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111.学園祭②

 ふう。燃え尽きちまったよ。

 俺はそんなポーズで椅子に座っていた。


 学園祭はすでに始まっているようで、非常に騒がしくなってきている。

 が、まだ俺は動き回る気力が出てこない。


「アシュタール様?」


 驚いた表情で声をかけてきたのは、冒険者ギルドの受付嬢オーレッタである。

 いつものりりしいレディーススーツではなく、デニムにシャツ。

 それにカーディガンを羽織っていた。

 

 俺はオーレッタに力なく頷く。


「なんか燃え尽きたような感じね……。学園祭が始まってまだそんなに時間が経っていないというのに」


 オーレッタの隣には勇者であるフィオナがいた。

 二人は仲良しなのである。


「まあ色々あったんだ。色々とな」


 俺は疲れきった声で告げた。


「休むにしてもこんなところじゃなんでしょうし、場所を変えませんか?」


 オーレッタの提案にフィオナが眉をひそめる。


「そこ私の部屋だけどね……」


 フィオナはカンタブリッジ学園の非常勤講師として働いている。

 その非常勤講師にすぎない彼女に個室が与えられていた。

 勇者であるが故の厚遇である。


 俺はオーレッタに手を引かれ、移動した。

 部屋にはソファーがあり、そこに横になる。


「この化け物にこれだけのダメージを与えられる方法がなんなのかは気になるわね」


 ひどい言われようだが、今の俺にフィオナに反論する気力はない。

 あと肉体へのダメージは0だ。


「聞いたとしてもお前には不可能だがな」


 前置きはしたが、別に隠すようなことではない。

 聞きたがっているようなので一部始終を伝えた。


「それ聞いたことあるわね……」

「あんのかよ」


 俺はツッコム。


「国王陛下の誕生日に手料理をご馳走して撃沈させたらしいわ」

「南無」


 愛する娘が作った料理を食わないという選択肢はなかったのだろうな。

 しいて言えばそれ以上被害者を増やさないように、料理を禁止にしておいてほしかった。

 法律とかで。


「そういう事情でしたら、軽食でよろしければお口直しをしませんか」


 オーレッタがバッグから弁当を取り出した。


「なんで出店や喫茶店がある学園祭に弁当持参なんだ」

「こんなこともあろうかと」

「オーレッタは自炊派だから」


 しかしさっき一応朝食をとったばかりなわけで。

 そう思って時計を見ると、もう昼の時間が近づいてきていた。


「あれ? もう昼?」

「そうよ。あなた何時間あそこに座っていたの?」


 フィオナに問われるが、全く記憶がない。


「ほとんど覚えていない。恐ろしい」


 俺は体を震わせた。


 オーレッタの弁当はサンドイッチに卵焼き、タコさんウィンナーといったありきたりなもの。

 それを見て俺は頷く。


 これでいいんだよ。

 プロじゃないんだから独創的な創作料理とかするんじゃねえ。

 本末転倒じゃねえか。


「うまい……」


 俺はおいしい手料理というものを味わっていく。

 心が満たされていくようだ。


「泣くほどのことなのかしら」


 フィオナが呆れていた。


「こ、こんなのでよろしければ毎日でも作りますが」


 オーレッタがおずおずと提案するが、俺は首を横に振った。


「いや、そこまでしてもらうのも気が引けるな」


 気力が回復すると俺は我に返る。

 俺の今日のスケジュールはかなりタイトだったはずなんだが。

 今のところスケジュール完全無視である。


 ジェミーはもう今日は復活できないからいいとしても、他の3人はどうしているんだろう。


「クラスがどうなったのかが気になる」


 俺がつぶやくと、フィオナがやれやれといった感じで学園の職員を使って調べさせた。


 しばらく待つと、報告の者が現れ扉をノックする。


「入りなさい」


 フィオナが促すと、入ってきたのは作業服を着た見知った男。

 ジェコであった。


「なんであなたが……」


 フィオナが怪訝そうな顔になる。

 ジェコはこの学園の職員――用務員だからな。

 フィオナが頼んだ職員がジェコに頼んで、それでジェコが動いたということだろう。


 ジェコは俺たちを見て固まる。

 正確に言えば、フィオナがいるからどう対応していいかわからないのだろう。


「フィオナも大体の事情は知っている者だ。普通にしていいぞ」


 俺が告げると、ジェコは金縛りが解けたように(ひざまづ)く。


「で、ではクラスの様子ですが、どうやら大混乱のようです」

「またなんかあったのか?」

「最初は大盛況だったようで、違う意味で混乱していたようです」

「お姫様喫茶という企画は大成功だったか」

「まああの子たちがいるんなら、そりゃ男が殺到するでしょうよ」


 フィオナが当然という風に語る。


「そういう状況だったわけですが、とある客が『お姫様の手料理は食べられないのか』と言い出しまして」

「おい止めろ。死ぬ気か」


 俺の忠告はすでに遅い。

 この報告は過去の話なのだから。


「すでに手遅れね」


 フィオナもさじを投げた。


「私にはよくわかりませんが、近くの空き教室を臨時の救護所として活用しているとか。次々に患者が運び込まれているようです」


 ジェコは首をかしげながら答える。

 何が起きているのかわからないのだろう。

 わからせるにはまあ料理を食わせればいいんだが、理由もなくそんな罰を与えるのもなんなので。


「今教室にいったら絶対騒動に巻き込まれるな」

「それはそうでしょうね」


 オーレッタが頷く。


「もうしばらくここでマッタリしてるか」

「いや、ここ私の部屋だけどね……」


 フィオナの苦情を俺はスルーした。

 アイリスは治療に大忙しだろう。

 ティライザは治療を手伝っているか、それとも隙をみてクラスから逃げ出したか。

 

 もう少し落ち着いたら顔を出そう。

 そう考えていたのだが、騒ぎは収まる気配を見せないのであった。

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