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134.邪神が裏で動いていたようです①

 まだ騒動の余韻は収まっていないが、ひとまずヴァルキュリウル開催が決まった。

 話しかけるタイミングを見計らっていたのだろう。

 ユーフィリアが俺たちに駆け寄ってくる。


「いったい何がどうなっているの?」


 ユーフィリアは目を輝かせていた。

 一方アイリスはユーフィリアから目をそらす。


「あわわわわ……。ええとですね、これにはいろいろ事情がありまして」


 ユーフィリアは何やら様子がおかしいアイリスを見て不思議がる。

 聖女を演じるということに慣れていないのもあるが、本人もまだ整理できていないのであろう。


「と、とにかく詳しい話はこちらで」


 アイリスがユーフィリアの手を取って転移していった。

 ここでするような話ではない。

 行先はわかっている。俺は法王に挨拶をしてそこに転移した。


 転移先はいつもの部室である。


「おかえりなさい」


 ティライザがのんきにお茶をすすりながら挨拶をする。

 ただ、よく見ると疲れていることが分かるであろう。


「どうやらうまくいったみたいだな」


 ジェミーがほっとしている。


「……どういうこと?」


 ユーフィリアは状況がつかめず途方に暮れていた。


「こういうわけのわからないことをしでかすのは、だいたいあの人に決まってるじゃないですか」


 ティライザが俺を指さした。


「失礼な奴だな」

「ええと……、またアシュタールがどうにかしてくれたの?」

「ヴァルキュリウルを開催するために杖を探しておくって言ったろ」

「探しとくで見つかるものじゃないわよ……。伝説の神器の一つなのに」

「見つかるときは見つかるもんさ」


 俺の言葉を聞いてもユーフィリアは納得しない。

 首を傾げつつつぶやく。


「いったいどこで……」

「実家にあったわ」

「どんな実家よっ」

「その反応ジェミーそっくりですよ」


 ティライザがツッコむ。


「ガーン」

「おいちょっと待て。アタシと同じリアクションしたのがショック受けることか?」


 ジェミーが不服そうに問い詰める。


「私ならショック受けますね。同レベルの反応をしてしまったことに」

「ティルはそうかもな」


 ティライザとジェミーがいつものように会話しているうちに、ユーフィリアは気を取り直す。


「それと、アイリスが聖女になったってどういうことなの? あっ。もうこんな気軽に話しかけちゃダメかな? 世界に一人だけの聖女様だもんね」

「こ、困ります。いつも通りにしてください」


 アイリスはうろたえて困惑している。


「そんなことを言ったら、魔王を倒した勇者様に話しかけるのも恐れ多いんじゃね。しかも大国のお姫様だぜ」

「そうね……。そんなこと気にしてたら一緒にやっていけないわね」


 ジェミーの答えにユーフィリアが納得する。


「アイリスが挙動不審なのは違う理由ですけどね」


 ティライザがくすくすと笑っている。

 またもユーフィリアは理解できずキョトンとした。

 そして質問を続ける。


「聖女ってどうやってなるのかな。神様に会ったとか?」

「ああ……。いえ、そういうことはないというか、なんというか……」


 ユーフィリアにあれこれ問われると、アイリスがしどろもどろになる。


「アイリスも説明に困っているようですし、諸悪の根源さん説明してください」

「誰が諸悪の根源だ」


 ティライザにツッコみつつも、俺は王城でアイザックと会談した日からのことを説明していくことにした。






 アイザックと会談をした日。

 その会談が終わり、俺は暗黒神殿へと戻った。

 爺や以下、いつもの軍団長らが待っていた。


「おかえりなさいませ」


 アドリゴリが律義に一礼をする。

 俺はアドリゴリに手を上げて応えると、爺やに向き直った。

 爺やはボロボロの棒を持っていた。


 本当におじいちゃんなら杖代わりに使っているというのもありうる。

