42:白衣のニャンコと白澤医院 (4)
柊子は私に座るように促し、傍らに屈んで手にしたファイルを開いた。
その動作一つ一つが格好良い。
「検査の結果骨に異常は見られませんでした。打ち身があるから二、三日は湿布を張っておいてください」
いかにもできる女医といった感じだ。
「慣れないことばかりで大変でしょう?あまり精神的な疲労を溜めないようにね」
「はい…ありがとうございます」
見とれている私に柊子はにっこりと微笑んで立ち上がる。
「さて、と。わかっていると思うけど後の三人はしばらく安静にしていること!いいわね?」
言いおいて柊子は部屋を出て行った。
「そうや!忘れてた!!」
安静と言われたばかりにもかかわらず伊緒里ががばっと勢い良くベッドの上で身を起こす。
がすぐにへなへなとまた横になった。
それでもごそごそと布団の中で体をこちらに向ける。
「夜稀や。あの洞窟に夜稀がおったんや」
もちろん本当にいたわけではなく映し出された過去の出来事だ。
「夜稀は何のつもりなんやろか?」
「それは僕も考えていた。この国に混乱を招くため。…いや、他にも目的があるのかもしれないな」
「仲間を集めてる。とか?」
私の言葉に叶斗の反応は肯定とも否定ともつかない。
「ぼくはあり得ると思うなぁ」
代わりに蒼が肯定の返事を返した。
「夜稀はもう孤独は嫌だって言っていたから」
「確かにそうかもしれへん。式でおれば孤独にならんですんだのに」
「元々はどこぞの武将に飼われていたんだろ?」
武将…ってまさかあの歴史の授業とかに出てくる武将だろうか。
「なんでも戦国時代に物好きな武将がおってな。忍の部隊に妖を引き入れたんやて」
伊緒里が私にもわかるように説明を入れた。
「忍って、えっと、忍者の事ですか!?」
「そうだよ。でもやがてその妖達に怖れを抱くようになって屋敷の地下に閉じ込めてしまったんだ」
「それを助けたったんが榊河や」
けれど生き残ったのは夜稀一人だったのだという。
「ウチが初めて夜稀と会った時にはなんやニコリともせん可愛げのない奴やった。それがだんだん変わってきたんや、それやのに…」
なぜ榊河に反旗を翻したのか、そんな風に伊緒里は悔しさをにじませた。
蒼と伊緒里は同じ式神であった夜稀と戦うことをどんな風に感じているんだろう。
割り切ってしまえるものなのだろうか。
「同情はしてやる。だが僕はあいつを許すつもりはないからな」
うなるように低い叶斗の声だった。
「それはウチも一緒や。榊河の者も式の妖もようさん犠牲になったんや」
その中には叶斗の大切な人もいたのだろうか。
夜稀についてわかったことは戦国時代に忍者だった妖怪で、後の時代には化け物と捕らえられ、榊河家のご先祖様が助け出した。
そして今は何故か榊河に恨みを持っている。
どうにも想像力が追いつかない。
けれど夜稀もまた過去を持っている妖怪なのだということは理解できる。
もしかして式神達は何かしら悲しい過去を背負っているんじゃないだろうか。
蒼も夜稀も、もしかしたら伊緒里だって。
きっと割り切る事なんて無理だ。
仲間だった妖怪と戦うなんてつらいに決まってる。
だけど決意のようなものがみんなの言葉にはある。
向き合うしかないんだと私は感じていた。
読んでいただいてありがとうございます!
タイトルの割には内容が重いお話になりました。
蒼のことも夜稀のこともちょっとだけ明かすことができたので、物語は寄り道をしながらも進んで行く予定です。
お付き合いいただければ嬉しいです。




