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ミドラディアス  作者: 睦月マフユ
22/111

第22話「吹き荒ぶ風の谷」

 場所、時共に不明……。

 何者かがモンスターと対峙していた。


「はあぁぁっ!」


 気合いの篭った声と共に振り下ろされた大刃。濃紫色の剣閃を描きながら、黒く蠢くものを両断する。亡骸から噴き出される黒い煙を背後に、剣を肩に載せてから言葉を漏らした。


「……この区域はやたらとモンスターの凶暴化が進んでいるな」


 機嫌が悪いのか、男は眉間にシワを寄せ目を細めている。


「ますます、アレがここにあるという信憑性を強めている気がするわ」


 その声は男のものではなく、別の方向から聞こえてきた。大人びた艶のある女の声だ。


「同感だ。わざわざここまできた甲斐があったというものだ」


 男女ふたり組は、なに理由にどのような目的でこの場にきているのかは不明だ。ただ言えるのは、凶暴化したキラービートルを軽々と、しかもいとも簡単に倒してしまうほどの実力の持ち主であるということだ。


―清らかなる精霊の涙よ、凍てつく刃となれ―

氷冷雨(フリーズレイン)!」


 滑らか且つ流暢な早口で呪文を詠唱し、魔術を放ったのは女の声。それは男の数メートル背後にいた黒いものに直撃して消滅させる。


「何油断しているのよ」

「……余計な事を」


 突如放たれた魔術にも、背後にモンスターが潜んでいたことにも特に驚きを見せず、あたかもなにもなかったかのような振る舞いを見せる男。女が魔術を使うことを予測していたのか、それともモンスターの気配にすでに気づいていて、自ら倒すつもりでいたのかは定かではない。


「さぁ、モンスターなどに手を焼いている時間はなくてよ」

「わかっている。アレの在り処は大方目星はついている。だが少々面倒なのも確かだ。ここは、奴らの手を借りるとしよう」

「奴らって……貴方の?」

「まぁ、俺たちの計画に狂いはない」


 鋭い眼光を宿した作り物のような表情を崩さず、薄らと口角だけを微動させ、男は歩みを進める。女はしばしその様子を見つめてから、同じようにしてゆっくりと足を動かす。次第にふたりの姿は奥地へと消えて行った……。




 ところはラクティスの町。少女リアラの家にて夕食をご馳走になった一行は、明日の風の谷出発に向けて体を休める。


「ねぇ、リアラはどうして魔術士になったの?」


 台所でリアラと一緒に洗い物の手伝いをしていた空也が、ここぞとばかりにタイミングを見計らって質問してきた。

 彼女は別段気にしてはいないだろうが、空也は先ほどの発言を未だに悔やんでいた。悪気はないことは自身も理解しているが、思春期ゆえのナイーブさがそうさせているようだ。


「ワタシの母が、魔術士だったんです」


 そんな空也を安心させるかのように、リアラは首を動かし隣にいる彼の方へ顔と視線を移すと、柔らかな笑顔で答えた。

 その反応から、もう気にすることはないと確認できた空也は、表情に生気を戻してすぐさま言葉を返す。


「へえ、そうだったんだ。それでリアラはお母さんに魔術を教えてもらったんだね」

「はい。ですがこの町は魔術とあまり縁がないところのようなので、今ではワタシと極僅かの人しか使える人はいないんですよ」

「え、そうなの?」


 この世界はどこへ行っても魔術だらけ。というのはこの世界を知らない異世界組の勝手な先入観である。


「だからモンスターが襲ってきても、魔術で戦うことができないからみんな怖がっているんだね」

「ワタシはこの町が大好きです。ワタシひとりでも戦って守ってみせます!」


 表情に力を込めて、気丈な態度を示すリアラ。自分の置かれた立場や周りの環境が人一倍厳しいのにも拘らず、弱さを見せまいと健気に振舞うその姿はとても齢12には見えなかった。平和ボケした我が弟にも少し見習ってもらいたいと、陸徒が傍らで見ていたらそう思っていたに違いない。

 一方で、空也には優しさという他人に負けない良いところもある。


「強いんだねリアラは。でも大丈夫、僕たちがいる。だからリアラはひとりなんかじゃないよ」

「空也さん……ありがとうございます!」

「それと、僕のことは呼び捨てでいいし、敬語なんて使わなくてもいいよ。同じ魔術士として仲良くしよっ」

「は、はい!」

「ほら敬語」

「あっ……」


 リアラは顔を少し紅潮させて口元に手を持ってくると、その動作を見ながら空也はぶっと息を吹き出して笑う。それに続いてリアラも頬の色を維持したまま、エヘヘと照れ笑いをした。

 空也のおかげで彼女の緊張感も解れたようだ。屈託のない空也の優しい性格と、お互いの年齢が近いことも相まって、早くもふたりは打ち解けることができた。


 

 朝を迎え、準備万端整った一行は、いざ風の谷へと進む。

 危険な地へ身を投じようとするリアラを案じ、引き止めの意思を見せる町の人もいたが、傭兵を連れ歩いているかのような錚々たるメンバーと、計らずも町を救ってくれるのではないかという期待感からか、強く出てくる者はいなく、見守るように彼らの出発する後姿を眺めていた。


