115.暗黒神殿の食糧事情
うーん。
何もしたくない。
働きたくないでござる。
いや、元々働いてなんていないけど。
パンケーキ怖い。パスタ怖い。
肉体にはダメージはないが、精神がゴリゴリ削られた。
学園祭翌日は当然お休み。
けどこれ数日は尾を引きそうだな。
ベッドでゴロゴロとしていても仕方がない。
俺は起き上がって暗黒神殿をうろつく。
暗黒神殿。
亜空間にある巨大な施設。
この世界はいくつもの亜空間が存在する。
亜空間の大きさは様々。
暗黒神殿があるこの亜空間は大きいほうであろう。
なぜか光が差し込むし、夜にもなる。
こういった空間はいったいなんだと問われてもわからないが、魔法によって一時的に作ることは可能である。
もっとも、どうやって永続化しているかは謎。
神話時代の超技術は我々にもわからないことが多い。
正式にここに来るには、魔王がいない間のみ出現する洞窟を進んで、転移門をくぐる必要がある。
転移門と名付けてはいるが、実際は門に限らない。
扉、洞窟の出口、階段を上りきった先などなど。
転移する以上、前と後がどう変化してもおかしくはない。
昼から夜に、真夏から真冬にといったことも起こる。
1回来てしまえば転移で移動できるのだが、その転移術もノーマルではだめである。
亜空間をまたぐ転移は上級の転移術が必要。
人間には現状使えない。
教えたら使えるようになるかはわからない。
暗黒神殿の天気は曇りがちである。
無駄に雷も鳴る。
毎日のように。
なんかこう、暗く邪悪な雰囲気がにじみ出ている。
一方我々も食事を必要としている。
しばらく食べなくても平気だし、ガンガン食いまくっても太ったりはしない。
ただ食いすぎると無駄にたぎるので、運動などで発散する必要はある。
暗黒神殿付近は天気が悪いので、少し離れたところに大規模農場がある。
天気がよくないと作物が育ちにくいからな。
米、麦は言うまでもなく、各種野菜の栽培。
さらに畜産も営んでいた。
15000体の食料としては十分すぎる広さ。
かなり余分に生産していた。
俺はなんとなくその農場に転移する。
「これはこれはアシュタール様。ようこそおいでくださいました」
農業担当の第十五軍団長ファムレが頭を下げた。
見た目はのんびりとしたおじいちゃんである。
邪神族は一定程度年をとると生まれ変わる。
ファムレはそろそろ生まれ変わる時期なのかもしれない。
「相変わらず精が出るな」
「食糧確保は防衛の基本ですからな」
ファムレはよっこいしょと言いながら大地に座る。
見た目は年老いているが、別にステータスの数値が下がっているわけではない。
軍団長である以上、もちろん強いわけで。
そんなセリフを言って緩慢に動く必要もないはずだが。
しかし実際に老人になってみると、なんとなく言いたくなってしまうらしい。
ずっと同じ体を維持する俺にはわからない。
「防衛ねえ……」
俺は首をかしげた。
そもそも誰も来ない施設である。
何から何を守るというのか。
「たとえば洞窟の外に数十万の敵が集結し、我々はここに篭城することになったとしましょう」
「ほうほう」
俺は興味深げに聞く。
「外に出るのは無謀。ならば洞窟に罠と兵を配置し、ゲリラ戦を展開します。その際に必要なのは食料ですな。そのために長期間篭れるだけの食料を作る必要があります」
「それでも作りすぎな気がするが」
「一部はバレないように人間に販売しています」
最近は人間のお金を使うようになった。
何らかの補充が必要なのは間違いない。
余ったらみんなでガッツリ食えばいい。
今俺は食欲がないが。
まじめに鍛錬すれば、その分たくさん食べることになる。
そのあたりは人間と変わりはない。
スポーツ選手は一般人の何倍も食うこともある。
「エウリアス様からの強い指示でありますれば」
「ああ。爺やは食料にはうるさかったな」
何事も完璧にこなす爺やだが、この件には強いこだわりがあるようだ。
「先日クリスタルタワーなる建物に行ったそうで」
「ああ」
俺は短い返事をする。
古代ウルグ帝国の兵――機甲種。
そして謎の竜族。我々は魔竜種と名づけた。
魔族の気配と類似点を見出したからだ。
「何か思うところがあったのでしょう。その後、備蓄の再確認をされました」
「ふむ」
俺は少し思案する。
あの施設がなんなのか。
なぜ存在しているのかがわからない以上、突如兵が外に出てくることもありうる。
数千年なかったのに、いきなりそんなことが起こるわけがない。
普通はそう考えてもいいだろう。
しかし俺だって先日1000年の呪縛から解き放たれたわけで。
いつかそんな日もあるかもしれない。
まあ、そのあたりのことは爺やに任せてある。
俺はその辺に横になり、日光浴をするのであった。




