サンゾウ」
「ウフフ、おかげさまで。なによ、イチモンジ殺っちゃったおかげで彼と話すことできなかったじゃない!」
甦ってすぐに通常運転の性格になるのかよ。
「いや、あんた達も問答無用でやっていたじゃないか」
「冗談、黄泉の世界でね、お喋りしたわ」
「そんなに時間がたっていないじゃないか」
「あの世は時間が超越しているからね。まあ、ゴタロウのおかげでイチモンジとの因縁も解決」
「話って?」
「秘密」
「まあ、あんたのことなんかどうでもいいけどさ、そろそろ着替えてくれねえ?」
「やだー、この子今更照れているわけ?」
「羞恥心ないあんたがおかしいんだろうが!」
「最初に恥ずかしがって見せたじゃない? まあ、私も痴女ではないから船室に戻るわね」
そう言うとサンゾウはゆっくりと船内へと降下した。俺は安堵する。まだ、イチモンジ軍の残党がいるが問題はないだろう。しかし、俺は甘すぎる。