 しかし爺やと呼んではいるが見た目は20代のイケメンであり、杖をつく必要などないのでありえないが。


「爺よ。一つ尋ねたいんだが」

「はい」

「神器の一つ、神杖レーヴァテインはどこにいったっけか」

「ここにあります」

「ファッ!?」


 どうやって探すかと悩んでいたのだが、想定外のことを言われて驚くしかない。


「どこにあるんだ? 宝物庫か?」

「いえ、これですけど」


 爺やはぼろぼろになった棒のようなものを俺に見せつける。


「神杖……?」


 詳しい形状など覚えてないが、立派な装飾の施された神々しい杖だったはずなんだが。


「第六魔災の時のことです。人類は魔王城での戦いに敗れ、神器のほとんどを敵に奪われました」

「レーヴァテインもその一つだな。だが魔王城攻略時にはそれだけがなかったそうだが」


 先ほどの会談での話を説明する。


「それがなんでここにあって、しかもそんな風にぶっ壊れてるんだ?」

「レーヴァテインは当時の魔王がいたく気に入ったようで、魔王が持ち歩いていたのです」

「えっ。それって……」


 俺は顔をひくつかせる。


「はい。第六魔災の魔王は極大破滅魔法カタストロフィーで滅びました。当然レーヴァテインもカタストロフィーが直撃しております」

「その結果がこれか……」


 俺は爺やに近づいていき、レーヴァテインだったものを手に取る。

 さすがに太古より伝えられし神器とはいえ、俺のカタストロフィーには耐え切れなかったらしい。


「何の魔力も感じられないな」

「その武器に付随していた付与魔法、強化魔法もすべて消え去ったようです。申し訳ありません」


 爺やが頭を下げた。


「ん? なぜ爺やが謝るのだ」


 俺は小首をかしげた。

 俺の魔法で壊れてしまったのであれば事故としか言いようがない。


「第六魔災の解決は私の担当です」

「それはそうだが……」

「レーヴァテインがかの魔王の手にあるのは知っていました。カタストロフィー発動の前に回収しようと色々動いていたのですが、ミスがありました」


 爺やがミスをするというのは珍しいことだが、武器が1つ壊れた程度どうということはない。


「人の世に出て力を隠し、人を導く。これはなかなか難しいものがあります」


 アドリゴリが実感のこもった声で語る。


「人は我らの予想外の動き、反応を見せます。多少のイレギュラーはありますな」


 ジェコが珍しくアドリゴリに同意する。


「お前らのミスはそういうレベルじゃないけどな」


 俺が二人にツッコむと、二人の表情が固まる。

 俺の指示を無視して勝手に動き回って暴れ、結果歴史上の偉人として名が残った。

 そもそもミスじゃないしな。暴走だ。


「な、何のことでしょうか……」

「き、記憶にございません」


 わかりやすい奴らだな。

 物覚えの悪いジェコでも絶対覚えていることは明白であった。


「忘れたんならまた第四魔災の反省会すりゅ?」


 反省会=お仕置きではあるのだが。

 俺の言葉にジェコが慌てて訂正した。


「も、もちろん覚えておりますとも」


 こいつらのことはほっとくとして、俺は話を本題に戻す。


「で、これは治せるのか?」


 俺の問いに爺やは首を左右に振った。


「全く同じ性能にするのは無理ですね。この手の神器は我々にも解析できない特殊な力があったようです。それは回復できないでしょう」

「でもそれが何なのか、いまだにわかってないからな」

「はい。それでも外見を似せて付与魔術で強化すれば、人間には違いは判らないでしょう」

「じゃあそこまでボロボロになった棒をわざわざ使う必要あるかな。一から別の杖として作ってもいいんじゃないか」

「さてどうでしょう。何があるかわかりませんし、一応修理という形にした方がいいかと」


 隠された力が実は生きているという可能性もある。

 俺は爺やの意見に従うことにした。

 形状は爺やが覚えていたので、手伝ってもらうことにする。

 俺は細かいところまで覚えてなんていない。


「あとは聖痕(スティグマ)ですか」

