第38話「エリシオン入国 過疎町フリードでの自由時間」
エリシオン王国へ向かい進行する定期船。到着予定の町フリードまで残り1時間になろうとしていた。
陸徒は、今ここでなにを優先すべきか考える。本来の目的は嶺王火山の場所を突き止め、最後のプリウスの魔石を手に入れることだ。
しかし先ほど波美の身に起こった事件は、とてもじゃないが無視できる内容ではない。それは、陸徒以外の面々も理解していた。とはいえ情報量が少なく、具体性に欠ける本件については、もう少々擦り合わせて情報の共有をする必要がある。
ここまで聞いた内容は、謎の男と教団の存在。そしてその教団は、エリシオン王国領地にあるプレサージュの街にあるということ。
波美は、この船に竜の鱗が積まれていて、あの謎の男はそれを探していたことを語った。始めに発見した男ふたりも同じ目的で、その竜の鱗を葬るべく、船ごと沈めようと爆薬を仕掛ける計画だったことも。
「ふむ。2000年前の竜族と魔族の戦争。その時に戦死していった多くの竜族の亡骸が、世界各地で発見されているのは知っております。この船にあった竜の鱗は、その一部なのでしょうな」
「亡骸って、2000年も前の物がか?」
「竜族の個体は、死後時を経ても朽ちることなく、存在しているのです」
波美の話を基に、クレスタが竜の鱗についての説明と、この船に置かれていたと思しきものことを語る。陸徒が2000年という気の遠くなる年月に、驚愕と半信半疑の思いを口にするが、クレスタがそれを説明するために続けて言葉を並べた。
「そういえばあの男、竜族に対して物凄い嫌悪感を抱いているようだったわ。終始冷静だったけど、竜の鱗を見ている時は怒りを露わにしていたもの」
そこへ波美はふと思い出したように、竜族と謎の男の関連性について、船での出来事を交えて話す。それを聞いた空也が、突拍子もない予想を立てた発言をする。
「あの男が魔族っていうことは……ないよね?」
直後、空也の言葉に対して、この世界の住人たちは口を揃えるかのように否定の反応を見せてきた。
「まさか、戦争が終わったと同時に、魔族は救世主レクサスが次元の彼方に封じ込めて滅ぼしたんだぞ」
「わたくしも、そのように歴史を学びました」
「竜族と戦って死んだ魔族も、肉体は消滅しているため、世の中には魔族の遺物はほとんど残っておりませんが、アクシオ殿の言うとおり魔族はレクサスの手によって滅んだとされています。魔族の寿命等は未だ不明ですが、仮にあの男が魔族だったとしても、戦後から2000年経った今になって、なぜ現れたのか説明できません」
ここまで言われ、空也も納得したのかと思いきや、食い下がらずに自分の考えを投げかけてきた。
「でも、2000年も前の話だから、みんな伝承で教えられてきたものでしょう? いくらその間ずっと平和でいられたからって、魔族が全滅したことが証明できる確実なものがないなら、完全に否定はできないと思うけど……」
空也にしては鋭い発言。彼の言うように、大昔のことなど後に発見されるものによっては、歴史が塗り替えられることも珍しい話ではない。
「空也殿の言い分も一理ありますな」
「でもあくまで仮説だ。空也はあの男が魔族であってほしいのか?」
「そういうわけじゃないけど、あまりにも謎が多いから……」
空也なりの分析ではあったが、思いのほか的を得た内容であったため、そのことには関心を示しつつも、兄の陸徒は冷静に処理をする。
しかしこのように、空也までもが積極的に考えるほど、この問題に対する情報の少なさと、解決すべき重要性が伺えてくる。それらを踏まえた上で陸徒はある決断をした。
「みんな聞いてくれ。俺たちは今、プリウスの魔石を手に入れるために急がなきゃならない。それはわかっているよな?」
途端に神妙な顔つきで話し出す陸徒に、他のメンバーも改まったように反応し、その応えとして頷く。
「だが、今ここで議論している内容はなんだ。謎の男? 教団? 魔族と竜族? なにひとつ解明されない。わからないことが多すぎる。だから俺たちは、エリシオンに到着次第プレサージュの街へ向かう。それでいいか?」
いつの間にかメンバーを仕切って、行動の計画案を出す陸徒に対し、異論を示す人物は誰ひとりといなかった。寧ろアクシオや波美、クレスタに至っては、始めからそのつもりでいたような表情を見せている。
「ようやく行く気になったか、陸徒」
「りっくん慎重に考え事している時は、決断が遅れるもんね。あたしもあの男が何者なのか気になる」
「陸徒殿、その決断は間違ってはおりませんぞ。それに、寄り道をしたからといって本来の目的が進まないわけでもありません。嶺王火山の場所については、プレサージュの街でも調べることは可能です」
