表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/100

95:過去と現在(いま)と未来 (8)

 重苦しい沈黙が降りた。

 しばらく誰も動かなかった。

 動けなかった。

 動けばそれを皮切りに激しい戦いになることがわかっていたから。

 暗い空はこの塔のような場所を中心に渦を巻き、雷が雲を割って幾度か地上へと降り注いだ。

 それが合図だったように白銀が飛翔する。

 茜を抱え上げて。

 

「オン・アミリタ・テイゼイ・カラ・ウン!」

 

 叶斗が素早く印を結び、真言を唱えた。

 かわすために低く飛ぶ白銀へと蒼が距離を詰める。

 鉄の噛み合う音。

 刃と刃は火花でも見えそうなほど烈しくぶつかった。

 白銀の腕からひらりと舞い降りて、茜の手にもまた一振りの日本刀が握られている。

 茜が戦うところを見るのは初めてだ。

 その剣さばきは蒼に負けないくらい速い。

 少年の姿の蒼と、茜はやはりそっくりで、幼い外見の二人が刃を交えているのがよけいに凄惨さを生んでいた。

 けれど二人ばかりを気にしている余裕は実はない。

 白銀は私と叶斗の目の前で翼を大きく羽ばたかせた。

 突風というより竜巻に近い風が吹き付ける。

 幸いにも叶斗が張った護身結界によって風はわずかにしかとどかない。

 しかし、長く持ちこたえるにはあまりに苛烈な妖気だ。

 

「くっ…」

 

 叶斗が貼った符が焼き切れて焦げる。

 風が突如として勢いを増した。

 私が唱えていた術がなんとか間に合って切り刻まれるのは免れたけど、風は痛いくらいに吹き荒れている。

 何とか目を開ければ白銀が弓を引き絞っているのが見えた。

 無数に増えて飛来する矢を防ぎきれるかどうか。

 叶斗が素早くお札を投げ放つ。

 大半の矢はこちらに到達する前に札に突き刺さり燃え上がった。

 そのまま空中で灰みたいに消えてしまう。

 残った矢が私の張った結界が阻まれ、方向を変えて床や柱に刺さった。

 ここまで届いたものはない。

 白銀のほんの少しの焦りを見逃さず、叶斗が攻撃に転じて真言を放った。

 

「ぐあぁっ」

 

 それは見事に白い翼を捉え、地に落とされた白銀はうめき声を上げる。

 

「水穂!!」

 

 叶斗は振り返らずに言った。

 

「はいっ!」

 

「僕に左手を貸せ」

 

「え?どういう…」

 

「右手だけでは呪縛の印が結べない」

 

 思わず聞き返そうとした私の言葉を遮って、叶斗は苛立たしげ――というかもどかしげに言う。

 先ほどから叶斗は右手だけしか使っていなかった。

 元々傷を負っていた左腕のシャツの袖に血がにじんできている。

 先ほど蔦に絡み付かれたときに傷口が開いてしまったに違いない。

 

「君の力が必要なんだ」

 

 強力な術の印を結ぶには両手が必要だから。

 私は肩を寄せ合うようにして叶斗にの目の前に左手を差し出した。

 私の左手に叶斗の右手が合わせられる。

 彼の体温が伝わって、おまけに顔がかなり近くにあるし、急に鼓動が跳ね上がった。

 でもそんな事を意識している場合じゃない。

 そう自分に言い聞かせて術に集中する。

 叶斗の詠唱にあわせて印を組み替えていけば、指先が淡く光り出す。

 ひかりはするするとほどけて、糸のように形を成していった。

 霊気の糸は素早く延びる。

 わずかに色味の違う二つの光が依り合わさって出来た強くしなやかな糸は、白銀の身を縛り、地へとうずくまらせた。

 二人分の霊力を込めた強力な呪縛の術。

 叶斗に力を貸しただけなのに私はかなり消耗していた。

 息が上がって苦しい。

 けれど、白銀が弱るまで持ちこたえないと。

 

「おのれ、このような物…」

 

「おとなしくしていろ。もがけば身を傷付けるだけだぞ」

 

 わずかに息を切らしながら叶斗は白銀へと忠告する。

 それでもしばらくもがいてはいたが、やがて術を破ることは難しいと悟ったのかおとなしくなった。

 

「蒼は!?」

 

 先程から止むことなく耳に届いている刀がぶつかり合う堅い音。

 印を解くことなく、音のする方へと叶斗は心配そうに視線だけを投げる。

 動きを追うことすら難しいほどの速い打ち合いを続けて、二人はまた刃を噛み合わせたまま動きを止めた。

 どちらも顔や着衣に浅い切り傷を刻んでいる。

 力は五分と五分。

 けれど体力の消耗が激しいのは蒼の方だ。

 もともと体調が万全ではない上にここまで来る道のりは楽なものではなかったのだから。

 蒼と茜は互いに噛み合っていた刃を一度離した。

 火花を散らしてまた激しくぶつかり合う。

 助けに行けるものならそうしたいのは叶斗だって同じだろう。

 白銀は大人しくなったけれど、印を解いて大丈夫なのかわからない。

 

「…ククク…ハハハハハ!たかが人間風情がこれで勝ったつもりか!?」

 

 呪縛されている白銀が突如声を上げる。

 霊気の糸はもがけば食い込むのに、そんなことなどどうでもいいというように、そのまま己の身が傷つくのもかまわず霊気の糸を力任せに引きちぎった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