「会談を見ていたのか?」


 俺は当然のように聖痕(スティグマ)の話に入る爺やを見つめる。


「いえ。ただアシュタール様がレーヴァテインに興味を示すのはそれくらいしかないと思いまして」

「ふん……。まあどっちでもいいが」


 爺やはこういう時は本気で言っているのか、とぼけているのかわからないからな。


「すてぃぐまとはどんな動物ですかな」

「クマの一種じゃねーよ。せいこんな。聖なる傷のことだ」


 俺はジェコにツッコむ。

 ついでにヴァルキュリウルの説明もした。


「ほう……。その試合は面白そうですな」

「興味を持つのはかまわんが、用務員がそんな大会に出るのはあり得ないから」

「ともかく、聖痕(スティグマ)の件も解決しましょう」


 爺やの提案にジェコが首を(かし)げた。 


「太古の神に祝福されると付く傷なんでしょう? 我々にどうにかできることなのですか」

「お前そのダグザとか、ブリジットとかいう神様見たことあるのか?」

「ありません。そもそも実在するんですか」


 俺の問いにジェコが即答する。


「神というのは1000年生きた我々ですら確認できていない。だが本当に聖痕(スティグマ)が神の奇跡で起きているのなら、神は実在すると我々も判断するさ」


 アドリゴリがジェコに解説した。


「つまり神の祝福、奇跡など存在しないと?」

「そういうことになるな」

「とするとすてぃぐまとやらは何なんです?」

「魔法。俺が開発した」


 ジェコの疑問に俺が答えた。


「おお、さすがはアシュタール様です」


 ジェコはその直後にハッとする。


「でもそれってインチキなんじゃ……」

「宗教行事なんてそんなもんだ」


 まだ論理的な判断ができない時代の人間というのは、占いだ祈祷(きとう)だといった手段で物事を決定したりするものだ。

 宗教の影響力が強いと言える。


 そういう時代において統治がやりやすいように、一つ手を貸しただけのことである。

 光り輝く傷が特定条件下で浮かび上がるようになる魔法を開発したのだ。


 神に祝福されし聖者という存在がいるといろいろやりやすい。

 神秘的事象を起こすことで人々は崇拝することになるのだ。


「じゃあなんでその制度が今止まっちゃってるんです?」

「こんな情報を知っているのは世界で一握りというか、聖者本人とダグザ教法王だけ」

「第六魔災時、その二人が同時に戦死してますからね」


 爺やが補足説明をする。

 50年前、人類が魔王城に突入したあの日、聖者の仕組みが失伝したのである。


「こういう宗教的儀式は古代においては重要だが、最近はそうでもないからな。なくなったらなくなったでいいかと今まで放置してたんだ」

「なるほど」

「そういうわけで制度を復活させるにしても、どうやるかな」


 俺はうむむと(うな)る。


「昔はどうやったんです?」

「ときの法王にバインドの魔法をかけ動けなくして、枕もとでささやきました」


 ジェコの疑問に答えたのは爺やである。


「邪気もちょっと放出して、恐ろしい人物のような演出も効果的だったな」


 俺は当時外に出ることが許されていなかったので、やったのも当然爺やである。


「神の御使いであると認識されたようでして、その法王はまた現れてほしいと日頃から祈るようになりました」

「ときの法王は女性だったな。声だけで虜にするイケメンボイス恐ろしい」

「大したことではございません」


 爺やはこともなさげに語る。

 まあその法王の願いはかなわなかったんだけどな。

 用もないのに何度も会っても仕方がないし。


「今回はいかがいたしましょうか?」

「前回と同じというのは芸がないし、そもそも今どきの人間はそんなことをしても信じてくれなそうだな」

「人間も技術や知識が進歩するにつれ、信心深くない者が多くなっておりますゆえ」

「じゃあもう適当にやっちゃうわ」

「ご随意(ずいい)に」


 爺や以下、皆異論はないと頭を下げた。

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