116.遺跡調査
ノーストウェー群島での調査は順調に進んでいた。
調査というよりも、機甲種の制御がメインではあるのだが。
その遺跡の制御室とお思しき場所にヴィンゼントは座っていた。
頭には光り輝くサークレットが取り付けられている。
「すばらしい。これだけの兵をわが意のままに操れるのか」
ヴィンゼントはご満悦である。
目の前の画面には外の様子が映し出されていた。
サイトビジョンという魔法の効果がある装置とのことだ。
「そのサークレットをつけた上で念じれば、機甲種に伝わります。ただし、距離の制限はあるようです」
ネヴィルが解説をする。
「ここにはいったいどれほどの兵がいるのか」
「さあ……。何十万と見つかってはいますが、動かなくなっているものもあるようです」
「しかしこれだけの力をよく他者に渡す気になったな」
ヴィンゼントが訝しむ。
「我らが独占できるのであれば、おそらくそうしたでしょう」
ネヴィルは正直に答えた。
隠す必要もないことであった。
「確かに、この遺跡を調べるのは簡単なことではないな」
スコットヤードが資金と人材を投入したからこそ、これほど調査が進んだのである。
ヴィンゼントはそのためにスコットヤードを頼ったのだろうと推測した。
「その理由も確かにありますが、それは時間が解決することですれば」
しかしネヴィルは首を左右に振った。
「我らは致命的な問題を抱えていました。残念ながら我らがそのサークレットをつけても、装置が作動しないのです」
ネヴィルには何体かの仲間がいることをヴィンゼントは知っていた。
彼らは皆ネヴィルと同様に全身を隠している。
「なぜだ?」
ヴィンゼントに問われても、ネヴィルは苦笑するしかない。
もっとも、仮面をしているためヴィンゼントにはわからないであろう。
「我には分かりかねます。ウルグ帝国の魔科学の解明は至難。我らにできるのはただ使うことのみ。それもできる者とできない者がいるのです」
「ふーむ」
「これも一種の才能でしょう」
「やはり私は選ばれたものということだ」
ヴィンゼントは1人得心している。
「我らは約束さえ守ってもらえればそれで十分」
「この機甲種を使ってクリスタルタワーを攻略したい、というのだったな」
ヴィンゼントが思い出すように話す。
「はい」
「たしかに我々にとっては謎の施設ではある。しかしそんなに入れ込むのはなにゆえかな?」
「世界の真実に興味があります」
「真実ねえ……」
ヴィンゼントはあごに手を当てて考える。
「これほどの技術を持った文明が何故滅びたのか。何に敗れたのか。興味はありませんか?」
「そう言われれば興味はわかなくもない。しかし、労力に見合うとは思えんな」
ヴィンゼントはつまらなそうに吐き捨てた。
ヴィンゼントにとってはそれより大事なことがあった。
「この力があれば可能でしょう」
「しかし、この機甲種どもはあそこにいる敵と戦おうとするのかな?」
機甲種同士では戦わないようにプログラム制御がされていたら、攻略は不可能である。
「ウルグ帝国とて反乱や抗争はあったでしょう。機甲種同士で戦わないなどというルールがあったら、そういう時に困る」
ネヴィルの説明はまるで当時を見たかのようだと、ヴィンゼントは感じた。
「まあよかろう。しかし、あの者たちを倒した後でな。現状の戦力で勝てるか?」
「敵の戦力がわからない以上、しかとは答えかねます」
「ふん……」
ヴィンゼントは鼻をならす。
この勝負に失敗は許されない。
いつもより慎重にもなろうというものだ。
そんな会話をしながらも、ヴィンゼントは機甲種たちを操っていた。
空を飛べるタイプのものを海上で動かしていたのである。
「こんなもんか」
ヴィンゼントは帰還命令を出す。
そして格納が終わると、全体に停止命令を出した。
ヴィンゼントのそばにも護衛の機甲種がいたが、それの機能も停止した。
稼働を示すランプが消滅する。
「しまったな。こういう命令を分けられないのは不便だ」
ヴィンゼントが頭をかく。
まあ、この施設内で自分を害しようとする者など出るはずもない。
このままここに放置しておいても問題はないだろう。
そんなことを考えていると、いきなりその機甲種が再起動した。
「なに? 私は何も指示を出していないぞ」
ヴィンゼントが警戒する。
いきなり自分に襲いかかってくるのかと身構えた。
しかし、その兵はネヴィルに襲いかかっていった。
ネヴィルはつまらなそうに機甲種の頭をつかむと、そのまま握りつぶす。
「我はこの機械どもに嫌われているようでしてな。たまにこういうことが起こります」
ネヴィルは静かな口調で告げた。
別に大したことではないという風に。
「そ、そういうことは早く言ってもらわないと困るな。不良品が多いということか?」
「現状我ら以外に襲いかかった例はありません。ヴィンゼント殿は安全です」
ならばなぜ貴様らは襲われるのだ?
ヴィンゼントは気になったが、それを問うことは憚られた。
そうしているうちに、ネヴィルは話は終わりとばかりに部屋を出て行った。
言葉づかいとは裏腹に、まったく自分を敬っていない態度にヴィンゼントは舌打ちしたのであった。




