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121.アウトとセーフの境目

「で、これは何だ」


 しばらく経って心が落ち着いてから、俺はアドリゴリらを呼びつける。


「以前も話したと思いますが、布教活動です」


 アドリゴリは近くに来て片膝をつこうとしたが、俺はそれを制止した。

 声が聞こえる距離にはいないが、教会には100を越える人がいる。

 それを人に見られたら不審に思われる。

 アドリゴリも理解してあわてて直立した。


「アシュタール様を(あが)(たてまつ)る宗教を創設しました」

「その場合、アシュタール教となるんじゃないのか」

「そのようにしてしまうと、アシュタール様の日ごろの活動がやりにくくなってしまいます」

「まあ、そうだな」


 新興の小規模宗教とはいえ、信仰の対象になるとかちょっと胡散臭(うさんくさ)い。


「それゆえ、教祖の名前を使うことにしました」

「教祖?」


 教祖とは宗教を開いた人、創始者のことである。

 開祖と言うこともある。


「ジャスティン教祖です」

「だから誰なんだよ」


 俺のツッコミには答えず、アドリゴリは話を続けた。


「ジャスティンなる人物が教祖になることで、ジャスティン教となりました」


 宗教の名前の付け方はいろいろある。

 民族名がそのままだったり、教祖の名前からとったり。

 この世界では神の名前をそのまま使うのが主流となっている。


「くくく……。人は知らぬ間に邪神を崇めておるのです。自分で邪神! 邪神! と叫んでますし」


 ガレスが怪しい笑みを浮かべた。


「いや、彼らはジャスティンって言ってるつもりだからね?」

「実質的には同じことです」


 ガレスが平然と答える。

 本人が満足してるならそれでいいか。


 それにしても、年老いたおじいさんから小さな男の子まで。

 老若男(ろうにゃくなん)……色々いるな。

 でも、でもあの人たちがいないんだわ。


「男しかいなくね?」


 100名を越える信徒が集まっているのに全員が男性である。


「そ、そういう日もあります」


 アドリゴリが汗をかきつつ答える。


「じゃあ聞いておくが、女性信者は何人いるんだ」


 俺の質問に皆がうつむく。


「い、いません……」


 ガレスが声を振り絞るように答えた。


「いや、宗教の勧誘くらいなら女性でも声掛けられるだろ……」

「そう思っていたのですが、想像以上に難易度が高かったのです」

「ナンパするより難易度低いんじゃね」


 アドリゴリはナンパ経験がある。

 どうしてこうなった。


「ナンパは指南書が売ってましたが、宗教勧誘の指南書はなかったので」


 女が絡むとなぜかマニュアルなしでは動けなくなるアドリゴリ。


「別になくたって同じように勧誘するだけだろ」

「断られたらショックを受けてしまいます」

「そのショックはナンパの方が大きくない?」


 声掛けても無視されたり、冷たくあしらわれたり。

 結構精神的にダメージがあった。


「ナンパは断られて当然。あきらめない強い心を持つことが大事と指南書にあります」

「じゃあその心を宗教勧誘でも持てよ!」

「それは無理です」


 アドリゴリがきっぱりと告げる。


「この場合、否定されてるのがアシュタール様とジャスティン教ですからな。我々には許せません」


 ガレスが同意する。


「そんな女ぶち殺してしまった方がいいのではないか。そう考えてしまいます」


 アドリゴリのこういうときの発想はジェコと同じなんだよなあ。

 普段反目し合ってるのは同族嫌悪というやつである。


 別に女性信者がいなくても誰も困らない。

 だからそれはいいとして……。

 俺は数人の信者を見る。


「あのピチピチのタンクトップ姿の男なんだけどさ」


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)で短髪髭面。

 俺はどう見てもあっち系の数人を指さす。


「ガレス殿が勧誘した方々ですな」


 アドリゴリが答えた。


「またお前か……。あれは破門ね」

「なっ。なぜです?」


 ガレスが呆然(ぼうぜん)としている。


「以前にも言った禁忌(きんき)ってやつだ。男絶対にダメ」

「よくわかりませんが、主命とあらばいたし方ありますまい……」


 ガレスはうなだれる。

 これで懸案事項は取り除かれた。


「で、こんなことをやって呪われた奴はいないの?」


 ある意味本題である。

 邪神族や暗黒神殿のことを広めたり、宣伝したりすることは禁止。

 俺が元いた世界の神より言われたことである。


「居ません」


 アドリゴリが即答した。


「マジかよ」


 意外とガバガバなルールなんだな。

 まあ人に邪神という存在が認知されたわけじゃないからセーフなのか。


「我々は普段抑圧されています」

「抑圧されてるか?」


 俺は首をかしげる。

 普段から好き放題やっているように思えるが。


「コソコソ生きなければならないのは少なからずストレスとなります。ここでジャスティンと叫ぶことでストレス解消しているのです」

「それで解消できるのならめでたいことだな」

「アシュタール様も叫んでみてはいかがですかな?」


 アドリゴリの提案を受けて俺は腕を組んで考える。

 まあ1回くらいならやってみてもいいだろう。


 ちょうどまたジャスティンコールが巻き起こるところであった。

 俺はスゥッと息を吸い、信者たちと息を合わせて大声で叫ぶ。


「ジャスティン! ジャスティン! ジャスティン!」


 これもう実質人前で邪神って言っているようなもんだな。


 でも許される。

 案外楽しい。

 やってはいけないことを堂々とやっている背徳感がある。


 神にこの世界に邪神という存在を知らしめろともいわれている。

 暗黒神殿に来た者を追い返して、恐怖を広めることによってだが。

 

 このまま邪神教を広めることで達成ってことでいいですか?

 俺は神にそんな風に問いかける。

 まあ神はこの世界には干渉できないし、普段見守ることもないと言っていた。

 だから返事が来ることもない。


 ただ念のため制約、呪いをかけておくとの説明だった。

 過去一度呪いが発動したことがあったが、俺が外で活動しても現状何も起きてはいない。

 かけた呪いは1回限りなのかもしれない。

 自分が思っていたより、現在の制約は緩いのかも。


 俺はそんな風に考えていた。


「邪神! 邪神! 邪神!」


 俺は気がつくと、どう聞いても邪神と言い切っていた。

 ジャスティンじゃない。

 邪神と。

 この場の雰囲気にあてられて、ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。


 でも何も起きない。

 どうやらこれもセーフだったらしい。


「邪神! 邪神! ぐわああああああああぁぁっ!」


 しかし、いきなり激しい痛み苦しみに襲われる。

 やっぱりだめってことですか。

 超えちゃいけないラインは確かに存在したのだ。


 こうして俺は800年ぶりに呪われてしまったのである。

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