第20話「次なる冒険の地 エルグランド王国へ」
港町ラフェスタでの海賊騒動の後、陸徒たちは偶然にもその船内にて宝の地図と思しきものを発見した。
地図に記されている宝の在り処を示している印は2箇所。その内の1箇所は、プリウスの魔石を手に入れた流水の洞窟。そしてもう1箇所は、アルファードの隣国であるエルグランド王国に存在する風の谷という場所だった。
これまでの情報を基にした推測によれば、この2つの印は、プリウスの魔石の在り処を示すものと考えられる。その理由としてのポイントは、魔石にはそれぞれ火、水、風、地の属性の力が秘められており、安置されている場所もまた、その属性の力で守られているという点だ。
水の魔石を手に入れた流水の洞窟は、水の力で守られている場所だった。それらの点を踏まえると、導き出される推測は、風の力で守られていると言われる風の谷に、プリウスの魔石がある可能性が高いということだ。
期待を胸に、一行はエルグランド王国へ向かうことを決意する。
渦中、流水の洞窟探索と、海獣ログノスキュラとの戦いに協力してくれた旅の戦士アクシオが、陸徒たちの仲間に正式に加わることとなった。己の背丈より長い槍を自在に操るその戦闘力の高さは折り紙つきで、危険を顧みず共に戦ってくれた人間味は、とても信頼の置ける者に値する。ところが一方で、非常にお調子者且つ軽い性格であるため、一部のメンバーからは細い目で見られていた。
「おーっす、おはようさんっ!! さぁてこれからエルグランドの風の谷へ向けて、楽しい旅の始まりだぜーっ!」
心地良い小鳥達の合唱が窓から入り込んでくる宿にて、一行は朝を迎える。そんな中、皆がロビーへ集まってくるなり声高らかに第一声を放ったのは、お調子者のアクシオだった。
「はいはい、おはようおはよう。朝からなによ、テンション上げちゃって」
気分上々男に対し、冷たい反応を示すのは、亜麻色の長髪ポニーテールを振り子のように揺らしながら、靴の紐を結んだりと身支度をしている波美。
そう、先ほどの一部のメンバーというのは波美のことであった。彼女は元々軽い性格の男が嫌いで、初めにアクシオに出会った時も、真っ先に懐疑的な視線をぶつけていた。彼自身を嫌っているわけではないと思われるが、いまいちすぐに気を許せるものでもないのだろう。
しかし考えてもみれば、波美自身も明朗快活ですぐに調子に乗るタイプだ。言い方を変えれば似た者同士にもなるのだが、彼女にとってそれとこれとは別なのだ。
準備を整えた一行は、宿を出て港町ラフェスタを後にする。
エルグランド王国へ入るには、国境の各所に設置された関所を通過しなければならない。その為、先ずは南西の方角にあるそこへと向かうことにする。目的地まではおよそ2日ほど歩けば着くそうだ。
道中ではパーティー内で様々な会話が飛び交う。
「そういや、なんかすまねぇな。俺の宿代まで出してもらって。別に自分の分は払っても構わなかったんだが」
「いえ。アクシオさんはもうわたくしたちのお仲間なのですから、その必要はございませんよ」
「そ、そうか。ま、戦闘となったらこの俺が命に懸けてお前らを守るぜ。俺にできることったらこれくらいしかないからな」
只のお調子者かと思いきや、意外にも律儀な所を見せるアクシオ。これは波美の彼に対するイメージも少し変わるのではないだろうか。それを匂わせるように、亜麻色は監視するような視線でその様子を見ていた。
「ねぇねぇ、これから行く関所って簡単に通れる所なの?」
「関所なんだから、国境を通る人間を管理する所だろ。通過するにはなにかしら証明をするような物が必要なんじゃないか? そういや俺たち異世界組はなにも持っていないぞ」
空也と会話しながら重要なことに気づく陸徒。彼の言うとおり、関所を設けているのは不法入国を防ぐために管理するからだ。顔パスで通れるとは考え難い。
「丁度そのことについてお話ししようと思っておりました」
そこへクレスタが思い出した表情で、懐に手を差し込みながら声を発する。そしてなにやら紙切れのようなものを3枚取り出すと、陸徒と空也、波美にそれぞれ手渡した。
「これは、関所を通る際に必要な身分証のようなものです。御三方はこちらの世界の人間ではないですから、特別に用意しておいたのです」
「すげぇ、用意周到だな!」
傍から見ればただの紙切れだが、そこにはしっかりと英文字で各フルネームの他、出身国アルファードと記載。そして、国王の押印がされていた。
「へぇ。こんなのも偽造してくれたんだね」
「偽造とか露骨に言うなよ……」
悪意はないだろうが、明るい笑顔でサラッと言葉にする波美に対し、陸徒が冷ややかに突っ込む。これにはクレスタもつい苦笑を漏らしていた。
ともあれ、これで問題なく関所を通過して、目的地である風の谷へ向かうことができるだろう。
しばらく街道を歩み、度々出現するモンスターを撃退しながら進む。
ここでも戦士アクシオが大いに活躍してくれた。早速宿代の礼をするかのように、先陣切って長物の槍を振り回し、立ちはだかるモンスターを次々と倒していったのだ。
この時も波美は、まるで監督者のようにその様子を見ていた。何様のつもりだと、そろそろ陸徒あたりが言ってくるものと思うだろうが、自分のことすらも気づかないような鈍感男には到底無理な話だろう。
「へぇやっぱり旅の戦士さんだけあって、戦いには慣れているものね」
完全に上から目線だ。腰に両手を当て、胸を張った態度で言葉を発す。
「まぁこいつが俺の専門分野だしな。けどよ波美、お前さんの戦いのセンスも中々のもんだ。いい筋をしている」
