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112.学園祭③

 俺はソファーでのんびりくつろいでいる。

 今日は一体何の日だったか。


「学園祭見て回らなくていいんですか?」


 そんな俺を見かねてオーレッタが口を出した。


「んー。1回乗り損ねると中に入っていくのに気が引けるんだわ」


 ライブとかパーティーで、遅れたりして浮いてしまうと周りに合わせるのに苦労するのだ。

 うまく乗れればいいが、そうでない場合隅っこで一人寂しく突っ立ってるか、スマホでもいじっていることになる。

 早くおわんねーかなと思いながら。


 さっさと帰ればいいという説もあるが、今回は片付けもあるわけで。

 

 ジェコはまだまだ仕事があるとさっさと出て行った。

 あいつこういう時アクティブなんだよなー。

 女性が苦手というのは俺の影響を受けているくせに、性格は全然似ていない。

 よくわからないものだ。


「いや、ここ私の部屋なんだけどね……」


 フィオナが小声で文句を言う。

 安息の地を汚されているのが不満のようだ。

 そういわれても俺は出て行かないが。


「ここ案外居心地がいいな」

「頼むから居つかないで」

「基本誰も訪ねてこなそうな雰囲気がこの部屋にはある」

「部屋って言うか私の印象じゃないのそれ!?」


 フィオナが何かとやかましい。


「お前らだって回ってくればいいじゃん」

「なんかそんな気分でもなくなったのよ」


 フィオナもお祭りで浮くタイプだったか。

 この部屋の雰囲気を醸しだす奴が、お祭りで騒ぐわけもない。


 そんな話をしていると、予想外にも扉がノックされる。


「どうぞ」


 部屋の主であるフィオナが首をかしげながら応えた。

 やはりこの部屋に人が来るのは珍しいようだ。


 扉が開き、二人の人物が中に入ってくる。

 カンタブリッジ学園理事長セリーナ。

 そして爺やことエウリアスの2名である。


 理事長が入ってきたのを見た瞬間、フィオナは立ち上がって挨拶をする。


「セリーナ様。用がおありでしたら、言って下さればこちらから伺いましたのに」


 元々理事長と講師という関係ではある。

 しかしそれ以上の差がこの二人にはあった。

 ただの魔王を倒しただけのフィオナと、魔災の魔王を倒したセリーナでは格が違うのである。


「いえいえ。ここにアシュタール様がいると聞いたものですから」


 セリーナはにこやかな笑顔を浮かべた。


「アシュタール……様?」


 フィオナが一瞬顔をひくつかせる。

 俺を様付けすることに違和感があるのか、もしくは拒否感があるのか。

 まあ俺も彼女に様付けで呼ばれることには違和感がある。


「様なんてつけなくていいですよ。俺はいち学生なので」

「絶対にいち学生なんてレベルじゃないけどね」


 フィオナがジト目でつぶやく。


「ではアシュタールさんで。ここにいるとのことでしたので、お茶とお菓子をお持ちしました」


 爺やがテーブルにお菓子を置いていく。

 テキパキとお茶を出す用意もする。


「ここ私の部屋……」


 フィオナはとても小さな声でつぶやいた。

 もっとも邪耳(イビルイヤー)を持つ俺と爺やにはそれでも聞こえているのだが。


「そういえば先日はありがとうございました」


 オーレッタがセリーナに頭を下げる。

 ハミルトン要塞に連れ去られたときに、治療を受けた件であろう。


「いえいえ。助けたのはアシュタールさんですよ」


 和やかな雰囲気の中、一人だけ納得がいっていない態度の者がいた。

 フィオナである。


「やれやれ。俺の何がそんなに気に入らないんだか」

「気に入らないわけじゃないわよ。しっくり来ないだけ」


 なかなかめんどくさい女だな。


「フィオナさんは色々考えすぎてしまうのですよ」

「しかし、人類のためにもこの件は色々と考えるべきです」


 フィオナは真剣な表情である。


「考えたって無駄ですわ。人の手に余ることですので」

「しかしですね」

「この方々が気まぐれで人を助けているのだとしたら、次はどうなるかわからない」

「はい。ですから……」

「なら、私がいるから助けたいと思うような女になる。そう考えたほうが有意義です」

「なあぁっ」


 フィオナが顔を赤くする。


「やれやれ。まだまだ未熟なようですわね」


 セリーナがクスクスと笑っている。

 見た目は20代だけど、年季が違いすぎた。


 そこにいきなりバンッと扉を開けて入ってくる人物がいた。


「今度は誰よ」


 フィオナが投げやりに問う。

 ノックもしてこない以上、ろくな人物ではないだろうと思っているのだろう。


 入ってきたのは身長140センチメートルほどの小さな女の子。

 長い銀髪のツインテール。

 服装も子供っぽい。


 けどこの人物見た覚えがあるな。誰だったっけ。


「あー。迷子かな?」


 フィオナが屈んで話しかける。

 学園祭に遊びに来た子供だと思ったのだろう。

 

「違うわっ」


 少女は全力で否定した。


「うん。そうね。とりあえずお母さん探そっか」

「だから違うと言ってるだろうに」

「フィオナさん。その方はですね……」


 セリーナが慌てて立ち上がって挨拶をする。


「失礼しましたソフィア様」

「セリーナよ。教育がなってないようだな」


 ソフィアは尊大な態度でセリーナに接する。


「そもそも滅多に人里に下りてこないのですから、たいていの人はあなたの顔など知りませんよ」


 爺やが苦笑している。

 俺も名前を聞いて思い出した。

 ずいぶん懐かしい人物である。

 もっとも俺が一方的にイビルアイビジョンで見ていただけであるから、あちらはこちらを知らないわけだが。


「ふん。ならば我の肖像画を世界中においておくべきだな。このドラゴンプリンセス、ソフィアを忘れるとはけしからん」


 第四魔災の7英雄――セブンスターズ。

 もっとも実質的にはファイブスターズではあるが。

 その唯一の生き残り、竜族の姫であった。

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