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139.準備完了?

「ふふふふ……。完ぺきです。とうとう私は新魔法を会得しました。人類初の魔法を」


 後日ティル部を訪れると、簡易ベッドに横たわっているティライザがつぶやいていた。

 ぐったりとはしているが嬉しそうであった。疲れているだけであろう。

 そばにはアイリスとジェミーもいる。


「人類初じゃないんだよなあ……」


 俺はボソッとツッコむが、上機嫌のティライザには聞こえるわけがない。 


「歴代のダグザ法王が使えた魔法らしいしな」


 ジェミーが同意する。


「この理論はいくらでも応用が利きますね。次々新魔法のアイディアが浮かんできます。大魔導士への道が開けました」


 ベッドでうつ伏せで、顔だけをこちらを向いてブツブツと言っている姿は不気味である。 


「で、どうなんだ?」


 俺はオズワルド軍の動向をチェックしているが、どうも明日にも両軍が激突しそうである。

 これ以上は待てないので、無理なようなら次善策をとるしかなくなる。そう考えて部室を訪れたのだ。


「完ぺきだと言ったはずですが?」

「じゃあ早速――」

「この姿を見てわからないのですか? 今日はもう打ち止めです。もう指一本動かせません」 


 はやる俺をさえぎって答えるティライザ。


「口を動かすことはできるくせに」

「とにかく、明日の朝まで待ってください」


 気とかMPとかいうものは常時少しずつ回復はしている。

 しかしここまで消耗した状態から回復するには、一晩ぐっすり寝る必要があるだろう。

 俺はオートリフレシュがあって、常時ハイペースで回復するんだけどな。


 ここまでぐったりするほど体力を使い果たすというのは普通はやらない。

 それだけ中身の濃い修行になったのだろう。

 うら若き乙女をこの状態で一人放っておくのは危ない。だがアイリスとジェミーがいるから面倒は見るか。


「……何を見ているんです?」


 俺がティライザを見ながらそんなことを考えていると、こちらを半眼で見てくる。


「いや、普通に見ていただけだが」

「動けない私にいやらしいいたずらをしようと考えている眼でしたねっ」

「ぉ、ふぉgmkryんぐぁftjるwkみづr(訳:そ、そんなこと考えてるわけないだろ」

「動揺したということはそんなことを考えていたのですね……」


 アイリスが俺を(さげす)んだ目で見る。

 ちげーよ。

 いや、確かに似たようなことを考えていたけど、俺がするんじゃなくて暴漢に襲われたらどうしようもないなってことだ。


「ティル安心しな。アタシらが守るからよ」


 ジェミーがポキポキと拳を鳴らす。


「やはり私たちが家まで送り届けるべきですね。どこに野獣が潜んでいるかわかりませんし」


 普段であればティライザは暴漢に襲われようが問題なく撃退するだろうが、この状態で一人で夜道を歩くのは危ない。


「jばsもnそにqrご(訳:じゃあ明日の朝にやるぞ)」


 俺はそれを告げてそそくさと退散した。

 絶対に聞き取れてはいないだろうが、だいたいは伝わっているはずだ。






 翌朝部室に集合すると、ティライザは早速魔法を構築し始める。


「はああああっ」


 ティライザの手のひらに魔法陣が次々と積み重なっていき、一つの立体模様がキレイに出来上がる。

 これならば問題なく発動するであろう。


 魔法が発動し、アイリスが光に包まれる。

 光が消えたあと、アイリスが自分の体をきょろきょろと見た。


「ええと……。どこが変わったんでしょうか?」

「スティグマは常時発動しているわけではありません。聖なる気を当てるとそれに反応して浮き上がるそうです」


 そうは言っているティライザも若干緊張気味である。

 魔法が失敗していたらどうしようとか考えているんだろう。

 アイリスが自らに聖属性の気を当てると、右胸のあたりから光が放たれる。


「おおお、成功か?」


 ジェミーは声を上げるが、そのあたりはアイリスの服で(おお)い隠されていた。

 アイリスはいつもの戦闘時の衣装を着ていた。

 このあと戦場に転移する予定である以上、その衣装でいるのはある意味当然ではある。


 ただしアイリスの衣装は奥ゆかしい性格を反映しており、肌の露出は最小限であった。

 当然胸元や肩が露出しているわけもない。

 服の奥から光を発しているのは分かるが、正しい模様となっているかどうか確認せねばならないであろう。


「えっと、何か皆さんの視線が怖いのですが……」


 アイリスは俺たちの視線を受け、おののいている。

 ティライザは自分の魔法の結果が気になって仕方がない。

 ジェミーも好奇心から見たがっている。もともとせっかちな性格である。


 つまり、この場ですることはこれしかない。


「mmぃくぁkみgd、そvsくぐbdypろ?(訳:申し訳ないけど、その服脱いでくれる?)」


 うん。俺こんなセリフを真顔で冷静に言えるような男ではなかったわ。

 ブリジット教団の清楚(せいそ)な司祭様に、服脱いでと落ち着いて言えるわけないだろ!