前述を意味する言葉を各々が発すると、一同にして次の行動計画を固める。
そうこうしている内に、間もなくして船が目的地へ到着しようとしていた。
「母国か、懐かしいな」
全員甲板へ出て、進行方向より見えて拡大されていく陸地を眺める。そんな中、アクシオは母国であるエリシオンを懐かしみ、やや遠い目をしながら呟く。
フリードの町は船着き場のある小さな町だ。住民は少ないが、エリシオンとエルグランドを結ぶ定期船が発着する理由から、旅人や行商人らを多く見かける。
それだけに、町の発展や人口の増加が見込めるものかと思うが、町から2キロメートルほど進んだ先に、エクシーガというエリシオン有数の巨大都市がある理由からか、大抵の人はフリードに滞在せず、そこへ流れて行ってしまうようだ。これがフリード過疎化の原因である。
到着するや否や、早速と入国審査が行われる関所が待ち受けていた。特に問題なく通過できたのだが、前回エルグランドへ入国する際にも使用した、偽造の身分証明書が再び登場する。同様に不安な気持ちを抱えながら、いそいそとその場を抜け切る異世界組であった。
「さて、エリシオン王国に到着ね!」
船内での出来事が嘘だったかのように、波美は元気に振る舞っている。無理矢理なカラ元気ではなく、素直な行動だ。これが元々の彼女の性格で、自分の身に起きた嫌なことも軽く跳ね除け、明るくポジティブでいられる面は、周りから見ても羨ましく思うところもあるだろう。なにかと心配性で思慮深い陸徒とは正反対である。
「しっかし、フリードの町はホントに一時的に人が多いだけなんだな」
「うん、なんか変な感じ」
町へ入ると、改めてアクシオが言葉を漏らす。それに同意してか、空也も心に持つ違和感を口にした。
ここフリードの町は前述の通り、定期船の発着場といえど発展した様子はなく、とても小規模な町。見る限りでは住宅が数件、宿屋は1件のみ。商店ですら道具屋と食材屋だけで、他の町で見られた武器屋の存在が確認できない。
陸徒たちが乗っていた船の他の乗客も、町をスルーしてそそくさと外へ出て行くという流れが既にできていた。やはり近くにある巨大都市エクシーガで滞在する人がほとんどなのだろう。
「さて、まだ夕暮れまで時間あるな。折角だから俺たちもエクシーガまで行って、そこで宿を取るか?」
陸徒が宵越しのプランを出すも、思いのほかそれに賛同する者はおらず、波美を始め、多くのメンバーがここフリードの町で宿泊することを提案してきた。
「んー。あまりせかせか急ぐのもなんだし、あたしはこの町で一晩過ごしたいかなぁ」
「こんななんもない町でか?」
「逆になにもないからいいんじゃない。のんびりきるるわ」
「わたくしも波美さんの意見に賛成です。長時間の船旅で皆さんお疲れでしょうし」
「まぁ今回一番疲れたのは波美だろう。その本人が休みたいと言っているわけだから、今回はそれに従おうぜ」
おそらく陸徒は、プレサージュの街へ行く前に、巨大都市エクシーガにて、嶺王火山あるいは謎の教団について情報収集が出来るものと考えていたのだろう。波美やシェリル、アクシオの言葉を受けてもしばし渋い顔をしていたのだが、彼らの言うように波美の身体を考えれば仕方ないことと判断してか、自己解決した時のような晴れた顔へ変わり、この過疎町フリードにて一晩滞在することとなった。
しかし、時間にして現在は昼の2時。宿のチェックインをした後、夕食まで各々自由時間とした。
空也は引き続き魔術書の特性を読み取る訓練のために、クレスタと一緒に部屋へ篭り始めた。波美とアクシオは別行動ではあるが、それぞれ町や周辺の散歩へと出掛けた。
陸徒はひとり、部屋で一休みしようかと宿屋のロビーから移動しかけたところへ、手洗いを済ませたシェリルがやって来て声をかけてきた。
「あら、陸徒さんお部屋でお休みになられるのですか?」
「まぁすることないしさ。シェリルは出掛けるのか?」
「はい。矢のストックが減ってきましたので、それを作る為の材料を買いに行こうかと思っていたところです」
「作る? 自分で矢を作っているのか」
陸徒はてっきり武器屋で矢を買い足しているものと思っていたようで、意外な返事に驚くと同時に、興味が湧いてきた。
シェリルの弓は、卓越した命中精度を誇るのも特筆すべき点ではあるが、それ以上に見た目が通常の物と大して変わらない矢が、目標へ射る瞬間、光を帯びてまるで光線のように飛んでいく仕組みが未だにわかっていない。
それを解明させる良い機会だと、陸徒はシェリルの買い物に同行することにした。




