113.学園祭④
第四魔災は400~500年前の出来事である。
ゆえに人間であれば、現在生き残っているわけがない。
――竜族。
人よりも圧倒的な巨体、高い戦闘能力、長い寿命といったものを持つ種族である。
ただし、その個体数は人間に比べて増えにくい。
元々そんなに多かったわけではないが、第四魔災時に激減した。
一時は100体をきったという話である。
その生き残りの一人が竜の姫ソフィアである。
第四魔災の魔族への強い復讐心をもち、人類と共に魔族へ反逆した。
そしてのちに7英雄――セブンスターズと称される者の一人となった。
竜族は人型になることも可能である。
その姿はずっと変わらない。
ゆえに子供のような姿が維持されることもある。
いわゆるロリババアというやつである。
セブンスターズであることを知ったフィオナは慌てて方膝をつき、敬意を示した。
セリーナ、オーレッタ、爺やもそれぞれ頭を下げたりする。
「それで、何ゆえローダンまでお越しに?」
セリーナが問う。
普段はブリトリア大陸東部の高山地帯を根城にしていて、人と関わることはほとんどない。
国というには規模が小さいが、皆で助け合って生きているらしい。
人間とは協定を結んでいて、お互い不可侵を確約しあっていた。
数が少なすぎるゆえ、魔王と共に戦うことを定めたマグナ・カルタ大憲章の規定外。
毎回魔族と戦わねばならないという義務はない。
若手の竜族が武者修行と称して参加するのはよくあること。
人間側としてはそれでよしとしていた。
セブンスターズたるソフィアが毎回手助けしてくれればずいぶん楽になるのに、とは思いながら。
「この間来たときに聞いたからな。祭りがあると」
「この間?」
フィオナが不思議そうな顔になる。
「フメレスの件じゃな」
「え、あの時加勢してくださっていたのですか?」
「いや、連絡を受けて駆けつけたら終わっていた。しょうがないからセリーナのところでお菓子を食って帰ったぞ」
「役に立たない上に、迷惑までかけてんじゃねえか」
「……なんか言ったか?」
俺の小声のつぶやきはいまいち聞き取れなかったようだ。
もっとも絶対文句を言ったことは確信したようで、こちらを睨んでくる。
「そのときにこの学園祭の話を聞いてな。これは食うしかないだろうと」
竜族は大食いであり、食欲が優先される。
「何をお求めなんです?」
「もちろん色々と食うつもりじゃが、最優先はわたあめじゃ」
「やっぱり子供じゃねえか」
「誰がお子様だ!」
今度はさすがに俺のツッコミが聞こえたようで、お子様が腹を立てた。
「お、落ち着いてください」
フィオナが慌てて仲裁に入る。
爺やはその話の途中で転移で外にいっており、程なくわたあめを持って帰ってきた。
前回訪問時に好きな食べ物を聞いていたのだろう。
「はい。どうぞ」
「お、おう。なかなかやるではないか」
お子様の機嫌が直る。
「はむはむ」
ソフィアは上機嫌でわたあめを食べている。
「そういえば、結局フメレスは誰が倒したのじゃ?」
ソフィアは第四魔災の魔族を強く恨んでいる。
生き残りが居たと聞いて、是が非でも自分で倒したかったのだろう。
「俺」
俺の答えにフィオナたちが驚く。
「たぶんそうだと思ってたけど、それは答えていいことなの?」
「今更だな。わかってる奴はわかってるし、7英雄様に嘘をつくのもなんだしな」
「貴様がフメレスを倒しただと? 今の人間には勝てるような相手ではないぞ。一体何者じゃ?」
ソフィアが不審そうな顔になる。
残念ながらそれは答えられない。
答えて良いことは何か。どう説明するか。
めんどくさくなってフィオナに知っていることを説明するように指示を出す。
フィオナは渋々答えていく。
「なるほど。マグナ・カルタに謎の一文が追加されたのは貴様のせいか」
「そういうことになる」
いくら人里はなれたところでひっそりと暮らしているとはいえ、こういった情報は得ているようだ。
その説明だけで満足したのか、引き続きわたあめを食べ続ける。
「まあよくわからんことなどありえることだ。第四魔災だってそうだからな」
「人にもたらされた伝説の武器のことですね」
フィオナは腰に携えたクラウ・ソラスを見る。
「それを誰がどうやって用意したのか知っているか?」
「い、いえ」
「だろう。当事者の我らも知らんからな。細かいことを気にしていると長生きできんぞ」
「気にしなくても竜族のように長生きはできませんけどね……」
フィオナが小声でツッコんだ。
「不思議な男たちもいた。姿は人間だったが、あまりに人とはかけ離れていた」
「それって……」
フィオナは何かに感づいたようで、俺をチラリと見る。
俺は人差し指を口にあて、内緒にするようにジェースチャーで応えた。
「魔王グレモロク撃破後、何も言わずに忽然と姿を消したわ。その後の消息も不明。さすがにもう生きてはいないじゃろうなあ」
ソフィアは遠い目をする。
姿は当時とはちょっと違うが、生きてるんだなあ。
お互い会いたいと思っているのだろうか。
でもあいつらは会おうと思えば会いにいけたわけで。
それをしない以上、会おうとは思ってないのかもしれない。
この街にしばらく滞在すれば、偶然会うこともあろうが。
「ところで、ずいぶん騒がしいな」
どうも部屋の外がざわついている。
そろそろ学園祭の終わりも近いし、外に出るか。
そう考えて俺は部屋から出た。