「みんな、これから風の谷だ。準備はいいな?」


 町を出てから間もなくして、陸徒が喚起を促す。


「もっちろんバッチリだよ!」


 調子の良い波美やアクシオが反応するかと思いきや、真っ先に声を出したのは空也であった。普段の朝はテンションの低いはずが、今朝はやけに元気に溢れている。まるで好きな女の子の前で格好良く見せようと必要以上に張り切る子供のようだ。


「空也くん、随分張り切ってるわね。ちゃんとリアラちゃんを守ってあげるのよ」


 誰が見てもわかりやすい態度に、波美は面白がりながら遠慮なく空也を茶化すと、さながら芸人のリアクションの如く、素早くあからさまな反応を見せる。


「わ、わかってるよそんなの!」


 そう言うと必死で照れ隠しをしながら、足早にひとり先へと進んで行ってしまった。その様子を見て皆が微笑みながら顔を合せ、有頂天な魔術士少年を追いかけるように歩み出す。

 出だしから気の緩むようなシーンが展開されるが、この先に待ち受けるのは凶暴なモンスターたちが潜んでいるであろう場所だ。少なからず全員がそれに対する緊張感を有しているだろうが、未知なるものに対する恐怖感も隠せない。目的地である風の谷が近づくにつれて、表情が固まっていった。



 ラクティスの町を出て一刻も経たないうちに風の谷へ到着。

 周囲には標高の高い岩壁が立ち並び、訪れた者の進入を拒むかのように、向こう側から迫りくるほどの威圧感を与えている。その隙間から流れてくるヒューヒューと切れ味の鋭い音を立てる風が、まるで台風の暴風域に立っていると思わせるほどの強風へと姿を変え、辺り一帯で暴れていた。


「みなさん、ここが風の谷です」


 止まぬ騒音の中、声のトーンを強めてからリアラがそう告げた。言われずともこの状況でそれに気づかない者は誰ひとりとていなかった。

 モンスターの気配は感じない。ここはあくまで谷の入り口であって、彼らの生息地は更に奥にあるようだ。その方向へ目をやると、草木などの植物はほとんど見受けられず、岩肌の露出した崖と急勾配な悪路がこの先へ進もうとする者の意欲を削いでくる。おまけにこの強風。踏ん張りを利かせていなければ、体を煽られてバランスを崩していまいそうなほどだ。

 この劣悪な環境に早くも根を上げるような発言が飛び交う。


「ちょいと、こいつはきつくないか?」

「風が強い上に、なにこの足場の悪さ……」

「これ以上先に進むのなんて無理だよぉ」


 異世界はおろか、徒歩のみという旅そのものに慣れていない3人組は、当然ながら今にも白旗をあげそうな表情をしている。


「確かにこれは厄介だな」

「えぇ、なんとかならないものでしょうか……」


 だがさすがにミドラディアスの住人であるアクシオ、シェリルも後ろを向くような言葉を零す。そんな中、意外な人物から前向きな声が飛んでくる。


「皆さん、まだ谷へ入ったばかりですぞ。私より若いのですから頑張りましょう!」


 皆が顔を揃えてその人物へ視線を寄せる。濃紫のローブを纏った眉雪クレスタだ。メンバーの中で最もこの状況に適さないであろう者からの、励ましの篭った言葉を受け、全員が動揺の様子を露にする。


「ワタシたちラクティスの町の人間でも、この谷の奥へ進むのはとても困難です。なのでこれを飲んで下さい」


 言いながらリアラは肩から掛けている小振りのポーチに手を突っ込んで、中からゴソゴソとなにかを取り出してきた。それを周囲に見せつけるかのように掌に乗せると、誰かの問いを待たずに説明を始めた。


「これはワタシが煎じた魔法丸薬です。足の疲れや体力の消耗を軽減させる効果があります」


 少女の小さな手の上で存在するは、深緑色の飴玉程度のサイズのものだった。


「魔法丸薬? リアラってそんなもんも作れるのか」


 アクシオが言いながら緑の玉をひとつ摘み取って、虚空に翳して片目で覗き込む。


「母が良く作っていた薬です。母は魔術士であるのと同時に薬師でもあったので、この魔法丸薬だけはワタシにも処方を教えてもらいました」


 表情を輝かせながらハキハキと説明をするリアラとはやや対称に、陸徒たちは薬という言葉に少し抵抗を感じていたが、その後のアクシオの行動で疑念は打ち消された。


「うおっ! マジで体の調子が良くなった気がする。走り回っても全然疲れないぞ!」


 アクシオはリアラの話を聞きながらすでにその魔法丸薬を飲み込んでいたのだ。後先考えずにすぐ行動に出る単細胞はマイナス要因を生みだしやすいが、それは時として功を成す。今回はリアラの自信ある得意技を疑われ、気を悪くすることを上手く回避できたようだ。

 この強風で荒れる谷の道を軽快に走り回るアクシオを素っとん狂な顔で眺めるメンバー。その様子を見ながらリアラは自身の成果を噛み締める。


 早速全員がリアラの薬を飲み、コンディションの悪さにプラス補正を掛けると、引き続き足場の不安定な傾斜を歩み進む。薬の効果があるとはいえ、強風と急勾配のフィールドは変わらない。慎重に地面を踏みしめ、谷の奥を目指していると前方からなにか音が聞こえてきた。

 明らかにハッキリと聞こえるその音に全員が気づき耳を傾ける。風の音で聞き取りにくいところもあるが、徐々に明瞭化されていく硬いものがゴロゴロと転がるような音……。やがて、その音の正体が陸徒たちの前に姿を現した。

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