シシロウ=キャキャットウという漢(おとこ)
「な~にしているんすか? シシロウ兄貴」
俺は呆気にとられている。
事情がある。俺が驚くのも無理はない。俺の師匠『猫パンチ』師範が『ゴリラキック』一門の誰かに殺されたのは前に述べたはずだ。
それを知ったのは修業中の俺が外界と接触を避けていた時だ。
悲報を告げに来たのはシシロウ=キャキャットウだ。『猫パンチ』の後継者候補の筆頭であり『猫パンチ』五兄弟の四男である。五男の俺とは年が近く何かと仲良く世話になっている頼れる兄貴なのだが……。
「なにこの無様さは……」
容姿端麗で細マッチョな非の打ち所がないヴィジュアルは破壊されている。本人が抱えるくらいのボールに抱きついて戯れている……。なぜに?
「ニャーン」
シシロウ兄貴は野太い声と甲高い声が使い分けるが、今は男のくせにキモい萌え声のような鳴き声をだす。つうか、才能がある人だけどこういうところでも開花しているみたい。どうしたものか……。
「シシロウ兄貴! 犯人を追うって言っていたじゃないですか! 俺を置いてまで……クソ! 無理矢理ついて行くんだった……」
『猫パンチ』のケジメは俺がつけるとか言って去った以来だ。俺も気になって後を追うが師匠が死んでから、まだ一月もたっていない。なにがシシロウ兄貴を変えさせた?
状況を言い忘れたが俺はミリーの案内で珍しい動物のショーがあるといわれてUDOTH艦内の上層区内まで来たのだが……。これを知っていてミリーは俺を連れて行ったのか?
「あれ? おかしいですね……」
「ああ、こんなところで兄貴に出くわすと思わなかったぜ」
「お兄さんですか?」
「兄弟子で『猫パンチ』後継者になれるだろうと目されたシシロウ=キャキャットウ兄貴だ!」
「それほどの人物がなにしているのですか? あれ」
「俺にもわからん」
だけど、思い切って再度、シシロウ兄貴に声を掛ける。
「兄貴! 俺です、ゴタロウです。わかりますか?」
「にゃ?」
変わらずに萌え声で返答する兄貴。台無しだ! 俺の尊敬するカッコイイ兄貴はどこにいったんだ?
「あ、シャーロットだ!」
「は?」
男なのか女なのかわからない……多分少年だろう子供が兄貴を指した。ん? どこかで見た様な……。
「シャーロット、拐われたと思ったけどこんなところにいたんだね」
「にゃ、にゃ」
ゲンナリ……。
シシロウ兄貴は少年に頭をすりすりとしている。思うんだが兄貴は頭が壊れた? 病気?
「おい! 小僧、シャーロットじゃない。シシロウ兄貴だ!」
「あ、あの時の村を助けてくれたおっさん……じゃなくお兄さん! 生きていたんだね」
「ん~? 思い出せないな」
「ついこの間、村でGVDと戦っていたじゃん。その後、僕たちは村を焼き払うと脅されて強制移住されたんだ」
「ああ、あの時の小僧か! 割と新しい記憶だったな。すまん。しかしだな、シシロウ兄貴をシャーロットなんぞと呼ぶのは許さん!」
激高している俺は子供でも容赦なしに胸ぐらを掴み持ち上げる。本人は苦しそうだ。
「ニャー、いけないのニャー。ミシェル君と僕は友達なのニャー。虐めると許さないのニャ」
終わった。
俺の尊敬するシシロウ=キャキャットウは終了した。それでは、皆! 次回作で俺に会おうぜ!
――――――――――幕――――――――――
「現実逃避しないでくださいよ」
「なにお前、俺の心の声が聞こえるの?」
「聞こえないですよ。様子をみて当ててみただけです」
「明察だな。帰ろ、帰ろ。解散、解散~。はい、終わり。やめやめ」
「諦めてどうするのですか? 知っています?」
「どうにもならんだろ? これ」
「最後まで聞いてください。流派『ゴリラキック』には酷く心身を打ち砕かれた時に退行現象がありましてゴリラになっちゃうんです。それで、『ゴリラキック』に対をなす流派『猫パンチ』にもそれがあるんじゃないですか?」
知らないな…。俺はバカバカしくなり適当に気力を弱めて返す。
「………そんなモンになってどうするんだよ?」
「わかりません。しかし、思うんですけど私には」
「何が」
「怪猫音とか怪ゴリ音もありますが…。恥ずかしいけど、闘志がみなぎってきませんか?」
俺は項垂れながら考え込む。ただの修行においての掛け声で癖だからな…。つうかミリーも、本気を出すときには『ウホー』とか叫ぶの?
「ぶふっ」
兄貴問題で気を落としたところでミリーのゴリラ真似を想像したらかなり笑わせてもらったわ。こいつ、やるな!
「何を想像で笑っているんですか! それで、猫になりきることで気力を回復していると思うんですよ」
「なにそれ? ああ、でも師匠がよく言っていたな…猫の気持ちになりきれって」
今でも思うがわけわからん。このわけわからん拳法で強くなったのは事実なのだが……。さておき。
「ミリー!」
「はい?」
「このことは、アシア=ロンテ大佐とスカリには報告しないでくれ」
「そうですね。いまは使い物にならないし……。でも、案外父さん達は把握していてるんじゃないですか」
「それなら、それでいいさ」
今は兄貴の事は断念することにする。
なんだか、今のやりとりで疲れた俺はミリーに『寝る』と告げて寄宿室に戻ることにした。彼女はどこか物足りない表情はしたが『そうですね』と言って寄宿先まで同行する。あまり、お互いの部屋も遠くはないようだった。