「な、なによいきなり。まぁ、このあたしの手に掛かれば、モンスターなんてちょちょいのちょいよ!」
急に褒められて意表を突かれたのか、一瞬困った表情をするが、同じ態度で調子に乗った発言をする。やはり、人のことを言えないほどに似た者同士である。
「だな! これは、俺があまり出張んなくても大丈夫かもな」
「そうよ。波美ちゃんにお任せアレ!」
ヨイショされたお調子者ポニーテールは、すっかり上機嫌になり、右手でガッツポーズを決めて顔をニヤつかせる。それに対し、アクシオが声に出して笑うと、波美も笑顔で応える。
彼女自身まだ気づいていないだろうが、これですでにアクシオと打ち解けている状態となった。
「皆さん、関所が見えてきましたよ」
町を出てから、野宿を挟んでは2日が経とうとしていた折、ようやく目的地が視界に入る地点まで辿り着いていた。時間帯としては昼過ぎをとうに迎えている頃だろう。ここまで歩き続けたことによる疲労に加え、昼食をまだ済ませていないために空腹に見舞われている陸徒たちにとっては、目的地到着が近いという知らせは、急に空気を送り込まれた風船のように体に元気が戻ってくるものだ。
徐々に姿を見せ始める建物を視認しながら、陸徒とシェリルが会話をする。
「やっと着くか。あれが関所なんだな。そこを越えた先はエルグランド王国。そういやエルグランドも、アルファードと同じように城があって、王様が国を治めているんだろ?」
「ええそうですね。エルグランド王国は女王アーシェラ様が治めていらっしゃいます」
「へー、エルグランドは女王制なのか」
陸徒たちの世界では、イギリスが代表的なそれに当たる。イメージとしては貴族が中心となって動いているものと思われるが、一体どのような国なのだろうか。
そうこうしているうちに、関所が目と鼻の先の位置まで来ていた。
石ブロック積みの大きな門に、頑丈そうな鋼鉄製の格子があり、今は上に引き上げられて開放している状態だ。目に飛び込むのは旅人や商人のような装いをした人の往来。門の傍らには小さい建物が併設されていた。
「関所内には小規模ではございますが、休憩所があります。そこで昼食を取りましょう」
クレスタが言うと、我先にと異世界組の3人が検問へ向かっていった。
看守に身分証を見せ、特に問題なく通過することができた一行は、早速と休憩所の中へ入る。
「わぁここが関所の休憩所かぁ」
「なんか町の食堂か、フードコートみたいな雰囲気ね」
波美と空也が声を漏らす。亜麻色の言うようにそこは町の食堂もしくはフードコートで見る光景に似ていて、テーブルと椅子が等間隔に置かれ、飲食で一服している人で軽い賑わいを見せていた。
ここで出されている食事のメニューは、サンドイッチやホットドッグのような軽食がメインだったため、それぞれが好きな物を注文して席に着いた。白身魚フライのサンドやハムカツサンド等、比較的タンパクでボリュームのあるものが置かれ、皆上機嫌でそれを頬張る。
そんな中、空也がなにか遠くを見つめているような視線に陸徒が気づく。その視線の先に目を移すと、そこにはひとりの女の子が立っているのが見えた。兄は真っ先にあることを感じ取り、顔をニヤつかせながら弟に話し掛ける。
「くうや~、なぁに見てんだ?」
「あ、兄ちゃん。なにって、あそこにいる女の子だよ」
「さては一目惚れか?」
「違うよ。別にそんなんじゃなくて、あの子もしかしたら魔術士かも」
「は、そうなのか?」
兄としては予想が外れたためか少しガッカリするも、弟が魔術士の存在に気づいていたことに驚きを見せた。
なにかにつけて好奇心旺盛な空也ではあるが、これまでは美味しそうなプリンが売っているだとか、珍しい虫がいたとか、新しいシリーズのゲームが発売される等、大したことのないものばかりに興味を示していた。だが今回は、魔術という自身が今修行中であることに関係する内容だったため、期待とは外れていたが、陸徒としては少々面食らったものと思われる。
「あらぁ空也くんってばいい歳してナンパかしらぁ?」
「えっナ、ナンパです、か?」
今度は波美とシェリルが話に参加してくる。
「おー、空也も男だねぇ」
「空也殿……?」
続いてアクシオ、クレスタといつの間にか全員が空也の話題に興味を示して首を突っ込んでいた。しかも陸徒と同様、皆が共通して彼が色気づいたものと思っている。
だがそれに対して本人からのツッコミがこなかったのは、すでに空也がその女の子の元へ足を運んでいたからだ。
「まぁ今回は、ちと違うみたいだけどな」
勝手に盛り上がっている外野を余所目に、理由を知っている陸徒は弟の動向をじっと見据えていた。
「こ、こんにちは」
女の子の元に着いた空也は、挨拶をして声を掛ける。
「……こんにちは」
突然声を掛けられ驚きを見せるも、余所余所しく挨拶を返してくる女の子。少なくとも警戒しているように思われる。
「えっと、キ、キミってもしかして……」
「……はい?」
「空也、口下手そうだから上手くいくかなぁ」
「さぁな、どうだろうか……」
ふたりの様子を見守りながら、外野勢はその様子を凝視している。
しばらくして、空也が例の女の子を連れて一緒にやってきた。
初めに警戒心丸出しだった女の子の表情はすでに柔らかくなっており、空也の表情は目元に力が入ってなにやら自信有り気な様子。一体ふたりの会話でなにが起きていたのだろうか。
「みんな、この子が風の谷まで案内してくれるって!」
「「「えぇぇぇぇぇっ! なにその展開っ!?」」」




