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123.新生ハミルトン要塞

 最悪期は脱し、とりあえず問題なく動けるようにはなった。

 だが、なぜか俺は今もベッドにいる。


「はい。あ~ん」


 ユーフィリアがスプーンを俺の口に近付けてくる。

 俺はそれを口に入れる。


「どう? と言っても私が作ったわけじゃないけど」


 ユーフィリアの料理は言うまでもなく封印。

 呪われた状態で食べたらさすがに俺の命が危うい。

 病人向けの料理を作れるという名目で、アイリスが料理をすることになっていた。

 料理そのものはいたって普通で、何が病人向けなのかはわからない。


「ああ、おいしいよ」


 俺が答えると、ユーフィリアが笑顔になった。


「熱も下がり、顔色も良くなってきてますね」


 ティライザが俺の顔を見る。


「どれどれ」


 ユーフィリアが自分の額を俺の額にあててくる。


「くぁwbちぅsvじgいdskね(訳:顔が近すぎじゃないですかね)」


 さすがの俺も動揺して、言葉がおかしくなる。

 背後にいたティライザがユーフィリアの肩をつかみ、俺から引き離した。


「あ、ちょっとまだ熱測れてないわよ」


 ユーフィリアが苦情を言う。


「寝ている間はそういう行為は禁止のはずですが」


 ティライザは非難の目線を平然と受け止めた。


「休戦協定中ですよ」


 アイリスが同意する。

 よくわからないが、まあ俺を動揺させるのは禁止ということだろう。

 俺も呪いを受けている最中に、そういう試練を受けるのはちょっときついのでありがたい。


「まあまあ。最近のアシュタールなら今のくらい耐えれるはずだろ。やっぱ弱ってると違うんだな」 


 ジェミーが仲裁する。


 一人だけで来る日もあれば、みんなそろってくる日もある。

 4人が来る日はこんな風に騒がしい。

 

 正直もう動けるようになっているんだが、こんな生活を続けるのも悪くないと思っていた。

 まあ、さすがに動き始めるんですけどね。






 彼女らが帰った後、俺は暗黒神殿に転移する。


「アシュタール様。もうよろしいのですか?」


 アドリゴリが近づいてきて片膝をついた。


「うむ。普通に活動する分には支障はない」

「思ったより軽い症状だったようですな」


 ガレスが意外そうな顔をしている。


「このあたりの法則性も気になるところだが、何度も試すわけにもいかないからなあ」


 呪いを受けるか受けないかのギリギリのラインを攻める気にはならない。

 今回は油断してしまった。

 反省している。


「俺が寝込んでいる間に何かあったか?」

「地上では特に何も起きていません。世はなべて事もなしです」


 ジェコが告げる。


「一つだけ。新生ハミルトン要塞が完成しました」

「ほう、思ったより早いな」


 アドリゴリの話に俺は少し驚く。


「イスティム殿の建築技術はますます磨きがかかっているようです」

「基本使い道がない技術だが」


 俺たちが城やら要塞だやらを作る機会なんて滅多にない。

 今回は珍しいケースで、本人もやる気満々だった。


「それで、完成検査をアシュタール様にお願いしたいと」


 それを聞き、俺はハミルトン要塞に転移した。






 転移すると、目の前には巨大な漆黒の建物があった。

 上部はドーム状になっていた。

 

「この天井は開閉式となっているらしいです」


 アドリゴリが見上げている。

 高さ10メートルほどの防壁があり、その端からドーム状の屋根が伸びている。

 東西南北の防壁にそれぞれ大きな門がついていた。


 門の上には見張りがいて、俺を見るなり敬礼して中に入っていった。

 ほどなくイスティムが転移でやってくる。


「アシュタール様。お待ちしておりました」


 イスティムが一礼をする。


「外観が真っ黒なのはどうなんだ」

「ダークスチールで覆っておりますれば。塗装は自分たちでやってもらうとしましょう」

「なんだ。オリハルコンじゃないのか」


 ジェコがつまらなそうに言う。


「この巨大な要塞の外部を覆うほどのオリハルコンはありません。大量に用意できたダークスチールにさせていただきました」

「オリハルコンなんぞで覆ったら、もう魔災級魔王でも壊せないだろ」


 俺がツッコム。


「そう言われてみればそうですな」

「ふふふ……このダークスチールもなめないでいただきたい。これもそうそう壊せませんぞ」


 イスティムが自信満々に言う。

 邪神族の強力な防御魔法が付与されているのだ。

 人間や魔族にはそう易々と壊されないようにはなっている。 


「ほう、試してみても?」


 ジェコが触発される。


「さすがに軍団長の攻撃には耐えれんよ」


 イスティムが苦笑する。


「手加減はするさ」


 そのまま漆黒の防壁の前に立つ。


「はあっ!」


 ジェコが殴る。


「いたああああああっ!」


 ジェコが拳を押さえてとび跳ねた。


「邪気なし、武器なしじゃ無理だろう」


 アドリゴリが呆れている。


「おのれえええええ!」


 ジェコは指輪をはずし、邪気を解き放つ。

 そして再度壁を殴る。

 ベキッという音とともに、壁に巨大なヒビが入る。


「ああ、ここ補修しなければ……」


 イスティムがため息をつく。


「ふん。この程度か」


 ジェコが満足げにしている。


「我らに壊せないような防御壁なんてそう作れるわけがない」

「別に全力を出したわけではないぞ」

「はいはい」


 アドリゴリはジェコを適当にあしらう。


「で、完成検査だったな」

「はい」


 俺の言葉にイスティムが(うなづ)いた。


「ここが壊れてるので失格」

「ノオオオォッ!」


 イスティムの叫び声がこだまするのであった。

 もう1回来るのが面倒だから、内部のチェックもしたけどな。


 内部への転移を封じる結界も張られている。

 迷路のような構造になっていて、門を破られてもしばらく持ちこたえられるようになっている。

 その他いくつか変わった仕組みがあったが、問題ない出来であった。

 壁の補修が終わったらスコットヤード王国に引き渡されるであろう。


 俺はしばらく要塞を見てから帰った。

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