【 二話 】
お兄様とお姉様の様子を伺うのに夢中になり過ぎて、自分の身の回りに注意するのが散漫になってしまっておりました。気が付けば、榛色の髪と瞳の、お父様によく似た私の異母妹がお友達を連れて、側に立っております。小ぶりの可愛らしい顔が満面の笑顔です。
身に着けているドレスは、後見の無いに等しい令嬢が着るには不相応な程良いものです。私が婚約者である公爵家で用意して頂いたドレスに並ぶ程のドレスです。身分云々やあれこれを言うつもりもありませんが、彼女には、この様なドレスを用意出来るような家族は居ないのです。
私のお母様は、私の婚約が整って間もなくの頃に病で亡くなっております。
お父様は、我が伯爵家に入婿です。
お母様と結婚なされる前から父と恋人同士だったという彼女の母は子爵令嬢。そのまま関係を持ち続け、私と同じ歳の彼女を産みました。ですが、私のお母様が亡くなったからと言っても、後妻に入る事も無く、愛人のままで父と馬車の事故で二人一緒に亡くなりました。
ご結婚なさるなら、父は伯爵家を出なくてはならなくなる。それを嫌がったのでしょう。
お母様が亡くなってから、父が亡くなるまで、屋敷の離れで仲の良い家族というものを見せつけられてきました。思いどおりにならない事への八つ当たりもあったのでしょう。
そんな私にとって心の拠り所はお兄様の家族だったのです。
私が笑う事を忘れないでいられたのは、お兄様達が居て下さったからです。
そんな彼女達が、何時もの様に私の元へ来ると分かっていました。ですが、動く気も無かったので、相対するのは仕方の無い事です。
「エリーゼお姉様ったら、こんな所でお一人なんて…。ふふふ。麗しい婚約者様は何方に?」
この様な夜会の席で、お兄様がお姉様の元へ向かったのを見計らった頃に近づいてきます。お兄様がお姉様の元へ行くのを応援する気持ちはあれど、その後のコレは、とても気の重いものです。
「お知り合いの方に、ご挨拶ではないでしょうか」
人目もあります。当たり障りのない返答を返します。
「麗しい方に相応しい方の元へ行ってしまったのではなくて?」
「同じ黒髪でも、持って生まれた美しさが違うからな。婚約者の目が他所に向くのは当たり前だよ」
「こんな陰気な黒髪と並んでいたって、楽しくもないからな」
「ふふふ。私のエリーゼお姉様にそんな事言わないで。生まれ持った色を、どうにか出来る人なんて居ないんですもの」
「だからって、愛想のない上にこんな暗い色。誰も相手にしようとしないじゃないか」
お母様から受け継いだこの色を、お父様に愛されなかった証拠として異母妹達は笑いに来るのです。
愛していなかったのなら、そもそも結婚なんてなさらなければよかったのです。それ程思った令嬢なら、何を捨ててでも、ご一緒になれば良かったのにと思います。父は、爵位とお金を欲しながら、ご自分の都合だけで生きた馬鹿な男だと思いますの。
私を笑う異母妹は、娘として認知されていないだけで無く、貴族籍すら持っていないのです。伯爵家のお祖父様が、引き取り手の無い異母妹を、気の毒に思い成人までと置いて差しあげているだけなのです。
ですが、成人を迎えましたので、何方かとご一緒になるのでしょう。
それを踏まえて、この場の、本当の笑い者はどちらなのでしょう?
それに愛想のないは、こんな事を言われてまでして笑顔にはなれないからです。笑わないのは、この方達に対してだけです。お兄様は、可愛いと言って下さいます。お兄様のお父様とお母様は愛らしいと。お兄様の弟のクリスは、言葉なくとも微笑みを返してくれます。
私には、それで十分なのです。
そんな分かりきった事なのに、何故分かってくださらないのでしょうか?
今話もお読み頂きありがとうございました。