「すいません。なにを言ってるかわからないのですが……」

「聞き取れなくても、なにを言ったかはだいたいわかるでしょう」

「その服さっさと脱げや」


 ティライザとジェミーがアイリスの服を脱がせていく。

 

「きゃあああああああああっ」 


 二人がかりで、しかも力の強いジェミーに抵抗できるわけもなく。

 上着がめくられ、普段は絶対に見えない肉感のあるお腹と胸の一部が見えた。


「ちょ、ちょっと待ってください何するんですか」

「だから魔法が成功したかの確認ですよ」


 ティライザは魔法がうまくいったのか気になって他のことには気が回らないようだ。

 

「時間がないんだからさっさとしようぜ」


 ジェミーも深く考えずにアイリスの上着を脱がそうとしていく。


「ちょ、あっ。わかりましたから! アシュタールさんは後ろを向いていてください!」


 アイリスに(にら)まれ、俺は回れ右をして何もない壁を見る。


「こ、これは!」

「これがステグマって奴なのか?」

「間違いないないです。文献と同じ紋様ですね」


 ティライザは声からも興奮しているのが分かる。


「じゃあもう振り返ってもいいかな?」

「まだです!」


 俺が問うと、アイリスが即座に否定する。

 魔法の目で見ようと思えば見れるんだけどな。


「おお? なんかこの模様熱いぞ」

「触ったらバレるようでは1000年も(だま)せませんからね。これは熱も発する幻影だそうです。光ってる間だけ熱を出すそうで」

「じゃあもうこの模様も現実にあるのと同じなんじゃねーの?」

「でも時間経過で消える魔法ですので」

「ほーなんかすごいんだな」


 ジェミーが感心している。


「こっちの方もすごい立派ですね」

「あっ。どこつかんでるんですか!」

「確かに立派なサイズだなあ。ティルにも分けてあげてほしいぜ」

「おのれ……」


 ティライザから恨めしい声が()れる。

 こいつらいったい何やってんだ。


 そんな話をしている間にアイリスははだけた服を正したようで、「もういいですよ」と声がかかった。


「じゃあうまくいったということで」

「は、はい」


 アイリスはまだ顔を赤くしているが、今度は緊張で硬くなっていた。


「じゃあよろしく頼むぜ、聖女様」

「ほ、ほんとにこれで聖女になっちゃうんですか?」


 アイリスはまだ戸惑っているようだ。


「そういうことになるな」

「こんなインチキみたいな手法で聖者になっちゃっていいんでしょうか……?

「昔の聖者も同じやり方でなってるわけだけど」

「そんな断言できますかね。本当は神の祝福があるのかもしれないじゃないですか」

「ここまではっきりした魔法がある以上、その可能性はほぼないでしょうね」


 ティライザが首を左右に振った。


「うう……。みんなをなんか(だま)しているようで納得できません」

「間違いなく(だま)してるけどな」


 ジェミーが身も(ふた)もないことを言う。


「ああああ。やっぱりこんなことはできません」

「じゃあさ。過去の聖者も皆詐欺師みたいな奴らだったというのか?」

「話を聞くに、皆立派な方たちでした」


 アイリスは俺の言葉を否定する。


「じゃあそれでいいんじゃないの。世間に公表できない裏話なんて世の中いっぱいあるだろ」


 ジェミーは軽い感じで話す。俺はそれに同意しつつ説得を続けた。


「ヴァルキュリウルを開催せずに人がたくさん死ぬ。そっちの方がいいと思うのか?」

「いいえ。戦争を回避できるならばするべきです」

「これが最善の策だ」

「分かりました……。まだ納得はできないですけど、戦争を回避する役目は引き受けたいと思います」


 ようやくアイリスが聖女役を受け入れてくれた。


「あとは服装だな……」


 アイリスは戦闘衣装で来たが、聖痕(せいこん)を見せずして戦場にいる奴らが納得するはずもない。

 この衣装では脱ぐのが大変だし、聖痕(せいこん)の部分だけうまく見せることができないのでダメである。


「それは用意してあります」


 ティライザが淡々と告げた。服が入った袋をアイリスに手渡す。


「アイリスが胸元や肩を露出させる服を用意しているとは思えませんでしたしね」


 ジェミーがそんな気が利くわけもなく、ティライザの役目となったわけだ。

 ティライザは意外とファッションにもうるさい。

 賢者として幅の広い知識を得る対象として、ファッションも含まれているということだ。

 ユーフィリアもおしゃれには気を使うタイプだが、今はいないしな。

 今頃奇襲をかけるために隠れているだろう。


「神杖レーヴァテインもここにある。準備は整ったな」


 俺の言葉に皆が(うなず)く。


 まだ戦闘は始まっていない。今すぐ転移をすれば余裕で間に合う。

 もちろんシュズベリー上空には一度行ったことがある。

 そこに転移できるフラグを立てていませんでした、なんていう間の抜けたことがありえるわけがない。


 アイリスは俺が見えないところで着替えてきた。

 オフショルダーの服を着て恥ずかしそうにしている。

 仕方なくフードを被せて、ギリギリまで隠すことにした。


「これでヴァルキュリウルに必要なものはそろっ――た?」


 俺は首を(かし)げた。


「ヴァルキュリウルに必要なもの。聖痕(スティグマ)を持つ聖者、神杖レーヴァテイン、そしてダグザ教法王です」

「ダグザ教法王の支持は得られるって言ってましたよね?」


 俺は説明をしたティライザ、確認してくるアイリス、よく分からない顔をしているジェミーを見る。

 彼女らの真剣な目から目をそらしつつ、ポツリとつぶやいた。


「法王に根回ししとくの忘れてたわ」

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